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コラム

コラム:中国債務危機、次の火種は地方政府 裏付け弱い資金調達も

[香港 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国で最も手ごろな価格で不動産を取得できる地域の1つは、ロシア国境沿いに流れるアムール川の南岸だ。北京なら寝室2つのマンション1戸の平均価格は100万ドル(約1億1500万円)だが、当地の鶴崗市は同じタイプが1万ドルで買える。その鶴崗市の地域経済は炭鉱からの収入ほぼ一本に依存しており、ここ何年も青息吐息が続いていたが、新型コロナウイルスのパンデミックでついに引導を渡されてしまったようだ。昨年12月23日に同市は、職員の新規採用を凍結し、財政再建に乗り出すと発表した。恐らく中国の地方都市で初めてのケースだろうが、そうした事態が同市だけで終わる公算は乏しい。

 1月10日、中国では民間不動産会社の社債や買掛金のデフォルトが発生しているところに、地方政府の資金調達機関として評判が芳しくない融資平台(LGFV)が、次に相次いで破綻に直面する恐れがある。2021年11月、北京にある佳兆業集団のマンション建設現場で撮影(2022年 ロイター/Thomas Peter)

中国沿岸で強力な輸出セクターを擁する幾つかの省は、コロナ禍を比較的うまく乗り切ることができた。しかし内陸部の地方政府は経済的に非常に大きなストレスを受けている。中央政府が不動産市場の抑え込みを決めたことは、状況を悪化させる一方となった。この決定が中国恒大集団などの住宅建設業者によるデフォルト(債務不履行)の契機になっただけでなく、土地売却を冷え込ませたからだ。平均で地方都市の歳入の3分の1は、土地売却がもたらしていると推定されている。

つまり足元で民間不動産会社の社債や買掛金のデフォルトが発生し、手掛けた開発物件が未完成のままになっているところに、地方政府の資金調達機関として評判が芳しくない融資平台(LGFV)が、次に相次いで破綻に直面する恐れがある。昨年4月に明らかになった国務院の文書では、返済能力をなくしたLGFVは清算できるようにすべきだとの見解が示された。ゴールドマン・サックスが試算した2020年末のLGFVの債務残高は8兆ドルと、中国の国内総生産(GDP)の半分程度に相当する。昨年段階で、中国のオフショア市場での最大口発行体も不動産開発会社からLGFVに入れ替わっており、今年中にLGFVのドル建て債310億ドルが満期を迎える。

LGFVは政策上の必要から生まれた異質の存在だ。本来は2008年の世界金融危機の際に、中央政府の地方政府に対する直接の資金調達禁止通達をすり抜ける目的で設立され、各地方は速やかに景気刺激のための借金ができるようになった。そして現在は、公的な目的のために創設されながら、法令面で何の裏付けもないという中途半端な領域に置かれている。多くのLGFVは、行き先がない道路や空っぽの飛行場といった価値があるのか疑わしい資産を抱える。

2015年の地方債市場改革はこれらLGFVを不要とするのが狙いだったが、結局LGFVは姿を消すどころか、引き続き民間に売却する前の最初の土地開発事業に深く関わっている向きが多い。そのため土地売却入札が停滞し、地価上昇が鈍ったことの影響をまともに受けてしまった。LGFVの債務の多くは、「理財商品」に組み直され、一般の人々にも販売された。LGFVは、中小銀行の大口の借り手でもある。

S&Pグローバル・レーティングによると、昨年低迷した中国の土地売却は今年さらに20%落ち込む見通し。中央政府は最近、国有企業のデフォルトを容認している上に、多くのLGFVは明らかに収益性がなく、企業統治に疑念がある。それでも一部の投資家は、自分たちが保護されるとの確信を捨てていない。中国の格付け会社は、非常に信用力の弱いこうしたLGFVに投資適格の格付けを付与している、とクレジットサイツが昨年11月に分析結果を公表した。

今月になって、直前まで投資適格とされていた不動産開発大手の世茂集団が突然デフォルトに陥ったように、豊かな地方のより利回りが低い債券が適正な価格で取引されていないリスクもある。西安から天津まで新型コロナ感染が再拡大している中では、問題の先送りも難しくなるばかりだ。甘粛省の省都、蘭州では年内に140億元(22億ドル)のLGFV債が償還予定で、S&Pによるとこの金額は蘭州市の2021年度歳入のほぼ半分に当たる。中国メディアが伝えるところでは、規制当局はLGFVの国内債発行に上限を設け、比較的貧しい地域での起債を阻止しようとしているので、既発債の借り換えも今以上にままならなくなるだろう。一部のLGFVは資産売却を試みるとしても、一筋縄ではいかないのではないか。

中央政府からすると、経済全般がふらついてきている現在、不動産セクターと同じように地方政府セクターでも最も弱い部分に対してどこまで厳しく対応できるかという問題が出てくる。中央政府が成長てこ入れを望むなら、地方政府が適切な役割を果たすことを当てにしなければならない。確かに一部の地方には、インフラ投資に使途を特定した債券の発行で資金を調達できる力はある。だが単に生き残り続けるための命綱が必要な地方も出てくる。いずれにしても投資家や金融機関は、今後用心するに越したことはない。

●背景となるニュース

*中国の民間不動産調査機関、中指研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)の6日付リポートによると、中国の主要300都市の2021年における土地売却は面積ベースで前年比17%減少した。価格ベースでは9%の下落だった

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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