[上海 29日 ロイター] - 100年前に毛沢東氏とその他12人が中国共産党を結党した上海の住宅を最近訪問した習近平国家主席。習氏はここで、共産党中央政治局の先頭に立ち、党と人民のために「すべてを犠牲にする」と述べて党員の基本原則を守る誓いを立てた。
1921年に辺鄙(へんぴ)な中庭だったこの地は現在、豪奢な記念館に生まれ変わっている。ここが7月1日に予定される中国共産党結党100周年記念行事の中心地だ。
第1回党大会が開かれたこの場所は今、中国の歴史を記録している。軍事指導者や帝国主義者らの手によって中国が「辱めを受けた」過去から、20世紀初頭の「覚醒」、そして共産党が1949年に内戦に勝利して蔣介石氏率いる国民党軍を台湾へと追いやって以降、中国が復活を遂げた歴史だ。
記念館には、さらに広大な構想が反映されている。国内外に向けたメッセージを増幅し、「神話作り」をするプロジェクトだ。これは習氏が今月、中国について一段と前向きな物語を伝えよと号令を発したことに呼応する。
もっとも、中国は祝福行事の裏で暗い歴史を消し去ろうとしている。
感動的なモンタージュ動画は、中国が初めて開発した原子爆弾から、威容を誇るインフラの建設、最近の火星探査機着陸など、中国が誇る実績を映し出す。
一方で無視されているのは、数百万人の死につながったとされる20世紀の大きな動乱だ。1958年から60年にかけての「大躍進政策」による飢饉、1966年から10年間にわたる「文化大革命」の混乱、1989年の天安門事件―。
英ブリストル大の歴史家、ロバート・ビッカーズ氏は「(中国共産党には)忘れなければならない歴史が数多くある」と言う。「この100年間を通じ、(党として)意見が一致した歴史記録を作るために多大な努力を捧げてきた。それは祝福できる内容とする必要があった」
<歴史的虚無主義>
中国共産党は長年、歴史をコントロールしようと模索してきた。習体制の下でその取り組みは一層強化。習氏は、過去の出来事を理由に共産党の主導的な役割や、中国の社会主義の「必然性」に疑問を投げかけようとする「歴史的虚無主義」に反対する運動の陣頭指揮を取ってきた。
中国社会科学院は、「公式版の歴史」を広げるための特別部門を設置。政府は今年、市民が歴史的虚無主義の事例を当局に通告するためのホットラインを設けた。
米スタンフォード大フーバー研究所の歴史家、グレン・ティファート氏は、この運動が共産党の不安定さを反映していると話す。中国共産党体制が旧ソ連のように崩壊するのではないか、という習氏の恐怖心にも根差しているという。
ティファート氏は「習氏は最初からその点を特に心配していたようだ」と指摘。現在行っていることは、党の権威を再構築して旧ソ連共産党の二の舞を避けるための、体系的、統合的アプローチの一環だと話した。
しかし記念館を見学すると、中国共産党が当初の理念から随分とかけ離れた場所に来たことが分かる。
記念館は党最初の10年間を、毛沢東氏の思想の勝利として描写しているが、その後、党が毛氏時代の集産主義を捨てて市場改革を進めることにつながった理論上のねじれについては一切言及がない。
上海日報が今月発行した党についての「事実と数字」集は党の理念にほとんど触れず、党の使命は「中国の人民の幸福と、国家としての中国の活性化を追求すること」だとしている。
ティファート氏は「もはや問題は共産主義を信奉することではなく、厚生を届けることになっている。そして、それを維持するために失敗をすべて覆い隠したいのだ」と語った。
(David Stanway記者)
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