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焦点:スペイン、低所得者に届かぬエネ転換補助金にジレンマ

[マドリード 21日 ロイター] - 引退したエンジニアのフアン・マヌエル・コスメス・クエスタさんは、マドリード郊外の高級住宅地で暮らしている。自宅のプールサイドで、ソーラーパネルの設置を条件に国が支給する30%の補助金について熱弁を振るう。補助金はともかく、パネルのおかげで月々の電気代は半分以下になったという。

 燃料費・生活コスト急騰という危機を背景に、欧州はグリーン志向を一段と強化しているが、マドリード郊外で見られる格差は、政策担当者にとってのジレンマの拡大を浮き彫りにしている。写真は住宅の屋根に設置された太陽光パネル。マドリードの南にある富裕層が集まる地域で6日撮影(2022年 ロイター/Susana Vera)

「近所の人たちや、このあたりに住む妻の友人など、多くの知人が同じようにパネルを設置していて、誰もが満足している」とコスメス・クエスタさん。

だが、さほど離れていない、あまり裕福ではない地域では事情が異なる。

1970年代に建設されたサン・パスクアル地区で暮らす配管工のマヌエル・ブランコさん(44)は、「この種の補助金を受けるには、最初に設置コストの一部を負担する必要があると理解している。多くの人にとっては小さな額ではない」と語る。

古い集合住宅で階段を何階分も登るのに苦労している人からすれば、エレベーター設置の方が優先課題だという声もある。

「このあたりで最も必要なのは、高齢者のためのエレベーターだ」と話すのは、カンデラ・ガルシアさん(73)。子どもの頃から首都マドリードの南にある労働者階級の街オルカシタスで暮らしている。

燃料費・生活コスト急騰という危機を背景に、欧州はグリーン志向を一段と強化しているが、マドリード郊外で見られるこうした格差は、政策担当者にとってのジレンマの拡大を浮き彫りにしている。経済全体として今後のエネルギーシフトを受け入れていく一方で、低所得層をこれ以上取り残さないようにするにはどうすべきなのだろうか。

コスメス・クエスタさんは富裕層というよりは生活に不自由がないという程度だが、それでも国からの補助金支給を待つ余裕がある。

「いつ入金されるかは分からないが、いずれは払ってもらえる」と彼は言う。

2018年にフランスで発生した「黄色いベスト」抗議行動の核心には社会の公正さを巡る不満があった。この運動によって、エマニュエル・マクロン大統領はガソリン・ディーゼル燃料に対する「環境税」を断念した。環境税は化石燃料の使用を抑制する趣旨だったが、最も生活に余裕がない人々に打撃を与えると見られたのである。

温暖化ガス排出量の削減やロシア産化石燃料への依存緩和を目的として、再生可能エネルギーの利用拡大や断熱性の改善に対して補助金を交付する場合も、やはり公平性の問題が持ち上がる。

スペインは、2026年までに住宅51万戸のエネルギー効率改善という目標に向けた一策として欧州連合(EU)の補助金を利用している。特に対象となっているのがスペイン人の3分の2が暮らす集合住宅で、その大半が築20年超で断熱性に乏しい。

場合によっては改修コストの最大80%まで補助金で賄え、前払いや税制上の優遇措置もある。フェロビアルやOLHAといった建設グループ、BBVAやサンタンデールを含む銀行も補助金活用を推進しており、申請書類の作成支援や融資を提供している。

集合住宅の住民にとっての魅力を増すため、エレベーター設置費用を補助対象に盛り込むプロジェクトもある。

住民団体がマドリードの住宅整備当局に最も強く要望しているのは、依然としてバリアフリー目的のスロープやエレベーター設置のための補助金だ。公式の統計によれば、スペインでは4階以上の集合住宅の40%にエレベーターが設置されていないことが分かっている。

ロイターの取材に応じた住民団体やコンサルタント、研究者は、再エネ導入や断熱性向上に対する新たな補助金について、低所得層向けの集合住宅のオーナーは、その存在を知らないか、契約に消極的だと明らかにした。

全国ビル管理者協会のサルバドール・ディエス・ヨリス会長は、「集合住宅オーナーの関心は、まだ非常に低い」と語る。

断熱製品関連企業の全国組織「アンディマット」は、典型的な6階建ての建物において、窓、ファサード、屋根を交換するなど全面改修した場合、費用15万9000ユーロ(約2260万円)のうち、65%に相当する補助金が利用可能だと試算している。

こうした改修によりエネルギー消費を59%削減できるが、それでも各世帯は事前に4600ユーロを負担しなければならない。

アンディマットでディレクターを務めるルイス・マテオ氏は、「リノベーションの売り上げ急増」は見られないと話している。

<太陽光の恩恵は誰に>

対照的に、マドリードとバルセロナの裕福な郊外地域では戸建て住宅が中心で、補助金対象となるソーラーパネルの取引が活発だ。ソーラーパネルを供給するサンヒーローの共同創業者であるクリストファー・セデルスコッグ最高経営責任者(CEO)は、今年の設置件数は、少なくとも前年比で30%増加すると見込んでいる。

同CEOはロイターに「顧客からは補助金についての質問も多い」と語った。

「普及ペースの二極化」の現実を見てみよう。集合住宅で暮らす配管工のブランコさんの場合、この冬の電気料金は月270ユーロに倍増した。元エンジニアのコスメス・クエスタさんの場合、昨年12月に120ユーロだった電気料金が、ソーラーパネル設置後の4月にはわずか43ユーロまで下がった。

「この国の社会はエネルギー効率の改善を十分に取り入れていない」と語るのは、マドリード州住宅再生局長のマリア・ホセ・ピッチョ・マルケッティ氏。「それは概念レベルでの転換となる」

ブリュッセルに本拠を置くブリューゲル研究所のマリー・ル・ムエル研究員によれば、ベルギー、フランス、イタリアなどの諸国がどこもエネルギー効率の改善を目指す一方で、エネルギー価格が高騰している現在、まさに補助金を出すべきタイミングだが、課題は適切な制度設計だという。

「既存の建物におけるエネルギー効率改善は、脱炭素化という課題における次の重要な目標だ」と同研究員は指摘。「欧州ではどの国も、これを成功させるための適切なメカニズムを見つけようと苦心している」

イタリアの「スーパーボーナス」制度は、スペインよりもさらに太っ腹だ。断熱性能の向上からソーラーパネルの設置、ボイラーや窓枠の交換に至るまで、建物の環境負荷低減に要する費用の110%を国が負担するもので、雇用創出と経済活性化につながったが、やはり公平性の問題に突き当たった。

中小企業のためのロビー団体でシンクタンクとしても活動するCGIAは、報告書の中で「恩恵を受けているのはごく少数に限られる。主として、大都市の伝統的な中心部にある家に住み、裕福で高学歴、そして特にイタリアの北半分に住む人々だ」と指摘する。

環境保護団体グリーンピースで気候変動とエネルギー問題について活動しているシルビア・パストレッリ氏によれば、さほど裕福でない人々向けの補助金と、富裕層向けの補助ローンという2本立てのアプローチも可能だという。同氏が高く評価するのは、補助金の額を家計所得に連動させるベルギー方式だ。

「自宅という形で屋根や壁を所有していなくてもソーラーパネルや断熱材による恩恵を受けられるべきだし、暖房費の支払いにも苦労しているのに、リノベーション費用として何万ユーロもの預金が必要になるというのはおかしな話だ」とパストレッリ氏は言う。

ペドロ・サンチェス首相率いるスペインの左寄りの政権は、こうした問題点を認めつつも、前例のない取り組みだけに、まずスタートすることが重要だとしている。

政府当局と関連企業は、先行組がリノベーションと補助金によって電力コスト削減に成功すれば、隣人の成功に刺激されて、同様の補助金を利用しようとする住宅所有者も増えると期待している。

スペイン運輸省のデービッド・ルーカス住宅・都市計画担当総局長は、国内の住宅930万戸のリノベーションが必要であり、この計画に配分される40億ユーロの予算は2026年までに使い切ることになると予想した。

「数十億ユーロを投じて(格差という)問題を生み出すのではなく、機会を生み出さなければならない」とルーカス氏は語った。

(Corina Pons記者、翻訳:エァクレーレン)

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