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コラム:日銀の政策維持継続でも、実質的に金融緩和が縮小する構造=鈴木明彦氏

[東京 7日] - 日銀の黒田東彦総裁は、3月22日の記者会見で物価情勢について問われ「プラス幅をはっきりと拡大すると予想しています」、「4月以降、当分の間は、2%程度の伸びとなる可能性があります」と答えている。

 日銀の黒田東彦総裁は、3月22日の記者会見で物価情勢について問われ「プラス幅をはっきりと拡大すると予想しています」、「4月以降、当分の間は、2%程度の伸びとなる可能性があります」と答えている。都内で2013年9月撮影(2022年 ロイター/Yuya Shino)

同時に、エネルギー価格など国際商品市況の上昇は「コスト増を通じた物価の押し上げ要因になる一方で、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、わが国経済に悪影響を与える」として、輸入物価の上昇に起因する物価上昇で物価上昇率が2%程度になっても、それは「2%の物価安定の目標が達成されたということではない」と述べている。インフレが起きる可能性があるが、それはデフレ脱却ではないと言っているようだ。

金融政策については、デフレは脱却していないので「持続的・安定的な物価上昇を目指して、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当である」として、物価が2%上がったとしても「そのことは現在の金融政策を修正する必要性を全く意味していない」と明言している。

<物価上昇でも政策変更しない理由>

黒田総裁が言及している金融政策の修正とは、金融政策決定会合で正式に決まる政策変更を指すのだろう。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の変更、マイナス0.1%の政策金利の引き上げ、ゼロ%の10年物国債金利誘導目標の引き上げなどが、黒田総裁が否定する金融政策の修正と考えられる。確かに、こうした金融政策の修正を行うことを日銀は考えていない。

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みは、デフレを脱却した後も使えるスキームだ。これを今変える必要は全くない。

また、利上げを行える状況ではない。日銀は、景気持ち直しという判断を変えていないが、景気動向指数を見ると、昨年中ごろから景気は足踏み状態を続けている。つまり景気は停滞している。そこに物価が上がってくることを考えれば、スタグフレーションが起こる可能性に注意すべきだ。

黒田総裁も認めるように、国際商品市況の高騰による輸入物価の上昇は日本経済を下押しする要因となる。だが、それに対して利上げを行っても、輸入物価の上昇には効果が無いだけでなく、国内景気の悪化を加速しかねない。

<「よい物価上昇」はない>

一方で、デフレ脱却か否かはさておき、久しぶりに物価が2%上がろうとしている。数字上は2%の物価安定目標を達成し、インフレの悪影響を懸念しなければならない状況となる。その原因が何であれ、物価の上昇それ自体は、家計の実施所得を減少させる。

悪い物価上昇などと言われているが、よい物価上昇などない。所得の拡大を伴う物価上昇であっても、それはよい物価上昇ではなく、我慢できる物価上昇ということに過ぎない。久方ぶりに2%を超える物価上昇が起きるのであれば、多少賃金が増えるとしても、我慢できない物価上昇が起ころうとしていると考えるべきだ。

政府が、その効果の程度はともかく「物価高対策」の検討を始めているのはそのためだ。そうした時に、日銀が今までと同様に2%の物価安定目標をできるだけ早く達成するための強力な金融緩和政策をそのまま続けることは難しいだろう。

<着々と進む金融緩和縮小>

金融政策の修正はないと言いつつ、金融政策決定会合の決定が必要ないところでは、着々と金融緩和の縮小が始まっている。むしろ、さまざまな金融政策の修正を金融政策決定会合の決定を経ることなく行えるようにしてきたこれまでの「工夫」が、今花開いている。

まず、10年物国債利回りは、ゼロ%の誘導目標を挟んだ上下0.25%の変動幅の上限近くで推移するようになっている。日銀は、指し値オペや連続指し値オペを使って0.25%の上限を守る、つまり金融政策の修正を行わないという姿勢を強調している。

もっとも、金利の上昇を抑えるためにやるべきことをやった上で、それでも0.25%の上限を抜けてしまうのであれば、それは市場の実勢を反映させた結果であり、金融政策の修正ということにはならないだろう。

いずれにしても、マイナス金利政策を導入した時にはマイナス0.3%近傍まで低下し、イールドカーブコントロール導入後も誘導目標のゼロ%近傍で推移していたことを考えれば、金融政策の修正と言えなくもない。

実際、許容する変動幅を0.25%まで広げていたから政策修正と認識されていないが、そうでなければ金融政策決定会合での誘導目標修正が必要だったのではないか。

また、かつては政策金利であった無担保コールレート(翌日物)は、マイナス金利政策を導入し時には政策金利に近い水準で推移していたが、今はマイナスではあるもののかなりゼロ%に近づいている。もし、無担保コールレートが政策金利のままであったなら、この変化はマイナス金利政策からゼロ金利政策への復帰ということになる。明らかに金融政策決定会合の決定が必要な政策修正であったはずだ。

<コロナ対応ピーク時からは量的縮小へ>

マネタリーベースの増加ペースは、新型コロナ対応が始まって、昨年春ごろの増加ペースは前年比100兆円を超え、80兆円の量的目標を掲げていた時よりも増加した。しかし、そこをピークに前年比増加幅は縮小し、事実上のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)が始まっている。

欧米のように量の目標を掲げていると、その目標を引き下げることは、重大な金融政策の修正になる。しかし、量的・質的金融緩和を続けているものの、イールドカーブ・コントロールを導入した時に、前年比増加額という量の目標を無くしているので、金融政策決定会合の決定が不要である。つまり、黒田総裁が言うところの金融政策の修正ではない。

今月からは、新型コロナ対応特別プログラムの縮小が始まる。これは、マネタリーベースの縮小を伴うことになりそうだ。オーバーシュート型コミットメントでは、消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することになっている。本来であれば、マネタリーベースの縮小が続くことは、まだ許されないはずだ。

マネタリーベースの減少が起こりうることについて、日銀は「2020年春以降のマネタリーベースの増加は、感染症拡大による企業等の予備的な流動性需要の高まりに対し、日本銀行が潤沢な資金供給によって応えてきた結果であり、感染症の影響が和らげば、流動性需要の後退に伴い、マネタリーベースも減少する筋合いにある」と認識している。

同時に、このようなマネタリーベースの変動は短期的なものであり、そうした変動をならした長期的なトレンドでみれば、マネタリーベースの増加基調は維持されるため、オーバーシュート型コミットメントとは矛盾しない、というのが日銀の判断だ。

しかし、マネタリーベースが縮小するという現象だけ捉えれば、これは量的引き締めの始まりということになる。

金融政策の修正は行わないという日銀の説明はこれからも続くだろうが、実際には、金融緩和の実質的な後退が始まっている。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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