Reuters logo
コラム:イラクで「イスラム国」を打倒する方法
2016年10月18日 / 00:37 / 1年後

コラム:イラクで「イスラム国」を打倒する方法

[12日 ロイター] - イラクにおいてイスラム系過激派組織「イスラム国(IS)」を倒す方法はある。イラク国内のスンニ派住民に、バグダッドの中央政府による統制を受けない、別の国家を作ることを認めればいい。

 10月12日、イラクにおいてイスラム系過激派組織「イスラム国(IS)」を倒す方法はある。写真はイラク北部のモスルで旗をかざすIS戦闘員。2014年6月撮影(2016年 ロイター)

「スンニ派国家」というアイデアは目新しいものではないが、米国の顧問団とイラク側の協力者たちが北部モスルをめぐる重要な戦闘に臨むなか、今こそ、このアイデアを再検討すべきだろう。

国内第2の都市であるモスルを失うことは、イラクにおけるISの影響力に大きな打撃になるだろう。だが、近年のイラクの歴史が私たちに教えているように、モスルでの「その後」について適切な戦略がなければ、同組織が何らかの形で再び台頭してくる可能性が高い。

とはいえ、簡単な話ではない。故サダム・フセイン元大統領の失脚後、スンニ派住民はイラクで悲惨な経験を味わっており、それはたやすく忘れられるものではなかろう。

──関連コラム:アルカイダを凌駕したイスラム国の影響力

2003年に米軍が侵攻しフセイン政権を倒した後、国内のスンニ派住民はシーア派優位の政権のもとで暮らすことになった。スンニ派住民には、かつてフセイン元大統領に忠誠を誓い、軍から排除されていた数十万もの元イラク軍将兵も含まれていた。ISの前身、アルカイダは彼らの怒りに乗じてイラク国内に拠点を確立し、米軍と戦った。

だが、支配下に収めた地域に対してアルカイダはますます厳格にイスラム法を適用するようになり、スンニ派各部族の反発を招いた。

2006─2007年の「スンニ派の覚醒」と呼ばれる時期、米国政府はこうしたアルカイダに対する反発の高まりを利用した。米国はスンニ派の部族指導者たちにアルカイダと戦うための武器を供給し、その一方でイラク政府はスンニ派に対して政治的統合と政府治安部隊における地位を約束したのである。

だが、マリキ首相が率いる世俗的なシーア派政権は、スンニ派に対する約束を守ろうとしなかった。テロ対策法を利用した治安目的の一斉取り締まりで無実の同派住民を投獄し、政府職員から同派を排除し、同派の有力政治家に対して嫌がらせを行い、逮捕した。

2013年、マリキ政権の世俗主義に対するスンニ派の抗議行動をイラク治安部隊が弾圧したことにより、事態はいっそう悪い方に向かった。イラク国内のスンニ派が多数を占める地域において、ISが大きな支持を得るようになったのである。

──関連コラム:イスラムの攻撃が成功しない国

イラク政府によるIS対策は、軍事的にも政治的にも失敗した。マリキ政権に協力しているシーア派民兵は、至るところでスンニ派市民に暴行を加えており、ISが勢力を伸ばしていく過程で多くのスンニ派がISを支持する状況を招いてしまった。

イラク政府の対IS作戦が進捗を見せている今日でさえ、政府はあいかわらず、スンニ派市民に暴虐をふるうシーア派民兵を頼りにしている。ある米国当局者は、「スンニ派はISを保護者だと考えている。シーア派による復讐に対する防壁だと思っているのだ」と嘆いている。

イラク政府に対するスンニ派の不信感を考えれば、イラクのスンニ派住民のあいだにシーア派優位の中央政府への深い忠誠心が育まれるとは考えにくい。だからこそ米国政府は、統一イラクなどもはや夢物語であり、ISや他の原理主義的なスンニ派グループがイラクを蝕んでいくことを防ぐ唯一の方法は、スンニ派に彼ら自身の国を与えることなのだと悟るべきなのである。

スンニ派国家の創設は彼らにとってISに抵抗するインセンティブになりうるし、同じく重要な点として、将来的に、他のイスラム聖戦主義グループの台頭を防ぐことにもなる。

少なくとも最初のうちは、このスンニ派国家は現在のイラク領「クルディスタン(クルド人自治区)」に似たようなものでよかろう。クルド人自治区では、クルド人が広汎な自治権を与えられている。イラク憲法ではすでにこのレベルの自治が認められているため、スンニ派自治区を実現するために何ら超法規的な措置を取る必要はない。

イラク憲法第117条は、新たな連邦地域に対してかなりの自治権を与えている。そのなかには、独自の憲法を起草すること、現地法と矛盾する全国法を修正することが含まれている。

何より重要なのは独自の警察・治安部隊・軍隊を保有できることで、これによって、シーア派民兵やイラク軍が、スンニ派が多数を占める地域を巡回する必要性がなくなるわけだ。さらに第117条は新たな連邦地域に対して「国家歳入に対する正当な取り分」を認めている。

誤解のないように書いておくが、新たなイラク領「スンニスタン(スンニ派自治区)」を創設しようとすれば、その立案者たちは多くの問題に取り組む必要があるだろう。

確実に浮上すると思われる問題は、「スンニスタン」が最終的に統一イラク(分権化されるとはいえ)の内部に留まるのか、それともその先には完全な分離独立があるのかという点である。だが現在のイラクの不安定さ、そしてまずISを打倒する必要性を考えると、この問題は後日まで棚上げにしておくことも可能だろう。

もう1つ考えられる課題は、イラク政府からの賛同が得られるかどうかという点である。ISとの戦いにおいてイラク軍・シーア派民兵が果たしている重要な役割を考えれば、国内で新たにIS支配から解放された領域が分離独立の願いを叫ぶというのは、イラク政府にとっては決して喜ばしいことではなかろう。

さらに、イラクの石油収入のうち「スンニスタン」に配分されるべき「正当な取り分」とはいかなるものかという問題も、確実に議論の的になるだろう。何しろ、イラク国内の石油の大半がシーア派優位の南部と北部のクルド人自治地域に埋蔵されており、イラクのスンニ派地域は資源に乏しいからである。

もうひとつの課題は、突然「スンニスタン」で暮らすことになったスンニ派以外の少数民族がどのような状況に置かれるかという点だ。この問題を解決するには、米国がスンニ派の政治家・部族指導者に対して、「スンニスタン」内の少数民族の権利を尊重するよう圧力をかける必要が生じる可能性が高い。

これを成功させるために、米国政府としては、「スンニスタン」に対する政治的・財政的・軍事的支援の条件として、少数民族の尊重を求めてもいいかもしれない。いわゆる「スンニ派の覚醒」の時期に米国はスンニ派の部族指導者たちとうまく協力していたから、米国とスンニ派の協力が平和な「スンニスタン」をもたらすことも、もちろん可能だ。

最後の問題として、イラク国内スンニ派とシリア国内スンニ派との関係、そしてイラク領「スンニスタン」と同じものがシリアでも可能かという点がある。もしシリアの内戦が終息することがあれば、そのときには政府が国内スンニ派に同じようなソリューションを提供するような新憲法を起草できるだろう。

ロシアの介入、米ロ交渉の決裂、シリアのアサド大統領がシリア全土を再征服しようと決意していることを思えば、このような機会が間近に迫っているわけではない。だが長期的には、「イラク領スンニスタン」の合法的な創設が成功すれば、シリアにとってもモデルになる可能性がある。恐らく、イラク、シリア両国のスンニ派地域の統合さえ可能になるだろう。

「スンニスタン」の創設が自動的にイラクにおける過激主義の根絶につながるとは考えにくい。だがそれこそが、ISを打倒すると同時に、その後の平和を維持する最善のチャンスを提供する策なのである。

*筆者は米国際開発庁(USAID)の元プロジェクトオフィサーで、旧ソ連の経済改革プロジェクトに従事した経歴を持つ。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below