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2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ、政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏

[東京 2日] - 世界的には新型コロナウイルスのオミクロン株感染が拡大し、新型コロナとの戦いが続いているものの、日本の新規感染者数は落ち着いている。もちろん、再び感染が拡大することは想定すべきだが、遅ればせながらワクチン接種が進んだことで、感染抑制に効果があったことは間違いない。

 1月2日、世界的には新型コロナウイルスのオミクロン株感染が拡大し、新型コロナとの戦いが続いているものの、日本の新規感染者数は落ち着いている。都内で2021年12月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

新型コロナ感染をゼロにするというのは現実的ではないが、3度目のワクチン接種を円滑に進め、水際対策によって海外からの感染拡大を抑え、国内でも「Go Toトラベル」など感染拡大のリスクがある施策の再開には十分注意を払い、感染対策をしっかりと取っていけば、2020年春のような大混乱は回避できるのではないか。

アフターコロナとまではいかないが、ウイズコロナでも経済社会が混乱しないような「新たな日常」の構築ができてきていると期待したい。

<日銀の新型コロナ対応も縮小>

日銀の新型コロナ対応策も、感染拡大による金融市場や経済への影響が落ち着くにつれて、縮小方向にかじが切られている。新型コロナ対応金融支援特別オペの影響で急増していたマネタリーベースは、2021年3月末をピークに前年比増加額が縮小に転じている。

2021年12月の金融政策決定会合では、国内の金融環境は全体として改善しており、特に大企業金融については、CP・社債市場の発行環境は良好になっているとした上で、新型コロナ対応のCP・社債の買い入れ額の増額措置を2022年3月末で終了することが決まった。

一方、中小企業の資金繰りは、改善傾向にあるものの一部に厳しさが残っているとして、新型コロナ対応特別オペについては、カテゴリーⅠのプロパー融資分については、カテゴリーを変えずにプラス0.2%の付利を維持し、マクロ加算残高への2倍加算も維持したまま、2022年9月末まで延長されることになった。

しかし、プラス0.1%の利息が付くカテゴリーⅡのうち、大企業向けや住宅ローンなど民間債務担保分は、延長されずに2022年3月末で終了することになった。

また、新型コロナ対応の中小企業向けの制度融資分(緊急経済対策における無利子・無担保融資や新型コロナ対応として信用保証協会の保証の認定を受けて実行した融資)については、カテゴリーⅢに移行し付利金利がゼロ%となり、マクロ加算残高への2倍加算をやめて同額加算とした上で、2022年9月末まで延長されることになった。

2022年4月以降は、CP・社債の買い入れや新型コロナ対応オペの利用が縮小していく見込みであり、マネタリーベースの増加ペースもさらに低下してくるだろう。

<デフレとの戦いが再開するのか>

日銀の新型コロナ対応が縮小してくれば、しばらく休戦状態だったデフレとの戦いが再開するのが自然な流れだ。しかし、デフレ脱却の機運は盛り上がりそうにもない。

想定以上の消費者物価の上昇に直面してテーパリング(資産購入の削減)を加速している米国に限らず、世界的に今やインフレ警戒モードに入っている。日本の物価上昇率は相変わらず低いが、それでもエネルギーはじめ資源価格が高騰するなか、日本だけがインフレと無縁というわけには行かない。

11月の全国消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は、前年同月比プラス0.5%とエネルギー価格を中心にやや上昇してきた。さらに「Go Toトラベル」が中断していることにより消費者物価が0.3%ポイント強押し上げられる一方で、携帯通信料金の引き下げによって1.5%ポイント弱押し下げられていることを考えると、政策等の要因を除いた消費者物価の実勢は同1.6─1.7%になりそうだ。2%の物価安定目標には届かないものの、日本としてはかなりの上昇率だ。少なくともデフレではない。

さらに2022年2月、3月とエネルギー関連以外でも価格の引き上げが見込まれる。コスト上昇を吸収して販売価格に転嫁しないという日本的企業行動もいよいよ限界にきている可能性がある。4月には携帯電話料金の引き下げ効果が、7─8割程度はく落する。公表ベースでも消費者物価上昇率が2%を超えてきて、世の中ではデフレ脱却ムードが高まるかもしれない。

<デフレより怖いインフレ>

もっとも、デフレ脱却を歓迎するムードは広がらないだろう。今や日銀の懸念は、デフレよりもインフレではないか。今年の賃上げ交渉である程度の賃上げは続くであろうが、消費者物価が2%も上がっていたら、実質所得はまず増えそうもない。

2022年はデフレではなく、インフレが経済に及ぼす悪影響に注意しなければならない。物価上昇は一時的かもしれない。しかし、一時的と思ってのん気に構えていた米連邦準備理事会(FRB)は、今や一時的ではなかったと誤りを認めて、テーパリングの前倒し、さらにその後の利上げを模索している。

地球温暖化防止、長引く米中の対立という環境変化を考えると、これまでのように効率性を追求してコストを抑えるというビジネスモデルを続けることは難しくなっており、脱炭素社会の構築や経済安全保障のためのコスト拡大は、避けられなくなっている。

日本の物価が、米国と同じように上がってくるということはないとしても、1985年のプラザ合意以降続いていた円高の流れも終わり、物価を取り巻く環境がデフレをもたらすものから、インフレをもたらすものに、構造的に変わってきている可能性は否定できない。

少なくとも、所得があまり増えていない日本では、米国よりマイルドなインフレでも経済に与えるダメージが大きくなる。デフレ脱却を推進してきた黒田東彦日銀総裁も、円安が物価上昇を通じて家計所得に及ぼすマイナスの影響については、心配するようになっている。

<見直しが必要となる政府・日銀の共同声明>

2022年はデフレでも円高でもないが、相変わらず日本経済は元気がないという年になるかもしれない。あれだけデフレ脱却が重要と言い聞かせられてきたのに、いざ物価が上がりそうになると「これは悪いインフレです」では、はしごを外されたようなものだ。川上の原材料価格が上がった物価上昇が経済にとってマイナス効果があるのは当然だとしても、そうであれば、何が何でも物価を2%上げることが大事という主張に矛盾があった。

2013年1月の政府・日銀の共同声明もいよいよ10年目に入る。この声明で日銀が約束した2%の物価安定目標はいまだに達成できず、デフレ脱却宣言も出せないままだ。もっとも、共同声明自体は、何が何でも2%の物価目標を達成すればいいという考え方に立っていない。

共同声明には、2%の物価安定目標に関して「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している」という一文が付されている。

この考え方に立てば、円安や原材料高による物価上昇は、たとえ2%を超える上昇をもたらしたとしても「偽りのデフレ脱却」である。しかし、それでも、2022年は久々の物価上昇に合わせて、デフレ脱却宣言や共同声明の見直しが議論されるようになるのではないか。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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