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焦点:頼みは人工降雪機、気候変動に抗うイタリアのスキー産業

[モンテチモーネ(イタリア) 3日 ロイター] - イタリアのアペニン山脈に位置する人気スキーリゾート、モンテチモーネ。この冬のシーズンを迎える前に、地球温暖化の影響に歯止めをかけようと500万ユーロ(約7億2100万円)を投じて人工降雪設備を整えた。だが、その投資はほぼ無駄に終わった。

 気温上昇は世界中のスキー産業にとって脅威となっている。アペニン山脈、アルプス山脈とも比較的高度の低い場所に多くのスキーリゾートを抱えるイタリアにとって、その影響は特に深刻だ。写真はモンテチモーネで3月31日撮影(2023年 ロイター/Claudia Greco)

人工降雪機は無用の長物だった。大気中に水滴を噴霧しても、それが凍結するような気温でなければ、雪として降りつもることはない。そして、1月半ばになるまで、気温が摂氏0度を下回ることは一度もなかった。

地元のスキー観光事業者連合のトップ、ルチアーノ・マニャーニ氏は、「リフトは休止し、スキーのインストラクターや季節労働者は手持ち無沙汰。シーズン全体では40%の減収になった」と語る。「クリスマス休暇に休業したのはこの40年間で初めてだ」

気温上昇は世界中のスキー産業にとって脅威となっている。アペニン山脈、アルプス山脈とも比較的高度の低い場所に多くのスキーリゾートを抱えるイタリアにとって、その影響は特に深刻だ。

イタリアの気候関連ロビー団体レガンビエンテのデータによれば、イタリアのスキー場のうち約90%は人工降雪機に頼っている。オーストリアの70%、スイスの50%、フランスの39%に比べて高い数値だ。

その影響は、環境や経済、地元住民の生活を脅かしている。

欧州では気温の上昇によって干ばつが生じており、イタリアとしても、毎年何百万立方メートルもの水を人工降雪のために消費している余裕はない。

レガンビエンテの試算では、アルプス地域にあるイタリアのスキー場における水の消費量は、近々、ナポリのような人口100万人の都市に匹敵するレベルになる可能性があることが示された。

また、人工降雪機のバッテリーは大型化が進んでおり、その消費エネルギーも生半可なものではない。

地質学者で環境保護活動家であるマリオ・トッツィ氏によれば、欧州アルプス地域におけるスキーリゾート全体では、人工雪のために必要となる電力が、4人家族13万世帯の年間消費量に匹敵するという。

<抵抗か、転身か>

スキー産業にとっては決断のときが迫りつつある。テクノロジーの進化により気温上昇の影響を克服できることを期待しつつ抵抗を続けるか、ビジネスモデルを変更して、スキー以外の観光収入源を模索するか、である。

気候学者はもちろん、中央銀行であるイタリア銀行までもが、2番目の選択肢を推奨しているが、ほとんどのスキー事業者は応じない姿勢だ。

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「スキーがなければ、山間部のコミュニティーは経済基盤を失い、人々は離れていってしまう」と語るのは、イタリアスキーリフト事業者協会(Anef)のバレリア・ゲッツィ会長。同協会には300社が加盟し、市場の90%を占めている。

経済的な意味は大きい。Anefのデータによれば、イタリアのスキー産業は直接・間接的に40万人を雇用し、110億ユーロの収益を生み出している。これは国内総生産(GDP)の約0.5%に相当する。

2022年の「国際スキー山岳観光レポート」によれば、イタリアには少なくとも5本のリフトを持つスキーリゾートが約220カ所あり、米国、フランスに次いで世界第3位の規模だ。スキーを目的とする外国人観光客の受け入れ数でも、オーストリア、フランスに次ぐ世界第3位である。

イタリアで人工降雪機の開発が始まったのは1990年前後。アルプスでほとんど降雪のない年が2年続いたことが契機となった。今では世界をリードする存在になっており、大手メーカーの1つ、テクノアルパインは、2022年の北京冬季五輪にも製品を提供した。

「1980年代後半には気候変動を話題にする人などいなかった。だが、我々は諦める代わりに、最初にして最大の抵抗を見せた。人工降雪機を作り始めたのだ」とゲッツィ氏は言う。

人工降雪の技術は着実に進化している。テクノアルパイン製の最新機種は、気温10度でも雪を生み出すことができる。同社は、標高わずか600メートルというイタリア国内で最も低標高に位置する初心者用スキーリゾート、ボルベノでこの機種のテストを進めている。

ボルベノのジョルジオ・マルケッティ市長は、この降雪機が生み出す雪質は「絶品」で、気温が高めでも地面にしっかり残っている、と語る。

冬季のスキー観光を維持するためにあらゆる措置を講じている国は、もちろんイタリアだけではない。

昨年12月、スイスのリゾート地グシュタードの当局は、スキーの名所であり、いずれも人工降雪機を備えたツバイジンメンとザーネンメサーを結ぶ、戦略的に重要だが地肌がむき出しになっていたゲレンデに雪をためるため、ヘリコプターを動員した。

<人工降雪に対する抗議も>

だが、スキー産業を維持しようという試みが必死さを増す中で、環境保護活動家からの抗議も発生している。

先月、旗や横断幕を掲げた活動家たちが、イタリアのアペニン山脈にある標高1300メートルのスキーリゾート、ピアン・デル・ポッジョに集結し、人工降雪機の設置に抗議した。

スペインでは、国内5つの環境保護団体が欧州連合(EU)に対し、温暖化が急速に進むピレネー山地でスキーリゾート2カ所を統合するプロジェクトにEU財源から2600万ユーロを拠出する計画を中止するよう働きかけている。

エコノミストと気候学者の中には、低標高の土地でスキーリゾートの事業を維持していこうとする努力は失敗確実であり、人工降雪機に頼るのは、避けがたい結末を先送りしているだけだという主張も見られる。

イタリア銀行の研究員らは昨年12月の報告書で、「人工雪は、たまたま冬季に雪不足になった場合に経済的損失を抑える効果はあるかもしれないが、システムレベルの(気候変動という)長期的な動向に対する備えにはなり得ない」との見解を示した。

「こうした背景のもとでは、山岳地域でのアクティビティーや収益の多角化に基づいた適応戦略が不可欠になる」とこの報告書は指摘した。

ヨーロッパアルプスでは、世界の大半の地域に比べて気温の上昇が急速に進んでいる。気候問題や観光産業の専門家は、地中海沿岸のビーチや都市が猛暑に悩まされるようになるにつれ、アルプス地域は夏季の人気リゾート地になっていくと予想する。

イタリア学術会議の気候学者ジュリオ・ベッティ氏は、近い将来、標高1000─2000メートルの地域でのスキーは「経済的に存続不可能」になるため、リゾート地はスキーとは別の種類の行楽客を集めることに注力すべきだと話す。

山岳地域のコミュニティーの中には、すでにこうした提言に従うところが増えてきている。

ミラノの北方100キロメートルに位置する標高1600メートルのリゾート地ピアニ・ディ・アルタバッジョでは、当局が16年前にスキー用リフトを撤去し、ハイキングやマウンテンバイクの愛好家、あるいは一般の日帰り行楽客のための施設の改善を進めている。

フランス国境に近いマイラ渓谷、標高1600メートルに位置する人口88人のエルバ村も、スキー用リフトではなく、登山客やハイキング客を選んだ。

この村はイタリアのコロナ禍からの復興計画に基づき、EU資金2000万ユーロを獲得した。ジュリオ・リナウド村長は、この助成金を、歴史や食文化、自然に立脚したエコツーリズムの推進に活用していくと述べている。

「スキー用リフトやケーブルカーを導入しても、雪が降らなければ手も足も出ない」とリナウド村長は言う。「我々は多角化を試みている」

(Stefano Bernabei記者、翻訳:エァクレーレン)

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