July 12, 2019 / 2:33 AM / 2 months ago

ブログ:金より高価、「万能薬」冬虫夏草に迫る温暖化の脅威

[アムネマチン山脈(中国) 6月28日 ロイター] - 中国西部の辺境で暮らすマー・ジュンシャオさん(49)は、回族のムスリムで、農業を営んでいる。彼にとって、毎日険しい山肌を登って小さな冬虫夏草を探すことは、家族の生計を支える重要な仕事だ。

 6月28日、中国西部の辺境で暮らすマー・ジュンシャオさん(49)は、回族のムスリムで、農業を営んでいる。写真は青海省のアムネマチン山脈で、冬虫夏草を探す人たち。6月8日撮影(2019年 ロイター/Aly Song)

春になると、マーさんは甘粛省内の寒村を離れ、陸路600キロ以上の道のりを経て、隣接する青海省の名もない峰々が集まる地域に向かう。

冬虫夏草を探すマーさん(2019年 ロイター/ALY SONG)

そこで彼は、地元企業が雇った80人ほどの作業員に加わり、冬虫夏草を採集する。強壮効果・治療効果があると信じられているキノコの一種だ。

近年では、青海省で冬虫夏草を扱う企業が地元住民に数百万元を払い、シーズンが来るたびに山全体を封鎖する権利を獲得している。

だが、中国最大の冬虫夏草の産地である青海省でも、収穫量が減少しつつある。過去2年間、マーさんが冬虫夏草の採集で得た収入は、1シーズンあたり7000─8000元(約11万─12万6000円)と半分以下に減ってしまった。

(2019年 ロイター/ALY SONG)

その理由は、気温が上昇し、降雪量と氷河が減少したことで山岳地帯が温暖化し、冬虫夏草が育ちにくくなってしまったことだ。冬虫夏草は、摂氏5度前後の冷たくはあるが凍りついていない土壌でよく繁殖する。

「氷河がなくなり、冬虫夏草も消えてしまった」と、これまで14年間、青海省で冬虫夏草を採集してきたマーさんは言う。

(2019年 ロイター/ALY SONG)

中国国営メディアの昨年の報道によれば、青海チベット高原の氷河は、この半世紀のあいだに15%縮小した。この地方の気温上昇幅は、世界平均の3倍にも達したという。

複数の気候研究者は、気温上昇が大きくなったのは、太陽の熱を反射させる高地の積雪が失われたためであると考えている。雪に覆われていた黒い岩肌が今やむき出しになり、熱を吸収してしまう。

その一方で、冬虫夏草に対する需要は過去10年間で急増している。増大する国内中産階級の人々が、科学的根拠がないにもかかわらず、腎臓障害から性的不能までありとあらゆる症状を治すために冬虫夏草を欲しがるからだ。

また、植物由来の高機能食品に対する世界的なブームも人気の一因となっている。

アムネマチン山脈の一部(2019年 ロイター/ALY SONG)

ヒマラヤ、チベット、青海省の標高の高い草原で発見される冬虫夏草は、地元のコミュニティーにとって最も重要な収入源となっている。貧困層に数百人分もの季節雇用をもたらし、収穫事業を営む人にとってはより豊かになるための道となる。

ピーク時の2010年には、冬虫夏草の末端価格は1キロ当たり10万ドル以上に達した。熱狂的な採集ブームが起き、牧畜業者やマーさんのような農民が山岳地帯に群がることになった。

公式発表では、生産は持続可能であるとされる一方で、一部の専門家は、気候変動による生育環境の悪化に加えてこうしたブームが乱獲につながったと指摘する。

ベースキャンプで休憩をとる人々(2019年 ロイター/ALY SONG)

今年、なかなか見つからない冬虫夏草を探して、マーさんは実に標高4500メートルまで登る必要に迫られた。彼にとっては、1個当たり6元の収入になる。

「息子が2人いる。海側の江蘇省で麺料理店を経営している。冬虫夏草による収入はほとんどすべて、その店を維持するために送金している」とマーさんはロイターに語った。

<高原の温暖化>

冬虫夏草の宿主となるのは、夏のあいだに草原で生まれ、土中に移動するガの幼虫である。その後、寒さの厳しい冬のあいだ、冬虫夏草の菌は宿主のなかでじっと動かない。

冬虫夏草を採取する人(2019年 ロイター/ALY SONG)

春が来て暖かくなると菌は活動を開始し、宿主である幼虫を殺してしまう。干からびた幼虫の体から小さな茶色の茎が育ち、地上に顔を出す。最終的に胞子が放出され、それを幼虫が食べて、また寄生プロセスが始まる。

「地球温暖化により蒸発率が上昇し、土壌中の水分の減少と草原の縮小につながっている」と語るのは、1980年代以降、青海チベット高原の気候パターンを観察している中国の科学者シェン・ヨンピン氏。

シェン氏によれば、永久凍土層の縮小も地下水面の低下につながっており、さらに生育環境を厳しくしているという。また異常気象現象の増加が急激な寒波を呼び、冬虫夏草に打撃を与えている可能性もある。

冬虫夏草の質を確認するバイヤーたち(2019年 ロイター/ALY SONG)

青海省における冬虫夏草の生産量については、毎年の公式統計が入手できるわけではない。

省政府の農業・農村担当局では、当局者が2010─13年、2015年の生産量データを提供することを拒否した。そうした統計は「取扱注意」なのだという。

同局の示すデータによれば、2018年の生産量は、前年の4万3500キロに比べ、5.2%減の4万1200キロとなった。

青海省内のメディアが2010年・2011年の生産量として伝える15万キロと比較すると数分の1まで減ったといえる。

バイヤーたちは、布の下で手を触れることで価格を交渉する(2019年 ロイター/ALY SONG)

<「冬虫夏草」経済>

青海省興海県での冬虫夏草視察ツアーに参加した、広東省在住の販売事業者マー・ジンガン氏は、「年によって、たくさん採れることもあれば、あまり採れないこともある。今年の需要はそれほど好調ではない」と話している。

青海省南部の玉樹、果洛といった商業の盛んな街と同様に、興海も冬虫夏草の取引を経済の基盤としている。

冬虫夏草は、青海省の省都である西寧市からやってくるバイヤーに、1個20元以上で販売される。商品が最終的に広東省の店頭に並ぶときには、価格は何倍にも跳ね上がっている。

トレーダーの自宅で、天日干しされる冬虫夏草(2019年 ロイター/ALY SONG)

景気の減速と価格の低迷にもかかわらず、深セン市で売られている高品質の冬虫夏草のなかには、1グラム約72ドル、1オンスに換算すると2016ドルで販売されているものさえある。1オンス約1340ドルの金よりも高価というわけだ。

マー・ジンガン氏のように冬虫夏草の取引で富を築いた人物にとっては、非常に大きなビジネスだ。彼は自社の宣伝用動画の撮影を済ませた後、青海省を離れる自家用機内で葉巻をたしなむ自撮り写真をソーシャルメディアに投稿した。

青海省でマー氏に随行する地元の運転手でさえ、アウディのコンバーチブルを所有している。

だが、実際に冬虫夏草を採集する人々、たとえば51歳のツィー・ブラさんにとっては、見つけた1個1個が大切な生活の糧だ。

ツィーさんは冬虫夏草の採集で毎シーズン最大2万元を稼いでいる。これはツィーさん一家が農業で得ている年収1万元を軽く超える。

「南京大学で2年生になる息子がいる」とツィーさんは言う。「冬虫夏草のおかげで助かっている」

(翻訳:エァクレーレン)

ベースキャンプでタバコを吸う人々(2019年 ロイター/ALY SONG)

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