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コラム:コロナ対応の日銀金融政策、マイナス金利継続がより容易に=鈴木明彦氏

[東京 20日] - 新型コロナウイルス感染の経済的打撃が広がる中、日銀の金融政策はデフレ脱却よりもコロナ対応に大きくかじを切った。

 1月20日、新型コロナウイルス感染の経済的打撃が広がる中、日銀の金融政策はデフレ脱却よりもコロナ対応に大きくかじを切った。都内の日銀本店前で2020年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

デフレ脱却の旗を降ろしたわけではないが、「新型コロナ対応金融支援特別オペ」(以下、特別オペ)による資金供給が急速に拡大し、12月のマネタリーベースは前年比約100兆円の増加となった。かつて同80兆円増加を目標に掲げていた時すら上回る拡大ペースだ。

また、日銀による国債購入がマネタリーベース増加の主役だった時とは異なり、マネーが日銀当座預金に滞留するのではなく、金融機関からの貸し出しとして市中にしみ出している。この結果、金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量であるマネーストックは、バブル期以来の高い伸びとなった。本当の意味での量的緩和が実現したとも言える。

しかも、この強力な金融緩和を、政策金利を下げることなく実現した。カギを握ったのは、特別オペの利用残高見合いで日銀当座預金に0.1%を付利したことだ。

金融機関が日銀の特別オペを利用して、企業への貸出しを拡大させれば、0.1%の金利がもらえるというマイナス金利のメリットが受けられる。一方、-0.1%が付利される政策金利残高は依然として存在しているので、遊んでいるお金にはマイナス金利の負担がかかってくる。

マイナス金利政策による「アメ」と「ムチ」の相乗効果は大きく、特別オペによる貸出残高は50兆円を超えている。

<金利を下げずに金融緩和できる手段>

新型コロナ禍への緊急対応を通じて、日銀はゼロ金利制約を克服して強力な金融緩和を実現した。しかし、デフレ懸念はなお強まっている。マネタリーベースだけでなく、マネーストックもバブル期並みに増加しているにもかかわらず、物価は上昇していない。日銀としてお手上げの感は否めないだろう。

物価の下落が続いていることについて、日銀は、新型コロナの影響による需要の減少、原油価格の下落、GOTOトラベルによる宿泊料の割り引きといった一時的な要因が影響しており、こうした要因を除けば物価の基調は前年比プラスを維持しているとしている。

もっとも、一時的な要因を除いても、物価が2%の安定目標に届いていないことに変わりはない。また、特別な要因に影響されたとはいえ、物価の下落が続くこと自体が問題という見方は強い。

金融政策決定会合でも、リフレ派と思われる審議委員が物価の下落を問題視する発言をしている。何らかの対応を示さないと、より強力で副作用の大きい対策を迫られることになりかねない。

こうした状況を考慮し,日銀は昨年12月の金融政策決定会合で、2%の「物価安定の目標」を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行うと表明した。

もっとも、今の物価下落は新型コロナの感染拡大による影響も大きく、それに対応する金融緩和はコロナによる経済の悪化防止に効果的であり、結果としてデフレ脱却にも有効な手段であるというスタンスだ。

特別オペを含む日銀の資金繰り支援特別プログラムは、あくまで新型コロナ対応のためのものであり、コロナショックの終息とともに終了すべきものだ。ただ、金利を下げなくても金融緩和できる手段を得たことは、日銀にとって大きな収穫といえる。

日銀が金融政策の検討を表明する一方で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを変更する必要はないと強調しているのはそのためだ。新型コロナ終息後も、日銀当座預金にアメのマイナス金利を付利するスキームは、何らかの形で続くことになるのではないか。

<オーバーシュート型コミットメントに金利も加える可能性>

日銀が行う点検はどのような政策調整につながるのか。黒田総裁は、イールドカーブ・コントロールの運営の仕方や資産買入れの方式などについて、改善の余地がないか検討していくという趣旨の発言をしている。

例えば、残高の拡大が企業ガバナンスの観点からも懸念されている上場株式投信(ETF)の購入ペースを、機動的に変動させるといった施策が出てくるのではないかと言われている。だが、それだけでは2%の物価安定目標を実現するという目標に対しては物足りない。

黒田総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で、以下の項目については堅持する意向を明確にした。

1)2%の物価安定の目標の実現。

2)2%の物価目標を安定的に実現するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続し、消費者物価が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するというオーバーシュート型コミットメント。

3)政策金利が、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているというフォワードガイダンス。

4)マイナスの政策金利。

これらの方針は、マイナスの政策金利の継続を物価安定の目標実現と連動させてオーバーシュート型コミットメントに加えることを排除しないという姿勢を示しているとも解釈できる。

米国ではゼロ金利政策と量的緩和策が続いており、ゼロ金利政策については、インフレ率が2%に上昇して、しばらくは2%をやや上回る軌道をたどるまで維持するとしている。これに対して日銀は、米国に先駆けてオーバーシュート型コミットメントを始めたが、その約束の対象に政策金利は含まれていない。

マイナスの政策金利の継続を、物価目標の超過達成と連動させて約束することは、米連邦準備制度理事会(FRB)のコミットメントを上回るものとなり、デフレ脱却を目指す日銀の姿勢をアピールすることになろう。

たしかに、マイナス金利の問題点は導入当初から指摘されていたことであり、それもあって日銀はマイナス金利の適用を限定的にしている。しかし、イールドカーブをフラットにし過ぎるというマイナス金利の問題点は、イールドカーブ・コントロールの導入で軽減されているというのが日銀の認識だ。また、前述のように、「アメ」となるマイナス金利の緩和効果を拡大させるという新たな役割も生まれてきた。

<事実上のゼロ金利政策に戻っている現状>

実は、新型コロナ対応の金融政策が続く中で、日銀にとってはマイナス金利政策の継続をコミットしても、金融政策を縛られないような環境が整備されてきた。表向きはマイナス金利政策が続いているが、実際にはゼロ金利政策に戻っているからだ。

マイナス金利政策が導入されるまで政策金利であった無担保コールレート(翌日物)の推移を見ると、ここ数カ月はマイナス領域ながらゼロに近い水準で安定的に推移している。あたかも誘導目標がある政策金利のような動きだ。

この背景には、マイナス金利の政策金利残高を抱えていた金融機関が、特別オペを活用して新型コロナ対応の資金繰り貸し出しを増やし、プラス金利が適用される日銀当座預金残高を拡大してきたことがある。マイナス金利での裁定取引を無理に行う必要が無くなってきたわけだ。

結果として、マイナス金利の裁定取引を除けば、無担保コールレートはゼロ金利での取引が中心であり、事実上のゼロ金利政策に戻っているとも考えられる。そうであれば、ここを起点にややスティープなイールドカーブを形成することは現行の枠組みで対応可能だろう。

事実上のゼロ金利政策への復帰によって、表向きのマイナス金利政策継続のコミットメントが可能になった。それによってデフレと戦う姿勢がアピールできるのであれば、日銀にとっても十分検討に値するのではないか。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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編集:北松克朗

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