May 2, 2019 / 12:19 AM / 21 days ago

特別リポート:中国が海軍力増強、崩れる太平洋の軍事均衡

[30日 ロイター] - 台湾が史上初の総統直接選挙に沸いた1995年半ばから96年春にかけ、中国は再選を目指す李登輝ら台湾独立派をけん制するため、台湾近海でミサイル発射訓練などを強行した。

後に三次台湾海峡危機と呼ばれた緊張の中で、米国は2つの空母打撃群を同海峡に派遣。強大な軍事力を誇示する米空母群の存在は中国を圧倒し、その後ろ盾を受けた李は54%の得票率で当選を果たした。

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しかし、その後、米国の動きは様変わりし、今は中国への不用意な刺激を避けるかのように慎重だ。

米側は過去11年間、同海峡に空母を派遣していない。今年4月28日、米国は昨年7月以来、7度目となる派遣を実施したが、同海峡を通過したのは2隻の駆逐艦だけだった。

一方、中国国家主席の習近平には、ためらいは見られない。今年1月2日、習は、台湾に武力解放ではなく平和統一を呼びかけた「台湾同胞に告げる書」の40周年記念の式典で演説し、台湾支配を回復するために必要ならば武力の行使も辞さないとの厳しい姿勢を改めて明確にした。

「トランプ政権はジレンマに直面している」と、台湾戦略学会の研究員で元海軍大尉の張競は語る。「米国としては中国の誤解や過剰反応を避けたい。そのために巧妙に調整されたシグナルを送ろうとしている」と指摘した。

<塗り替わる太平洋の勢力図>

1990年代以降、中国はわずか20年余りで世界最大の海軍力を確立し、いまや南シナ海、東シナ海、黄海という三つの海域で制海権を手中にしている。その勢力拡大のスピードは他のすべての国の海軍を凌駕しており、習の願望どおり、中国は太平洋における軍事的な勢力図を大きく塗り替えつつある。

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国際戦略研究所(IISS)が昨年5月に発表した分析によると、2014年以降に中国が建造した軍艦、潜水艦、補給艦、主要揚陸艦の数は、ドイツや英国の艦隊を含む数多くの主要国海軍に所属する艦艇数を上回る。IISSによると、中国は2015年から2017年の間に建造した艦艇の総排水量は約40万トンに達する。米国の約2倍に相当する規模だ。

米欧の海軍アナリストは、中国海軍が現在、約400隻の水上艦と潜水艦を保有すると指摘。米海軍大学の2016年の研究によると、その数は2030年までに530隻以上になりうると予想されている。

これに対し、冷戦終結以来、世界で海上優勢を保持してきた米海軍が保有する水上艦と潜水艦は、今年1月末時点で287隻(米国防総省)とされる。

「われわれは長い間、中国を甘くみていた。こちらが手をこまねいている間に、海軍軍備競争を始めさせてしまった」と、米海軍大学教授を務める元海上戦司令部幹部、ジェームズ・ホルムズは語る。

ソ連時代の艦体を改修した中国の空母「遼寧」を護衛する中国艦隊。南シナ海で昨年3月撮影。提供写真(2019年 ロイター/Planet Labs/Handout via REUTERS)

<屈辱はもう繰り返さない>

新しい軍艦の華々しい登場は、習近平が自らの指導力を誇示する強力な武器となる。近代的な空母、駆逐艦、潜水艦の相次ぐ建造を目の当たりにして、中国国民は習が語る「中国の夢」が実現に近づきつつあることを実感する。

2012年末の就任直後から、習は海軍基地への訪問や流線型の新型軍艦での航海に余念がない。今年4月、南シナ海で行われた大規模な海軍演習には48隻の艦隊が参加した。国営メディアによると、これらの艦艇の半数は、習氏が政権を握ってから配備されている。

屈辱の歴史はもう繰り返さないー。1839年の第一次アヘン戦争で始まった欧州列強による支配や日本軍の侵略に蹂躙された過去とは決別し、警戒を怠らない強力な海軍が習の指揮のもとで中国を守る。こうしたメッセージが中国国民には繰り返し語られる。

中国の子どもたちは学校で、近代的な海軍を持たなかったことが過去の惨禍を招いた一因だと教えられる。不名誉なことに、清朝末期、西太后は海軍近代化のための資金を新しい夏の宮殿建設に流用した。日清戦争で、中国艦隊が台頭する日本海軍に大敗を喫したのは、これが理由の一つだと学童たちは肝に銘じる。

写真左:香港返還から19年を記念した一般公開日に、習近平国家主席の写真が掲げられた船内を見る中国人民解放軍(PLA)の海軍兵士ら;写真右:南シナ海スプラトリー(中国名・南沙)諸島でパトロールする中国軍兵士ら。石碑に「南沙は神聖かつ不可侵なわれわれの領土である」と書いてある(2019年 ロイター)

習の海軍重視は、建国以来の最大規模となった人民解放軍の改革で鮮明に示された。習は伝統的な陸軍中心主義を改め、5つの戦区の一つ、南部戦区を取り仕切る司令いう重要ポストに袁誉柏海軍中将を任命した。陸軍以外の将校としては前例のない抜擢だった。

予算配分についても、海軍増強が鮮明だ。昨年、軍事情報サービスのジェーンズが米中経済安全保障検討委員会からの委託でまとめた報告書は、中国の軍事支出が2021年までの間に、2015年の1679億ドルから2608億ドルへ55%増加すると予想。海軍向けの伸びはとりわけ大きく、314億ドルから571億ドルへ82%も増えるとみられている。

現時点では、中国の軍艦の多くは高速ミサイル艇を含む比較的小型の船舶だ。しかし、米国、台湾、オーストラリアの退役軍人らによると、中国の造船所が進水させている水上艦は艦船の規模、品質、能力ともに、外国のトップレベルとの差を縮めつつある。大型潜水艦や原子力潜水艦も急速に進歩しているという。

習には、海軍を世界規模で中国の利益を守る真のグローバルな軍隊にする、という構想がある。2015年に発表した国防白書は、海軍の活動を「近海」の防衛から「遠海」での作戦に徐々に移行させる方針を打ち出している。

<中東やアフガンの緊張とは異なる構図>

 4月30日、1990年代以降、中国はわずか20年余りで世界最大の海軍力を確立し、いまや南シナ海、東シナ海、黄海という三つの海域で制海権を手中にしている。写真は2016年、広東省湛江市で行われた中国とロシア海軍の合同演習(2019年 ロイター)

中国の最高の駆逐艦、フリゲート艦、高速攻撃艇、潜水艦には対艦ミサイルが搭載されており、米海軍の幹部らによると、それらのほとんどは米軍艦のミサイルよりも射程距離が長く、性能も優れているという。打撃力については、中国海軍はすでに米軍よりも優位に立っているとの見方もできる。

北東沖での実弾演習中にミサイルを発射する中国の艦艇。2017年8月撮影(2019年 ロイター)

「(中国との紛争は米国に)甚大な損失をもたらす事態となることを私たちは想定していなかったし、米国民にはその備えができていない」。トランプ政権の防衛戦略見直しを行った米議会の超党派部会で共同議長を務めた元海軍作戦部長、ゲーリー・ラフヘッドは、ロイターとのインタビューでそう語り、中国近海での紛争は、米国が空と海で圧倒的優位に立っていた中東やアフガニスタンでの戦争とは大きく異なる、とも指摘した。

もちろん、米国や同盟各国も、中国海軍の台頭、そしてロシアの海軍力復活を座視しているわけではない。

2017年12月、米国では海軍力を強化して国土を守る法律(Securing the Homeland by Increasing our Power on the Seas Act、通称SHIPS法)が成立し、主力艦艇を355隻以上保有するという目標が設定された。射程の長いミサイルを早期配備するなど新兵器の開発も加速している。米国の主要同盟国である日本、韓国、オーストラリアも、新型の艦艇や潜水艦を導入し海軍力の強化を図っている。

<中国の悩みはコスト膨張、技術力でも立ち遅れ>

これに対し、中国の退役軍人や共産党指導部と関係のある人々は、中国の海軍力は本来、防衛が目的であり、米国の敵対行為に対抗するために増強が必要になっている、と主張する。

「制空権と制海権をもたなければ、紛争の際に中国海軍の艦艇は標的にされてしまう」と中国人民解放軍のある退役将校は言う。「東南アジア諸国にとって、中国の海軍は威圧的に映るかもしれないが、その能力の対象は中国近海に限られている。まだ公海で軍事力を行使できるような存在ではない」と語る。

中国海軍力の評価についても、総合力ではまだ米海軍にはるかに及ばないとの見方もある。米中両国の軍事当局者によると、米国は11隻の空母、約90隻の強力な水上艦、約70隻の原子力潜水艦を保有しているほか、軍事技術についても当面は中国よりも優位を維持する可能性が高い。

中国海軍の元士官の一人は、匿名を条件に「中国海軍は米海軍より少なくとも30年は遅れている」と語り、中国海軍はまだ米国にとって恐れるに足る存在ではないと評した。

内外の専門家が指摘する中国海軍の問題点の一つは莫大なコスト負担だ。造船業界によると、艦艇を保有するコストの総額は、維持費や修繕費を含めると、初期費用の3倍に達する。

技術面でも米国に追いついていない分野がある。国連軍備登録制度に基づくデータによると、中国の造船所はいまだに一部のエンジン、武器、センサーを海外メーカーから調達している。米国では軍事機密を窃取したとして中国人が逮捕される事件が相次いでいるが、その背景には中国海軍のレーダー、水中センサー、その他の電子技術が不足しているという実態がある、との指摘もある。

さらに、中国や欧米の軍事専門家は、潜水艦に対する戦闘能力について、中国の立ち遅れを指摘。さらに、中国海軍は台湾に上陸して侵攻するための揚陸艦の作戦能力が欠如しているとみる。

<中国本土が「不沈空母」に>

しかし、周辺海域だけを見れば、中国海軍は優勢を確立している。

米海軍は、世界各地に基地を置き、中東などの紛争地域での作戦参加や海上輸送路の防衛などをグローバルに展開している。これに対し、中国海軍は近海支配が最優先だ。基地はすべて自国内の沿岸にあり、兵站に近く、地上配備のミサイルや攻撃機の援護を十分に受けながら敵の艦船を撃沈することが可能だと米中の軍事アナリストはみている。

近海での紛争においては、中国自体が「不沈空母」になるともいえる。中国は日本列島から台湾、フィリピン、マレーシアのボルネオ島までつながる戦略的防衛ライン「第一列島線」までの海域に全面展開することも可能だ。

1996年初めにクリントン米大統領(当時)が台湾海峡に空母艦隊を派遣した第3次危機の際は、中国側にこのような態勢が整っておらず、米艦隊の航行を傍観するしかなかった。

あの時の屈辱が中国の転機となった、と中国および西側の海軍将校は指摘する。同危機の後、中国は、米国の空母など外国の戦艦を撃退できる超音速対艦ミサイルを搭載したソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦2隻をロシアに発注。さらに2隻を同国から購入している。

上海、大連、武漢の主要造船所の衛星写真は、建造段階の異なる艦艇や潜水艦がひきめしあっている様子を示す。2017年6月以降、大型ミサイル駆逐艦055型が4隻進水した。055型は米などの最新鋭艦に匹敵すると米中軍当局者は指摘する。

中国人民解放軍は、台湾や尖閣諸島(中国名:釣魚島)などの上陸を念頭に水陸両用戦闘能力も増強。米国防総省が2018年8月に発表した 「中国の軍事動向に関する年次報告書」 は、海軍陸戦隊は2020年までに3万人規模になると予想している。

<台湾や尖閣諸島などに上陸の可能性>

「中国の夢」を象徴する海軍力の増強には、新しい話題が尽きない。

中国国営メディアによると、2隻目となる中国の国産空母が今年2月27日、大連から5回目の試験航海に出航した。4月23日には山東省青島港の北海艦隊司令部の沖合で海軍創設70周年記念の国際観艦式が開かれ、1万トンを超すアジア最大級の新しい055型駆逐艦「南昌」が初公開された。

同25日、中国軍は、南昌がほとんどの海上試験を完了し、まもなく実戦配備されると発表した。

人民解放軍は近代的な大型揚陸艦の部隊を構築しており、中国が台湾や尖閣諸島などに上陸する可能性もある。人民解放軍は水陸両用の海兵隊の訓練も拡大している。米国防総省が先月発表した 「中国の軍事力に関する年次報告書」 によると、中国の海兵隊は2020年までに3万人規模になる見通しだ。

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 (日本語版編集:北松克朗、武藤邦子)

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