[上海 2日 ロイター] - 中国政府は1日、国内通信業者に対し、新たに携帯電話サービスに登録する利用者の顔のスキャンを義務づける新規則を施行した。不正行為の摘発が狙いとしている。
今年9月に発表された新規則では、中国で新たに数百万人が顔認証技術の適用対象となることを意味する。
工業情報省はどの企業が通信事業者に技術を提供するか明らかにしていないが、中国には北京曠視科技(メグビー・テクノロジー)や商湯科技(センスタイム)など世界を代表する顔認証ソフトウエア企業がある。
◎新規則の概要
中国の通信事業者は、新たに携帯電話契約を結ぶ利用者について、顔認証技術などの本人認証手段を用いるよう義務づけられる。既存の携帯電話契約に新規則がどのように適用されるかは不明。
◎中国で顔認証技術が使われているその他の分野
スーパーマーケット、地下鉄、空港は、既に顔認証技術を採用している。電子商取引大手・アリババグループBABA.Nは傘下のスーパーチェーン、盒馬鮮生(フーマー)で顧客が顔認証による支払いを選べるようにしているほか、同社が杭州市で経営するホテルは、宿泊客がスマートフォンで顔をスキャンすれば事前チェックインが可能。
一部の中国主要都市の地下鉄は、顔認証技術を利用すると発表。中国共産党傘下の英字紙、チャイナ・デーリーによると、中国政府は「それぞれ異なる保安検査手法」を使えるよう「乗客を分類」するのに顔認証技術を用いる方針だ。
新華社通信は7月、中国政府は公共賃貸住宅団地59カ所の玄関に顔認証システムを導入済み、あるいは導入を進めていると報じた。
ロイターの昨年の報道によると、独立派の暴動や治安部隊によるイスラム教徒ウイグル族、その他の少数民族への弾圧が相次ぐ新疆ウイグル自治区西部では、顔認証技術が広く使われている。
中国の警察も、顔認証機能付き眼鏡など最先端の監視機器を用いていることが知られている。
◎中国市民の反応
監視技術の導入に対して国民から反対の声はほとんど上がっていないが、ウェイボ(微博)などのSNS上では匿名の議論が少し見られる。
詐欺電話などの不正摘発に必要だとする意見がある一方、個人情報やプライバシーの侵害、倫理上の問題を懸念する声もある。
珍しいケースとして、杭州市の野生動物公園が入場システムを指紋認証から顔認証方式に切り替えたことを不満として、大学講師が公園を提訴した例がある。11月の国内報道によると、講師は顔認証技術が個人情報の盗用につながることを懸念している。
◎中国による技術輸出
ミャンマーやアルゼンチンなどの国々は「スマートシティー構想」の一環として、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]や中興通訊(ZTE)000063.SZから監視技術を購入した。
北京曠視科技や商湯科技が中国政府によるイスラム教少数派への対処に関与したことに、米国は反発。10月には、米企業が政府の承認を得ずに製品を購入するのを禁じる中国企業リストにこれらを加えた。
◎次に起こること
顔認証技術は現在、交差点などで交通規則違反者を摘発するのに試験運用されている。中国政府は、最終的には国立大学入試の登録などにも利用を広げる方針を示している。
顔認証技術を巡る監督強化の必要性も叫ばれている。
中国共産党機関紙・人民日報は11月30日、インターネット上で顔データが5000人当たり10元(1.42ドル)で売りに出ているとして、捜査の必要があると報じた。
中国のインターネット規制当局は前週、人工知能(AI)を利用して本物と見分けがつかないほど巧妙な動画が作成できるディープフェイク技術の利用について、新たな規制ルールを発表した。
※原文記事など関連情報は画面右側にある「関連コンテンツ」メニューからご覧ください
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」