January 3, 2018 / 2:28 AM / a year ago

焦点:パキスタン海洋拠点に賭ける中国、巨額投資の落とし穴

[グワダル(パキスタン) 17日 ロイター] - パキスタン南西部の小さな港町グワダルに、中国は惜しみなく巨額の援助を与えている。地元住民の心をつかみ、商業用の深水港を建設するためだ。しかし米国とインドは、この港がいずれ軍事用に利用される可能性があると危惧している。

12月17日、パキスタン南西部の小さな港町グワダルに、中国は惜しみなく巨額の援助を与えている。写真はグワダルの港。10月撮影(2018年 ロイター/Drazen Jorgic)

この埃っぽい港町に、中国は学校を建設し、医師を派遣。さらに約5億ドル(約565億円)の無償資金協力を通して、新たな空港や病院、大学、そして切実に必要な水道インフラを整備すると約束している。アラビア海に突き出たグワダルの港は、石油や天然ガスを運搬するタンカーが往来する、世界で最も混雑した航路に面している。

この無償資金協力には、新国際空港の建設費2億3000万ドルが含まれており、これは中国が海外で行う支援の中でも最大級のものだと研究者やパキスタン当局者は指摘する。

グワダルにおける中国の積極的な支援姿勢は、他国で見せる普段のアプローチから一線を画しているかねてより西側諸国の援助スタイルを軽蔑する中国は通常、国営商業銀行や開発銀行を介した融資提供によるインフラ整備プロジェクトを重視してきた。

「これほど無償資金協力が集中していることに、本当に驚いている」と語るのはシンクタンクのジャーマン・マーシャル・ファンドに所属し、ワシントンで活動する研究者アンドリュー・スモール氏だ。「中国はこれまで援助や無償資金協力をほとんど行わず、それらを実行する場合でも小規模になりがちだった」

パキスタンは諸手を挙げて中国の援助を歓迎している。

だが中国政府の異例な太っ腹ぶりに対し、グワダル投資は海洋における米国の優位に挑戦するために中国が画策する将来的な地政学的戦略の一環ではないかと、米国とインドは疑念を募らせている。

「中国の多くの人々にとって、長期的にグワダルが単なる商業的な対象ではないことを示している」と中国・パキスタン関係について著書もあるスモール氏は語る。ロイターはこの件について中国外務省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

グワダルは「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」の要石になると両国政府は考えている。CPECは、アジア、欧州、アフリカの60カ国にまたがる陸上と海上の交易路として新たなシルクロードを築こうと目論む中国の「一帯一路」構想の主要部分を占めている。

この計画ではグワダル港を貨物積み替えのハブとして変貌させ、経済特区と隣り合わせる巨大な港湾を建設、そこから輸出産業が世界各地に製品を出荷することを目指している。エネルギー資源用パイプラインや道路・鉄道網によって、この港町は中国西部地域と接続される。

港湾貿易量は2018年の120万トンから、2022年には約1300万トンに成長するとパキスタン当局者は期待する。港湾には新たなクレーンが3基据え付けられ、来年には浚渫(しゅんせつ)工事によって、港湾の水深は5カ所の埠頭で20メートルに達する予定だ。

だが、純然たる課題も残っている。

グワダルでは上水道が利用できず、停電も日常茶飯事だ。反体制的な分離独立主義者がこの中国プロジェクトに攻撃を仕掛ける可能性も示唆している。また、この町を含むバローチスターン州は豊富な鉱産資源を有するが、依然としてパキスタン国内における最貧地域だ。

治安状態は厳しく、中国人など外国からの訪問者は、兵士や武装警察の車列とともに移動している。

中国政府は、同州民が部外者に対して抱く不信感を取り除こうと努めている。現地のバローチ族は、他の民族集団や外国人の流入を警戒している。住民の多くは、変化のペースが遅すぎると語る。

グワダル選出の州議員Essar Nori氏は、「地元住民が完全に満足しているわけではない」と述べ、分離独立主義者がそうした不満につけ込んでいると付け加えた。

パキスタン当局者はグワダル住民に忍耐を求め、飲料水を確保するための脱塩プラントと発電所を早急に建造すると約束している。

<過去の教訓>

中国によるパキスタンでのグワダル計画は、スリランカにおける類似の取り組みとは対照的だ。スリランカでは、南部のハンバントタ港が複合港に変貌したが、中国に対する債務を背負った。

スリランカは12月、債務軽減と引き換えに、港湾の運営権を99年間のリース物件として中国に譲渡。この措置は多くのスリランカ国民から主権侵害と受け止められ、街頭での抗議行動を招いた。

ハンバントタ港は、グワダルと同様、中国がアジアとアフリカで開発する港湾ネットワークの1つであり、増大する中国の海軍力によって包囲される可能性を恐れるインドを苛立たせている。

もっとも、パキスタン当局者は、債務がはるかに少ないグワダルのプロジェクトを、ハンバントタと比較するのは不適切だと語る。

パキスタン政府文書と当局者によれば、グワダルにおける中国の援助は、新空港以外にも、病院ベッド数250床追加に1億ドル、水道インフラ更新に1億3000万ドル、さらに技術・職業訓練大学向けの1000万ドルなどが含まれている。

「こうした支援を歓迎する。グワダル住民の生活の質を良い方に変えてくれるものだ」。そう語るのは、グワダルを含むCPECを監督する議会委員会の委員長を務めるMushahid Hussain 上院議員だ。

CPECの仕組みの下で、どのプロジェクトを実施するかについては中国とパキスタンが一緒に選択している、と同議員は語る。

新空港について中国側は7000メートルの滑走路を提案したが、パキスタン側はエアバス380の離着陸が可能で、軍用にも使える1万2000メートルの滑走路を主張した、とグワダル開発公社のディレクター、Sajjad Baloch氏は述べた。

グワダルで約束した無償資金協力の規模は異例だ。そう指摘するのは、米ウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所のブラッド・パークス所長だ。同研究所は2000年から2014年にかけて、中国が140カ国向けに行った援助データを収集している。

人口10万人に満たないグワダルに対し、中国は2014年以来、総額8億ドルに上る無償資金協力と譲許的融資を約束。それ以前の15年間に、人口2億700万人を抱えるパキスタンの国全体に向けて中国が提供した援助総額は約24億ドルだ。

「中国のパキスタンにおける過去の行動を基準にしても、グワダルは突出している」とパークス所長は語る。

<心をつかむ>

グワダル住民の心をつかもうとする中国側の努力が実りつつある最初の兆候が現れている。

「バローチスターン州は遅れており未開発だ。だが中国が進出してきてから、開発が進んでいる」。そう語るのは、食料品店を営む45歳のSalam Dashtiさんだ。2人の子どもは、中国が建設した新しい小学校に通っている。

だが、先行きには大きな落し穴も待ち構えている。

港の近くで暮らす数万人の人々は移転を強いられるだろう。

彼らは今のところ細い半島にある、潮風に侵食されたコンクリート製の粗末な平屋で暮らしている。裸足の漁師たちが、ゴミの散らかった新たに舗装された道路で獲物を下ろしている。漁師の多くは、港湾が稼働し始めたら生計を立てられなくなるのではないかと心配している。

地元住民が、少数派に転落するのではないかと懸念するのも無理はない。今後数十年でグワダルの人口は15倍以上に膨れあがると予想されているのだ。町の端では、土地投機業者が建設するマンションが砂丘の脇に次々に出現している。

これまでのグワダル港湾開発プロジェクトが失敗してきた理由の一端が、バローチ族の分離独立主義派による治安上の脅威にあることを中国は認識している、とアナリストは分析。バローチスターン州の搾取が中国の狙いだと主張する反体制派の言説に中国は対抗しようと試みているという。

「このことが中国人の心に重くのしかかっている。地元住民の支持を高めることによって自らの投資を守ろうとしているのは、ほぼ真実だと言えるだろう」とパークス所長は語る。

一方、中国当局者も、自国が出資するインフラ整備プロジェクトを宣伝している。「毎日、新たな変化が見られる。グワダル開発に向けた中国側の誠意が表われている」と、イスラマバードの中国大使館で首席公使を務めるLijian Zhao氏は11月、ツイートした。

<海軍利用の可能性>

グワダル投資の対価として、40年後にパキスタンに返還するまでのあいだ、中国は港湾収入の91%を受領する。さらに中国の運営事業社は20年以上にわたり主要な税金を免除される。

中国による今回の進出は、過去2世紀のあいだに、ロシアと英国、そして後に米国とソ連がペルシャ湾に面した不凍港の支配権を争ったときとは対照的だ、とパキスタンのHasil Bizenjo海運担当大臣は語る。

「中国人は非常にスムーズに進出し、不凍港を手に入れた」と同大臣はロイターに語った。「不凍港を獲得するためなら、彼らの投資など微々たる金額だ」

米国防総省の報告書は7月、グワダルが中国の軍事基地になる可能性を指摘。インドもやはり懸念を表明しているが、中国政府はそうした発想を否定している。

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「中国がパキスタンに軍事基地を建設しているなどという話は、単なる憶測にすぎない」と中国国防省の報道官は言う。

パキスタン当局者も、中国からグワダルを海軍が使うために利用したいという要請を受けたことはないと話している。「この港湾はもっぱら商業的な用途で使われることになるだろう。今後20年で、世界がどうなるか次第だが」と海運担当大臣は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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