[カシュガル(中国) 17日 ロイター] - 近年、祝日に新疆ウイグル自治区を訪れる観光客は、テーマパーク式の観光センターで紹介されるウイグル族のイスラム文化を堪能する。だが目と鼻の先には、厳重な治安維持と国家による監視体制の兆候がちらついている。
観光客は現地の民族衣装をまとってラクダにまたがり、カメラに向かって笑顔でポーズを決める。周囲にあるプロパガンダ目的の看板には、中国共産党をたたえる文言が並ぶ。
中国は今、新疆ウイグル地区に対する強圧的な治安政策からの転換を試みている。国際連合の専門家や研究者によれば、中国政府が過激主義の根絶に向けた取り組みと称する政策のもとで、2016年以来、100万人を超えるウイグル族住民が「再教育センター」に抑留されてきた。
中国政府が今目指しているのは、愛国的な多民族共生地域の構築だ。団体旅行や演出込みの体験ツアーで年間数兆元の金を落としていく国内観光客にとって魅力的な、宗教色が薄く、標準中国語が通じる地域である。
中国政府によれば、記者らは自由に新疆ウイグル自治区を旅行できるという。だが今回、ロイターの記者2人が同区を2週間にわたり取材した間、複数の私服監視員が入れ代わり立ち代わり付きまとい、昼夜を分かたず、その姿が目に入らないことはめったになかった。
個々の監視員の素姓は分からなかった。こちらから近寄ると離れていき、話しかけられても答えようとしない。
記者らがカシュガル市内のホテルを裏口から脱け出したところ、1時間もしないうちにその出口は有刺鉄線で封鎖され、火災避難用の非常口も施錠された。
飛行機が新疆ウイグル自治区の首府であるウルムチに着陸すると、制服警官が機内に入り、他の乗客よりも先に記者らを駐機場に下ろした。記者らの身分証の写真を撮り、宿泊予定のホテルなどの情報を書き留めた。
こうした個別の保安措置や同自治区での観光振興に向けた計画について、中国外務省や自治政府にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
「同自治区における外国人ジャーナリストによる取材については、常にオープンで歓迎する態度を続けている」と中国政府は言うが、ジャーナリストは当該地域における国内法を厳格に遵守しなければならない、という但し書きが付く。
<「より良い新疆を築こう」>
新疆ウイグル自治区南部に新たに誕生した観光名所から車で少し走れば、中国政府が過激派対策を名目に建設した収容所や刑務所がある。
カシュガル市内、写真映えのするティーショップのバルコニーからウイグル族の演奏家が観光客向けに音楽を奏でる中で、周囲の路地からは盾と警棒を持った十数人の警官が姿を現し、交代して午後の勤務に就く。
新疆の市街や田園地帯では、中国共産党のプロパガンダ看板が忠誠と民族の統合を呼び掛けている。
ビルボード広告では習近平国家主席が、笑顔を見せるウイグル族の子どもたちに囲まれて立っている。ホータン市郊外にある小さな村の家々の壁には、過激主義の邪悪さを警告し、ウイグル族・漢族混血の家族の幸福を描いた壁画が飾られている。
ウルムチの住居用ビルに掲げられた横断幕には、「民族統合を達成し、中国的生活を実現し、よりよい新疆を築こう」と書かれている。
サンジ市にあるモスクの壁に掲げられた横断幕には「あらゆる民族集団の愛国心を永遠に強化しよう」とある。
観光振興はもっぱら国内観光客をターゲットとしており、米国による経済制裁のもとで、新疆に新たな収益をもたらしている。中国では新疆ウイグル自治区を訪れる観光客について、昨年は1億5800万人だったが、今年は2億人以上、2025年までに4億人を見込んでいる。
米国政府は、中国が近年、新疆ウイグル自治区においてジェノサイド(民族大量虐殺)に相当する行為を行っているとして、強制収容制度、強制労働、労働者の大量輸送などを指摘。中国政府当局者に対して制裁を科している。
中国政府はジェノサイドとの批判を否定し、自治区における政策は、中国最大の民族集団である漢族とウイグル族の対立を煽る攻撃を企む分離主義者、イスラム過激派を排除するために必要なものだと主張している。
ウイグル族が多数を占め、強制収容制度による深刻な影響を受けているホータン県では、「旧市街」が新たに建設されつつある。
数メートルごとに、取り壊し前の住宅の姿と、観光振興につながる[伝統的な]建築様式に建て直された後の姿を示すポスターが貼られている。
「昔ながらの外観が今によみがえる。中国共産党に感謝しよう」――ポスターにはこう書かれていた。
(Cate Cadell記者、Thomas Peter記者)
(翻訳:エァクレーレン)
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