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フォトログ:永久凍土融解を防げ、科学者父子の「氷河期」計画

[チェルスキー(ロシア) 4日 ロイター] - ロシアの北極海沿岸から南へ130キロ、ここは地球上で最も寒冷な場所の1つだ。しかし、このシベリアの大地にも地球温暖化の影響が及び、永久凍土の気配すら感じられなくなっていると、科学者のセルゲイ・ジモフ氏(66)は言う。

ロシアの北極海沿岸から南へ130キロ、ここは地球上で最も寒冷な場所の1つだ。しかし、このシベリアの大地にも地球温暖化の影響が及び、永久凍土の気配すら感じられなくなっていると、科学者のセルゲイ・ジモフ氏(右)は言う。写真はサハ共和国チェルスキーで9月撮影(2021年 ロイター/Maxim Shemetov)

何千年にもわたり永久凍土に封じ込められていたマンモスの骨から古代の植物まで、あらゆるものが融けて分解し、膨大な温室効果ガスが放出される懸念が高まっている。

ジモフ氏は、ダイヤモンドの産地として知られるサハ共和国にある研究基地を拠点として数十年にわたり永久凍土の研究を続けており、気候変動の影響をリアルタイムで目の当たりにしてきた。

シベリアでは、世界平均の3倍以上のペースで気温が上昇している。ジモフ氏が金属製の細いポールを地面に突き刺すと、ほとんど力を加えなくとも棒は深く沈んでいく。

チェルスキー郊外、北東科学基地の近くの水路に打ち捨てられた廃船。

「地球上で最も寒い場所の1つなのに、永久凍土はまったく見られない。現在ほどのペースで大気中のメタンが増加したことはこれまでになかった。ここの永久凍土(の消失)が関係していると思う」

ジモフ氏は淡々と語った。

永久凍土はロシアの陸地の65%、北半球の陸地の約4分の1を覆っている。科学者らによれば、永久凍土の融解によって放出される温室効果ガスは、いずれは欧州連合における工業生産による排出量に匹敵する、あるいはそれを上回る可能性があるという。腐敗する有機物の量が圧倒的に多いからだ。

その一方で、自然現象と見なされている永久凍土からの排出量は、排出量削減をめざす政府の公約の対象にはなっておらず、国連の気候変動会合においても注目を集めていない。

白いひげを蓄えタバコをくわえたジモフ氏は、旧ソ連崩壊の際に北極圏を離れるよう命令されたがこれを無視。逆に、なかば放棄されたチェルスキーの街に近い「北東科学基地」の運営を維持する資金を見つけてきた。

チェルスキー郊外にある旧ソ連のテレビ局(現在は北東科学基地が使用)。

ジモフ氏は、米国が管理する世界各地の監視拠点ネットワークから得たデータを引用しつつ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、永久凍土からの温室効果ガスの放出がすでに始まっていることを示していると考えている、と話す。

コロナ禍が続く間、世界各国の工場の活動が縮小し、国をまたぐ移動も劇的に減少したにもかかわらず、大気中のメタンや二酸化炭素の濃度の上昇ペースはむしろ上がっている、とジモフ氏は言う。

チュラプチャ村では、かつては飛行場だった土地に家が建っている。永久凍土が解けたため地表が変形している。

温暖化のペースが変わらなければ、永久凍土が融解し、その上に立地する都市全体に影響が及ぶことにより、ロシアでは2050年までに7兆ルーブル(約11兆円)もの損害が発生すると科学者らは予測している。

ロシアの極北・極東地域の家屋やパイプライン、道路は永久凍土が融解しないという前提で作られているため、今では沈下が始まり、修繕の必要が増している。

更新世パークでラクダの写真を撮るジモフ氏。

<氷河期の生態系復活を狙う>

ジモフ氏は、サハ共和国地域における永久凍土融解のペースを鈍化させたいと考えている。その手段は、プライストツェノビ・パルク(更新世パーク)と呼ばれる自然保護区に、バイソンや馬、ラクダなど大型の草食動物を定住させることだ。

こうした動物に踏みつけられることで大幅に圧縮された雪は、分厚い断熱性の毛布のような効果を発揮することなく、冬の寒気が地中に浸透するようになる。

ジモフ氏が息子のニキータ氏とともにフェンスで囲われた自然保護区に動物たちを導入し始めたのは1996年。これまでにさまざまな種の動物を200頭も定住させてきた。これによって、他地域に比べて永久凍土の温度は下がっていると2人は言う。

バイソンはこの夏、デンマークからトラックと船で運ばれてきた。北極海航路沿いにホッキョクグマとセイウチの生息地を通過し、何週間にもわたる嵐を切り抜けてようやくコリマ川の河口に進入し、東へ約6000キロ離れた新たな居住地にたどり着いた。

気候工学で未来を冷却するというジモフ氏の突飛な計画は、他の科学者が遺伝子技術により絶滅から復活させようと考えているマンモスをこの地域に住まわせ、地域の生態系を1万1700年前に終わった最後の氷河期に近づけようという構想まで広がっている。

ネイチャーが発行する昨年の「サイエンティフィック・リポーツ」誌に掲載されたジモフ父子を共著者とする論文では、更新世パークに導入された動物により、平均的な積雪の深さは半分になり、地中温度は年間平均で1.9度低下した。冬と春には下げ幅がさらに大きくなる。

こうした「型破り」な手法が気候変動緩和の戦略として有効かどうかを判断するには更なる研究が必要だが、更新世パークの動物の生育密度(1キロ平方メートルあたり114個体)は、北極圏全体の規模でも実現可能である、と論文は主張している。

またこの論文は、地球規模のモデルでは、大型草食動物をツンドラ地帯に導入することにより北極圏の永久凍土の37%で融解を防止できることが示唆されている、と述べている。

<融解は不可逆なのか>

ジモフ氏の息子であるニキータ氏は9月、ドゥバニヤルを流れるコリマ川の浅瀬を歩いていてマンモスの牙と歯を発見した。

ここ数年、こうした発見はサハ共和国では珍しくない。特に、永久凍土が水の流れで浸食されている川沿いでは顕著だ。

チェルスキーの街からボートで3時間、コリマ川の河岸では、融解した永久凍土の断面を見ることができる。露出した分厚い氷床から溶け出した水が、細かい草の根を含む密度の高い黒土層の下から滴り落ちている。

「サハ共和国だけでも、こうした草の根や永久凍土に含まれる腐敗した有機物の重量を計測すれば、地球上の地表に出ているバイオマスの重量を上回ることが分かるだろう」とニキータ氏は言う。

科学者らによれば、世界の気温が20世紀中に平均で1度上昇したのに対して、サハ共和国では過去50年間で3度上昇したという。

チェルスキーの南西にあるドゥバニーヤール。木が傾いている。

セルゲイ・ジモフ氏は、彼自身の経験でも冬は年々短く暖かくなっていると言う。ヤクーツクにあるメルニコフ永久凍土研究所のアレクサンドル・フェドロフ副所長も、今では1年で最も寒い月でも毛皮のついた服を着ることはなくなっていると話す。

だが、火災その他のいわゆる「自然排出」と同様に、永久凍土からの温暖化ガス放出への対処に関しては、気候変動モデルや国際協定において考慮されていないという問題がある、と科学者らは言う。

「やっかいなのは、その量だ」と語るのは、カールトン大学(カナダ)教授で、国際永久凍土学会の代表を務めるクリス・バーン氏。

「永久凍土由来の炭素の1─2%でも、世界全体での1年間の排出量に相当する」

科学者らの試算では、北半球の永久凍土には約1.5兆トンの炭素が含まれている。これは現在の大気中の炭素の約2倍であり、地球上の樹木・植物すべての約3倍に相当する。

ニキータ氏は、地球温暖化に対して単一の解決策は存在しないと語る。

「こうした生態系が温暖化対策に役立つことを証明しようと努力している。でももちろん、私たちの取り組みだけで十分というわけではない」

(Maxim Shemetov記者, Tom Balmforth記者、Clare Baldwin記者、 翻訳:エァクレーレン)

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