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フォトログ:海面上昇に悩むバングラデシュ農家、水上農法に活路

[ナジルプール(バングラデシュ) 20日 ロイター] - バングラデシュ南西部に広がる海抜の低いデルタ地帯で農業を営むモハマド・モスタファさん(42)は、水に浮かぶイカダの上で作物を育てる先祖伝来の栽培手法を復活させた。海面の上昇と豪雨による洪水によって脅かされる農地が拡大しているためだ。

 10月20日、バングラデシュ南西部に広がる海抜の低いデルタ地帯で農業を営むモハマド・モスタファさん(42)は、水に浮かぶイカダの上で作物を育てる先祖伝来の栽培手法を復活させた。バングラデシュ・ピロジプールで8月16日撮影(2022年 ロイター/Mohammad Ponir)

自給自足の農家にとって、長引く洪水による脅威は高まる一方だ。キュウリやラディッシュ、ニガウリ、パパイヤ、トマトなどの野菜や果実を栽培する安全な基盤として、イカダを利用し始める農家は増加している。ほとんどは苗木として販売される。

水上耕地の屋根にロープでウリを吊るす農家のモハマド・セリムさん(54)。

イカダは、侵入種であるヒヤシンスの茎で編まれている。雨季の豪雨が激しさを増し、乾いた土地が特に少なくなる季節には、農家にとってイカダが生活を支える命綱になっている。

農家のモハマド・モスタファさん(42)。水上耕地で、苗の根の上に水草を載せていく。

イカダを使う栽培手法は200年の歴史を持つ。その当時、年5カ月ほど続いていた洪水期にこの地域の農家が採用したものだ。だが近年ではこの地域は年間8─10カ月も浸水したままであり、洪水に見舞われる土地が拡大している。

「最近では、土地が浸水する時期が長くなっている。昔ながらのやり方のおかげで生活が成り立っている」とモスタファさんは言う。今まさに水上耕地に団子状にした苗を植えているところだ。

「私の父も、もっと前の先祖たちも、皆これをやっていた。だが作業は簡単ではない。だから最初は果実商としてやっていこうとしたが、借金だけが残った」とモスタファさんは言う。6人家族の中で稼ぎ手は彼1人だ。「5年前に水上農法に賭けてみたところ、生活が一変した」

ピロジプール県のベルア川で2週間に1度開かれる水上市で、農家が卸売業者に野菜や果実、苗を販売している。

低湿地の多いバングラデシュ南西部では、現在約6000戸の自給農家が水上農法を採り入れている。気候変動により海面が上昇し、雨季が不安定さを増していくにつれて、この手法はきわめて重要になるかもしれない。

ピロジプール県ナジルプール地区の農政官僚ディグビジョイ・ハズラ氏は、水上農法を採用する農家は、約4500戸だった5年前に比べて増加していると話す。

雨期に野菜の苗を育てる水上農場で働く農民たち。

ピロジプール県内では現在、水上農法による農地が合計157ヘクタールに達する。そのうち120ヘクタールがナジルプール地区だが、5年前は80ヘクタールだった。

「従来の手法よりも少ない面積で済むし、農薬も必要ない」とハズラ氏はロイターの取材に語った。「地球温暖化の影響への対策として、水上農法こそ今後進むべき道かもしれない」

モハマド・イブラヒムさん(48)が水上耕地に散水する。

低地の多いバングラデシュは、気候変動に対して最も脆弱な国の1つと考えられている。海水面の上昇による影響が、暴風雨や洪水、土地の侵食によって深刻化するからだ。

気候変動の影響は、地盤沈下の原因となる地殻変動などの自然要因や、浸食されたデルタの回復に必要なシルト(沈泥)が上流のダムにせき止められている、といった理由により悪化しつつある。

ピロジプール県ベルア川。男性がロープを持って、農場に向けて水上耕地を移動させている。

非営利団体「ジャーマンウォッチ」が作成した2021年の世界気候リスク指数では、バングラデシュは2000年から19年にかけて、気候変動による最も深刻な打撃を受けた国として世界7位にランクされた。

アジア開発銀行の21年の報告書には、「バングラデシュのデルタは世界最大であり、同国の面積の大部分は、河川の浸食や鉄砲水を中心として、頻繁な洪水に見舞われている」と書かれている。

サトウキビを購入しようと売り手と交渉する村民たち。

バングラデシュはベンガル湾を駆け足で北上するサイクロンの襲来も頻繁に受けているだけでなく、地球温暖化によって降雨パターンもますます不安定になっている。バングラデシュの総人口1億6500万人のうち、4分の1以上が沿岸部で生活している。

国際通貨基金(IMF)が作成した19年の報告書によれば、海面の上昇と沿岸部の浸食により、バングラデシュは50年までに国土の17%と食料生産の30%を失う可能性があるとされている。

ベルア川で2週間に1度開かれる水上市で、農家が卸売業者に野菜や果実、苗を販売している。

前出のモスタファさんは、無数に走る水路の1つにボートを走らせながら、現在では「誰の助けを借りることもなく」家族を養うことができる、と語る。

ただし、コスト上昇とともに利益率は縮小しつつある、とモスタファさんは続ける。モスタファさんは今年使用する新しいイカダを組むために、ボート一杯のヒヤシンス、重量約1.2トンを4500タカ(約6300円)で購入した。昨年はわずか1000タカで済んだという。

イカダの製作には2カ月を要する。通常は長さ約6メートル、幅1メートルほどだが、農家によれば、その数倍の長さにすることも可能だという。3─4カ月使用したら、新しいものに交換する必要がある。

ムルシダ・ベグムさん(35)が夫のモハマド・イブラヒムさんと共に、水上農場に植える苗の団子をボートに積み込んでいる。

同じ地域の別の農家モハマド・イブラヒムさん(48)は、水上耕地のおかげで、より多くの作物を安心して育てられるようになったと話す。

イブラヒムさんは、水上農法で育てたウリの苗をボートの上で販売しながら、「水位は上昇している。かつてはサッカーで遊んでいた場所が、今では高潮でもないのに水面下に沈んでしまう」と語る。

野菜の苗の団子を作るムルシダ・ベグムさん。

こうした努力に犠牲が伴わないわけではない。

妻のムルシダ・ベグムさん(35)の話では、イカダの上に作付けする苗の団子を作るために1日8時間以上も働いているという。ヒヤシンスの茎のせいで手のひらや指に痒みや痛みが生じることも多い。

2人の娘を育てる30歳の母親であるカジョル・ベグムさんは言う。「仕事はとても大変で辛い。腰が痛くて夜眠れない。でも、ほぼ常にあたり一面水に覆われているのに、他にできることもない」

(文:Ruma Paul記者、写真: Mohammad Ponir Hossain記者、翻訳:エァクレーレン)

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