for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up
コラム

コラム:中国台頭と衰退恐れる米、軍事衝突回避を

[ロンドン  21日  ロイター] - 経済史研究で知られるジョエル・モキイア氏は1990年の代表的な著作「豊かになる手段(The Lever of Riches)」で、生まれたばかりの赤ん坊が将来どの程度の生活水準を享受できるかは、赤ん坊の生まれた場所次第という偶然性に最も左右されると論じた。20世紀後半に北米と西欧で生まれた子どもたちは、中南米やアフリカ、アジアと比べると、宝くじに当たったようなものだというわけだ。

10月21日、経済史研究で知られるジョエル・モキイア氏は1990年の代表的な著作「豊かになる手段(The Lever of Riches)」で、生まれたばかりの赤ん坊が将来どの程度の生活水準を享受できるかは、赤ん坊の生まれた場所次第という偶然性に最も左右されると論じた。写真は2019年6月、大阪で会談するトランプ米大統領と中国の習近平国家主席(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

だが過去30年にわたって中国の所得水準が急速に拡大してきたことで、北米と西欧の相対的な優位は脅かされ、消費やエネルギー、貿易、投資、旅行、軍事支出などのシェア配分を巡って世界の構図は変わりつつある。

北米と西欧の労働者や有権者、政策担当者にとって、そうした所得と消費、国力のバランスの変化は自分たちが「落ち目」だとの感を強め、どう対応すべきか深刻な意見対立を招いている。

<英国の衰退>

19世紀終盤と20世紀初め、英国の政治指導層はやはりこうした衰退の不安にさいなまれた。最初はドイツと米国の台頭、そして第2次世界大戦後はドイツと日本の復興が原因だ。

英国は世界で最初に産業革命を経験した。その後他国が追随する中で、政策担当者は「先行者利得」を取り戻す作戦を必死で探したが、結局そんなものはどこにもなかった。

1950年代と60年代に英国の実質所得と消費は実際のところ、過去最速のペースで拡大していたのに、政治指導者たちは他国がより急成長している姿に恐れおののいたのだ。これらの国の出発点の経済水準は、ずっと低かったということがあるにもかかわらずにだ。

英国が身をもって知ったように、先行者利得は決して永続せず、実際、他国がより豊かになるとともに英国の相対的な国力は弱まらざるを得なかった。

別の経済史研究者デービッド・エドガートン氏は「英国がもし最も生産性の高い労働者と、最も向こう傷を恐れない起業家、最も発明の才を持つエンジニアをそろえていたとしても、国力の相対的な衰えは起きただろう」と語る。

それでも政治家や知的エリートたちは、退潮の原因を突き止め何とかしなければとの思いに取りつかれたと、エドガートン氏の2018年の著書「英国の盛衰(The rise and fall British Nation)」は記している。

<日本、そして中国>

中国の所得と経済の急成長は今、米国と、その欧州とアジアの同盟国に同じ懸念を生じさせている。

1990年から2018年にかけて、米国の1人当たり国民総所得(GNI)は実質ベースで56%増えたが、何と中国は発射台が非常に低かったこともあり、この間960%も増加した。

  1990年時点で米国の1人当たりGNIはドルベースで中国の70倍、購買力平価ベースでも約25倍だった。世界銀行のデータによると、2019年でもドルベースで6倍、購買力平価ベースで4倍と、米国がなお優勢を維持してはいる。しかし中国の急激な工業化によって、国際社会における力のバランスは大きく揺れ動いた。中国が規模の大きい国で、しかも相対的に見た所得水準も高めた、数少ない大国の一つだからだ。

過去30年間、米国、ドイツ、フランス、メキシコ、ブラジル各国の所得水準の関係は相対的にはおおむね変わっていない。一方中国と、ずっと程度は小さいがインドは、1990年以降に相対的な所得水準が大きく上向いた。

1960年代から80年代には日本が急成長し、同じような緊張感をもたらした。80年代に入ると米国と西欧のその同盟国は日本による製造業、国際貿易、先進技術、対外投資の分野の支配を心配するようになった。

ただ中国経済は日本より規模がはるかに大きく、しかも日本と違って、米国が取り仕切る軍事的同盟関係の枠組みに入っていない。この同盟関係の枠組みがあれば、政治的、経済的な緊張を制御することもできようというものなのだが。

<スプートニク効果とリスク>

米国およびその同盟諸国と、中国との間で経済的な競争が激しくなることで、双方の技術革新と経済成長に弾みがつく可能性はある。

急激な経済成長をもたらし得る劇的な技術革新が自然に社会に受け入れられる局面というのは、ほとんどの国でめったに出現しない。そうした技術革新は勝ち組と同時に負け組を生み出すからだ。負け組になりそうな人々はしばしば国家レベルで結束し、「抵抗勢力」となり得る。ところが国家間の政治的な競争がある場合は、政府は自国経済と国力を増大させようと技術革新を後押しする可能性がある。

モキイア氏は「国際社会における政治的な地位(の低下)を懸念する国家は、ある社会が技術的に立ち後れてしまい、それに伴って立場が脅かされていることに突然気付く『スプートニク効果』にさらされる可能性が高い」と指摘する。

同氏によると「ピョートル大帝時代のロシア、明治時代の日本、そして当時のソ連による世界初の人工衛星スプートニク1号で、打ち上げ競争に先行された米国に至るまで、国家がもっぱら政治的な理由から全力で技術開発に取り組む例はままあった。こうした国家間の競争はある部分では、人類の技術発展にとって健全とも言える」という。

ただしこうした競争は一定限度にとどまる必要がある。「経済的競争と異なり、政治的な競争は場合によっては軍拡や戦争、破壊へと堕落していき、本来得られたはずの恩恵を台無しにしかねない。だから国家間の競争では、そこから生じるメリットを享受しデメリットを抑え込む微妙なさじ加減が求められるのは明らかだ」とモキイア氏は警告する。

そこで課題となるのは、相対的な所得や国力の均衡を巡る競争を、双方がめいめいの存続を懸念して軍事的な衝突に突き進むような事態に結び付けない方策を見つけ出すことだ。

歴史を振り返れば、その時代の既存の覇権国家を経済力、軍事力の両面で脅かす新興国が登場し、軍事衝突が起きたケースはしばしば見られる。

古代ギリシャの歴史家トゥキディデスに言わせれば、都市国家スパルタとアテネの戦争の引き金になったのがまさに、既存の覇権者と急速に台頭する挑戦者の間に生まれた緊張関係だった。政治学者グレアム・アリソン氏はその論文で「これが20世紀には英国とドイツ、太平洋戦争前の米国と日本に当てはまり、現在では米中の衝突の恐れにつながっている」([戦争に向かう運命:米中はトゥキディデスの『わな』を逃れられるか]2017)と指摘する。

中国が西欧に追いつこうとし続けるなら、競争と緊張はなお高まるだろう。こうした競争を建設的な方向に進ませて、世界にも大打撃となる軍事衝突を予防することが肝要だ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up