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コラム

コラム:米シティグループ、メキシコ事業売却断念の背景

[ニューヨーク 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 銀行の売却は難しい。規制当局が介入してくるし、事業価値の評価を巡り意見が折り合わないことも多い。銀行の部分売却は、事業免許や従業員、物理的資産の切り分けを伴うためさらに難しい。介入を好み、保護主義的で、かつ労働者寄りの政府を持つメキシコで銀行の一部を売却する困難さは業界でトップクラスに違いない。シティグループのジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)は1年間にわたりメキシコのリテール部門バナメックスの事業売却に取り組んだが果たせず、見通しは暗いと考えたのだろう。

 米シティグループのジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)は1年間にわたりメキシコのリテール部門バナメックスの事業売却に取り組んだが果たせず、見通しは暗いと考えたのだろう。写真はシティのATM。2020年10月、ニューヨークで撮影(2023年 ロイター/Nick Zieminski)

フレーザー氏は24日、バナメックス売却計画を撤回し、2025年以降の上場を目指すと発表した。フレーザー氏が、かつて自ら運営したバナメックスの売却計画を公表したのは1年前。その後、メキシコと米国の金利は急上昇し、ローン債権や投資、銀行株の評価が様変わりした。英金融大手HSBCがフランスのリテール事業の売却を停止した背景にも市場の変動がある。

リテールバンクは何百万人もの市民の生活を守っているため、銀行事業の売却には政治も大きく関わってくる。メキシコのロペスオブラドール大統領はバナメックスの売却について、人員の大量解雇を見送り、買い手は地元企業とし、同行が保有する輝かしい美術品コレクションをメキシコ国内に留め置くなど厳しい条件を出した。こうした要求によって買い手候補は減ったため、残った候補はさらに高い要求を突きつけやすくなった。買収提示額は70億ドルと報じられたが、さまざまな条件が付いていた可能性がある。

過去1年間の交渉中に改善しなかったことの1つが、悲惨とも言えるシティの評価だ。リフィニティブによるとシティ株は簿価のわずか半値で取引されている。これに対してライバルのJPモルガンの株式は予想純資産の1.4倍と評価されている。

この差はフレーザー氏がバナメックスを切り離せなかったのが理由ではない。シティが長年にわたり投資を渋り、ずさんなミスを犯し、その結果として成長鈍化や高コスト、罰金、規制当局の非難を招いたからだ。フレーザー氏はその立て直しに取り組んでいる。銀行を身軽にできるに越したことはないが、スタート地点がこれほど低いのだから、フレーザー氏が当面できることは他にもたくさんある。

●背景となるニュース

*シティグループは24日、メキシコのリテール銀行部門バナメックスについて、売却計画を撤回し、2025年の上場を目指すと発表した。

*フレーザーCEOは2022年1月にバナメックス売却の方針を発表した。フレーザー氏はかつて、シティの中南米事業の責任者としてバナメックスを管轄していた。

*メキシコのロペスオブラドール政権は23日、バナメックスの過半数株式取得を検討していると発表していた。ロペスオブラドール大統領は以前バナメックスの買い手に対し、大規模な人員削減をしないと約束し、美術品のコレクションをメキシコ国内にとどめるよう求めていた。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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