[北京 20日 ロイター] - ある中国の通信事業者は、仮想プライベートネットワーク(VPN)など、中国と海外サーバー間の通信アクセスを制限・遮断する当局の「グレート・ファイアウォール」をかいくぐるための「抜け穴」閉鎖に着手したことを明らかにした。
国内20都市でサービスを展開しているGuangzhou Huoyun Information Technologyの広報担当者は、18日正午からサービスの遮断を開始するよう当局からの指示を受けたとロイターに語った。
通信事業者の協力を求めることで、サイバースペースにおける当局の統制は拡大する。中国当局は、サイバースペースにおいても現実世界の国境管理と同じように展開すべきであり、主権国家として同じ法令に従うべきであると考えている。
国境管理と同様に、海外サイトへの中国からのアクセスは当局の「グレート・ファイアウォール」によって遮断されているが、通信事業者であれば、より細かく、家庭やスマートフォン(スマホ)レベルでネット接続のフィルタリングや検閲が可能となる。
「通信事業者は、『グレート・ファイアウォール』では不可能な手法を自在に駆使できる」と中国で人気のVPNサービス「VyprVPN」を展開するゴールデン・フロッグのフィリップ・モルター最高技術責任者は語る。「各社のルータが処理するトラフィックははるかに少ないため、よりリソース集約的な手法で積極的な遮断ができるようになる」
1月に導入され、来年3月には完全施行される法律によって、通信事業者がフィルタリング業務を新たに担うことになった。今後はVPNに対する取り締まりがさらに強化されるだろう、と専門家は予想する。VPNは、中国ユーザーが海外ネットサービスを利用するための数少ないツールの1つだ。
中国の反検閲運動サイトGreatFire.orgに参加する、チャーリー・スミス(仮名)と名乗るメンバーは、当局が取締りの責任を通信事業者に委ねつつあると指摘する。「まだ開いたままになっている窓を何であれ閉じようとする、大きな動きだ」
<新たな取り締まり>
今回の動きは、中国国内の人気VPNがここ数週間で数十件も閉鎖されたことに続くもので、海外VPNも繰り返し攻撃されている。
今週、暗号化メッセンジャーアプリWhatsAPPFB.Oのユーザーから、同アプリの一時的な遮断や遅延の報告があった。西側のソーシャルメディアツールが攻撃に遭遇した最新の事例となる。
調査によれば、先週、軟禁状態のままガンのため亡くなった、ノーベル賞受賞者の反体制活動家、劉暁波氏に関するメッセージが、中国内のメッセンジャーアプリから消去されていることが分かった。
各VPNサービスは、今秋に開催される共産党大会に向けた準備のなかで、今後さらに遮断が行われることを覚悟しているという。
新たに導入された厳しいデータ監視や検閲ルールを含め、習近平国家主席の指揮の下で中国のサイバースペース管理が明らかに厳しくなっている。習主席は5年ごとに開催される党大会において権力基盤の強化を進めるものと予想されている。
中国工業情報化省(MIIT)によれば、1月の法令により、通信事業者その他のインターネット・サービスプロバイダー(ISP)は、違法なネットワークツールのフィルタリング及び遮断に責任を負うようになった。
通信事業者は、VPNに限らず、潜在的に幅広いサービスを禁止することが可能となり、スマホ用アプリのインストールを妨害することもできる、と専門家は指摘する。
「中国からの利用の多くはモバイル端末経由であり、この種の機能に対する制限は多くの中国人に影響を与えるだろう」とゴールデン・フロッグのモルター氏は語る。
とはいえ、野心的な計画にもかかわらず、中国当局が3月までに外国のVPNを無効にするために必要な包括的な対策を用意することは困難な可能性が高い、と専門家は指摘する。
「中国当局とVPNの関係はずっとイタチごっこだ。当面、中国からのVPNアクセスは可能だろうと楽観視している」。VPNサービスExpressVPNの広報担当者はそう語り、同サービスの中国ユーザー数は増え続けていると付け加えた。
<中小企業に打撃>
海外サーバーを所有するVyprVPNやExpressVPNなどのVPNサービスは規制当局とのイタチごっこを続け、遮断に対して迅速に対応し回避策を生み出すことができるが、国内VPNが急速に減少していくことによって、中小企業の事業主は大きな打撃を受けているという。
「私の小規模な運送事業はダメになってしまった」とある企業経営者は、中国版ツイッターの微博に投稿。いくつか新たなVPNを試してみたものの、海外サイトにアクセスできなくなってしまった、と彼女は述べている。
最近の遮断措置が行われるまで、約18カ月にわたって、中国のアプリストアは、多くの無料もしくは格安VPNサービスで賑わっていた。
「工業情報化省は公認VPNサービスを申請しろという。中国のサービスに金を払わなければならなくなる」と小規模なオンラインメディアサイトを運営する人物は、ロイターにそう語った。「ウェブサイトが社会・政治ニュースに言及している場合、自分のプラットフォームのアカウントパスワードを提示しなければならない。もちろん、VPNがまだ使えるなら、そんな必要はないのだが」
工業情報化省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。同省は先週、新たな措置は企業利益を損なうことを意図したものではないと語った。それ以前にも、政府の認可を得たVPN運営を認めるとも述べている。
「こうした最新措置によって、中国ユーザーはまた1つ新たなハードルを乗り越えなければならない。ひどく長距離の障害物競走といった様相を呈している」とGreatFire.orgのスミス氏は語った。
(翻訳:エァクレーレン)
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