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コラム:今秋以降に円安加速か、背景にキャリー取引活発化の予兆=佐々木融氏

[東京 14日] - ドル/円相場の上昇が続いている。13日に公表された米6月消費者物価指数前年比が予想を上回ったことをきっかけに一段と上昇ペースが強まり、14日には1998年9月以来、約24年ぶりの139円前半まで上昇した。

 ドル/円相場の水準は実質的には24年ぶりどころの話ではなく、50年以上ぶりのドル高・円安水準となっている。佐々木融氏のコラム。写真は円紙幣。2013年2月撮影(2022年 ロイター/Shohei Miyano)

米連邦準備理事会(FRB)による利上げ期待の高まりがドルを押し上げた側面もあるが、円が独歩安となっている側面も強い。実際、過去1カ月程度、日米長期金利差とドル/円の相関関係は完全に崩れている。

<実質で50年超ぶりの円安>

また、これまでも指摘しているように、ドル/円相場の水準は実質的には24年ぶりどころの話ではなく、50年以上ぶりのドル高・円安水準となっている。なぜなら、消費者物価でみても、生産者物価でみても、過去24年間で米国の物価上昇率は日本の物価上昇率よりも80%ポイントほど大きく上昇しているからだ。

つまり、1998年当時と同じ日米の相対的な物価水準感となるためには、ドル/円相場は77円程度である必要がある。現在の1ドル=139円という水準は、実質的には1998年当時と比べてもはるかにドル高・円安水準となる。

ちなみに1ドル=139円で計算すると、米国のビッグマックは1個800円と日本の倍以上の値段となる。ミディアムサイズのポテトと飲み物を付けたセットにすると約1300円だ。1リットルのミネラルウォーターのペットボトルも500円を超える。それでも、平均年収が1000万円を超える米国人にとっては、それほど高く感じないのかもしれない。少なくとも平均年収が444万円の日本人から見るほどには高く感じないだろう。

<過去2年間で21%の円安>

ドル/円は直近4カ月間で約18%も急騰している。過去30年間で見て、ドル/円が4カ月間で18%程度も急騰したのは5回しかない。

このドル/円の急騰の内訳をみるために、円とドルの動きに分けてみると、円の名目実効レートは4カ月間で11%下落している一方、ドルの名目実効レートは4カ月間で6%の上昇となっている。ドル高・円安両方の要因があるが、円安がけん引している度合の方が大きそうだ。

円が本格的に下落トレンドを始めたのはちょうど2年前ごろからで、過去2年間で円の名目実効レートは21%も下落している。このペース以上での円下落は過去30年間で2回しかない。アベノミクス開始と過去最大の貿易赤字額を記録した2013─14年頃の円安と、1995年に付けた超円高水準からの反落(ドル/円の反発)局面だけだ。

<企業の海外移転と円安>

これまでも本コラムで何度も紹介してきているが、円安は最近始まった問題ではない。既にアベノミクスがスタートした2013年ごろから始まっている。円が弱くなり始めた原因は「日本企業によるキャピタルフライト」、つまり対外直接投資の急増が背景にある。

日本企業が国外に出て行った背景には、2011年3月の東日本大震災を契機としたサプライチェーンの変更、その後の米国や英国での保護主義的な動き、世界的な環境規制、日本国内の需要の弱さなど様々な理由があるだろう。いずれにせよ、結果として、日本の貿易構造は大きく変わってしまい、円相場の水準にかかわらず多額の貿易黒字を稼げない国に変わってしまった。

経常黒字は大きいが、ほとんどが所得収支となってしまっているので、日本に戻らず海外に再投資されている。ただ、その代わり、海外からの観光客が円を買い支える構図が見られ始めていた。2015年の時点で円は既にかなりの割安水準であったため、安さに敏感な観光客が海外から大挙して訪れ、日本で買い物をすることによって円を買い支えてくれていた。その規模は、以前の貿易黒字額の半分程度までに上っていた。しかし、今はその海外からの観光客の入国を制限し、ほぼ鎖国に近い状態となっている。

<コモディティ急上昇が拍車>

そして、直近4カ月間の円急落の背景の1つが、まさに日本の貿易構造の変化を直撃する原油等のコモディティ価格の急上昇を受けた貿易赤字の急拡大だ。

日本は鎖国をしていても、海外から大量のエネルギーや食料品を購入し続ける必要がある。5月の貿易赤字は単月として過去2番目に大きい1兆9500億円に達した。J.P.モルガンでは2022年の貿易赤字は11兆円を超えると予想しており、これは過去最大の貿易赤字を記録した2014年の10.5兆円を上回る赤字幅だ。

前述のように円は既に歴史的な円安水準、というレベルを超え、実質的には過去に例を見ないような円安水準となっている。従って「ここまで円安になったら、さすがに反転するのではないか」とも考えたくなる。

だが、そもそも世界が経済合理性よりもイデオロギーをより重要視するように変化してきている中で、今までのような「平均への回帰」は望めなくなってきているのかもしれない。

<整う円キャリーの環境>

さらなる円安方向への動きをサポートする材料は、日本の貿易赤字拡大だけではない。各国中央銀行の利上げを受けた近い将来の円キャリートレードの再開だ。13日にはカナダ中銀が予想を超える100bpの利上げを行った。14日にはフィリピン中銀が臨時の会合を開き75bpの利上げを行い、シンガポール通貨庁も予想外の金融引き締めを行った。

しかし、それでも世界の中央銀行の政策金利の加重平均値は、まだ2%台前半だ。低金利の円を借りて、高金利通貨を買う、いわゆる円キャリートレードは短期金利差が拡大すると行われる。2005年ごろから円キャリートレードが盛んに行われ、それが円安につながっていったのは、世界の政策金利の加重平均値が2%台後半から3%台に乗るタイミングだった。当社のエコノミストチームの予想によると、そのタイミングは今秋くらいのタイミングで訪れる。円は反転上昇どころか、一段の下落を示唆するような材料がこれから顕在化してくる。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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