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コラム:コロナが作った景気変動、すでに「山」を過ぎた可能性も=鈴木明彦氏

[東京 2日] - 11月30日に内閣府経済社会総合研究所が景気動向指数研究会を開催し、2020年5月を景気の「谷」(暫定的)とするという結論に至った。今回の谷の設定は、波及度、量的な変化、拡張(一般に言うところの回復)・後退期間の長さという3つの判断基準をいずれもクリアしており、議事概要はまだ公表されていないものの、異論が出ることもない決定だったと推測できる。

  12月2日、 内閣府経済社会総合研究所が11月に景気動向指数研究会を開催し、2020年5月を景気の「谷」(暫定的)とするという結論に至った。成田空港で11月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

大幅に悪化したコロナショックからの戻りだけに、まだまだコロナ前の水準に比べると厳しいという評価が今でも続くものの、回復へ転じたことははっきりしていた。

月例経済報告の景気判断を振り返ると、20年6月に「急速な悪化」から「下げ止まりつつある」に、翌7月には「持ち直しの動き」に上方修正されている。どちらも、5月を景気の谷と設定することと矛盾しない判断修正であった。

今回も、実感なき回復という指摘が出ているが、所得が伸びない中で景気回復を実感するのも難しいだろう。景気が回復しても所得があまり増えないことはもちろん問題だが、そもそも「回復」が今も続いているのか、ということを考えないといけない。

<政府の景気判断は限りなく「横ばい」>

月例経済報告の表現は昨年からかなり変わってきているが、「持ち直しの動き」という文言は死守している。直近11月の基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が徐々に緩和されつつあるものの、引き続き持ち直しの動きに弱さがみられる」となっている。

「持ち直しの動き」という言葉を守るために無理を重ねて、かなり難解な表現になっているが、この「霞が関文学」を注意深く読み解くと、結局、景気は横ばいと言っているようだ。

まず、前半の「新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が徐々に緩和されつつあるものの」は無視してよい。これは、景気の水準にかかる表現であり、過去の景気の上向きの動きの結果として、厳しい状況が緩和していると言っているのに過ぎない。今の景気の方向については何も語っていない。

後半の「持ち直しの動きに弱さがみられる」が、景気の方向を示す主たる判断となるのだが、肝心の基本判断が書かれていない。景気の方向の判断は上向きを示す回復(「よくなっている」、「持ち直している」など)と、下向きを示す後退(「悪化している」、「弱まっている」など)のどちらかだ。ただ、最近はどちらとも言えない状況が増えており、それは「横ばい」、「足踏み」などと表現されることになる。

それでは、今は「持ち直している」のかというとそうではない。もし、景気が「持ち直している」のであれば、「持ち直しの動き」などという表現が入る余地はない。景気が「横ばい」だからこそ、そこに「持ち直しの動き」が現れてくる。「持ち直しの動き」が続いているということは、景気は「横ばい」を続けているということだ。

しかも、「持ち直しの動き」に「弱さがみられる」のであれば、「持ち直しの動き」は限りなくゼロに近い。11月の月例経済報告の基調判断を簡潔に言えば、「景気は横ばいを続けている」ということになる。

<むしろ今は「下向きの動き」>

景気は横ばいを続けているとして、むしろ今は上向きの動きではなく、下向きの動きが出ているのではないか。7─9月期は、生産も輸出もかなり落ち込んだ。これを反映して景気動向指数(CI・一致系列)も3カ月連続で低下した。

もっとも、7─9月期の経済指標の落ち込みは、景気の基調の変化だけでなく、特別な要因が影響したものだ。世界的な半導体の不足や新型コロナの感染拡大による東南アジアでの部品、材料の生産停止といった要因が自動車を中心に生産活動の停滞を生んだ。結果として、生産や輸出を大きく下押しした。

こうした状況は最悪期を脱している。半導体の不足は解消に向かい、東南アジアの部品や材料の生産も再開されている。10月以降は輸出や生産の持ち直しが続く見込みだ。今月7日に発表される10月の景気動向指数も4カ月ぶりに上昇が見込まれ、その後も上昇が続きそうだ。

<今回の回復はすでに終了か>

しかし、こうした反発は、短期的な動きにとどまるのではないか。自動車生産の大幅な減少に注目が集まって、そこが戻してくるのでひと安心というところだが、自動車以外の生産を見ると、今年の中ごろをピークに頭打ちとなっている。中国を初めとする世界的なコロナショックによる落ち込みからの回復が、一巡してきているようだ。

在庫循環図を見ると、9月、10月と出荷が前年比で減少する一方、在庫は増加に転じ、45度線を抜けて、在庫調整局面に入っている。部材の不足が解消されて在庫が積み上がっているとの解釈も可能であり、今後、自動車などの出荷の増加が見込まれるので、在庫循環図がいったんは逆回転する可能性もある。しかし、一般論としては、今の在庫循環図は景気が「山」をつけた可能性を示唆している。

足元で、ウイルスの新しい変異型の感染が広がるなど、新型コロナの感染状況からは今後も目が離せず、経済活動に与える影響も懸念されている。水際対策の強化や3回目のワクチン接種の円滑な遂行などが重要になってくるわけだが、昨年春のような経済活動の停止がまた起こることは回避できると考えたい。

それでも、20年5月を底にした景気の持ち直しは終わり、すでに足踏み状態が続いており、下向きの動きに注意しなければならない時期になっているのではないか。

<今年5月は「山」だったのか>

景気の山・谷の設定に際しては、景気動向指数の一致系列の個々の採用系列に山と谷を設定し、谷から山にいたる期間はすべて上昇(プラス)、山から谷にいたる期間はすべて下降(マイナス)として、ヒストリカルDI(全系列が上昇なら100%、全系列が下降なら0%)を算出する。ヒストリカルDIが上から下に50%ラインを切ると、切る直前の月が景気の山の候補になってくる。現時点でDIを試算してみると今年6月に50%を下回ってきているので、今年5月がひょっとすると「山」になるかもしれない。

DIの算出に際しては、個々の系列について長い期間の移動平均をとって山・谷を判定することや、個々の系列の数字が過去に遡って改訂されることもあって、実際には1年半ぐらい先にならないと山・谷の判定は難しい。

また、景気の落ち込みがだらだらした動きであると、DIの50%割れが続いて2014年3月のように「山」の候補になった場合でも、景気動向指数研究会では「山」と認定しない可能性もある。

ただ、正式に景気の「山」が設定されるかどうかは別にして、前の「谷」を設定した時には、すでに次の山を過ぎてるかもしれないというリスクを想定しておく必要がありそうだ。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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