September 11, 2018 / 7:22 AM / 11 days ago

コラム:トランプ「抵抗」論説、民主主義に灯された希望か

[7日 ロイター] - その良いニュースは、ドナルド・トランプ氏の「道徳観念の欠如」を批判した匿名の警鐘にうまく隠されていた。

ニューヨーク・タイムズ紙に匿名で寄稿した米政権幹部は、彼自身、そして同じ思いの同僚たちがいかにして「(米大統領が掲げる)政治目標の一部や、最悪な性向を懸命に阻止しようと努めている」かを書いた。そこには、民主的な習性、そして何より重要な市民の良識と責任感が、自由なジャーナリズムと連帯し、堕落した政権に打ち勝つことができるというメッセージがあった。

世界の民主主義は今、勇気を必要としている。この匿名の論説は、私の理解が正しければ、その役割を果たしている。この数カ月、民主主義の衰退、あるいは終えんとさえ嘆く本が書店にあふれている。これらの本は雄弁で説得力があり、悲観的だ。その中には、スティーブン・レビツキー氏とダニエル・ジブラット氏の共著「How Democracies Die(民主主義はいかに死ぬか)」や、ジョナ・ゴールドバーグ氏の「Suicide of the West(西側の自殺)」、エドワード・ルース氏の「西側リベラリズムの撤退」などが含まれる。

ルース氏によれば、米国のリベラル派は、より自由な社会への歩みはいったん中断した後に再開すると考えている。「彼らの考えが正しかったらどんなにいいことか。そうではないかもしれない」と、同氏は書く。

私も彼らが正しいことを望んでいる。論説を寄稿した政権幹部は、私にそのようなばかげた楽観主義の根拠を与えている。というのも、強力な「抵抗勢力」の存在をあぶりだしたからだ。トランプ氏のような人物から大きな困難が浮上しても、それにあらがう大きな力があることを示した。

民主主義は、政府や指導者の行動、政策の中に単に存在するものではない。市民の行動や志にずっと根付いてきたもの、そして今も根付いているものだ。

重要なことに、こうした市民には公務員も含まれる。彼らは政府に仕えているが、同時に、市民を意味するラテン語の「キーウィス(civis)」に属する公民でもある。古代ローマでは、共和制を形成する中で、ローマ市民の地位を授与されることよって民主的な力を与えられた。「公務員(civil servant)」という言葉は、国家の官僚制に内在する葛藤を表している。

官僚は大統領や首相に仕えるのであって、権力者の気まぐれに仕えるのではない。公務員は奴隷ではない。これは相互的な関係を暗示しており、逆に権力者は、民主的な責任を順守することが求められる。これは公務員が奴隷である独裁国家と、民主国家の違いを示す特徴の1つである。

独裁国家ではない国、特にかつて独裁国家だった国に必要不可欠なのは、政治家が自身の使命において最低限の責任をまっとうできることだ。自らの権力を維持する民主的メカニズムと礼節を守ることだ。彼らもまた公僕である。市民に仕えるという大きな特権を有している。

ポピュリズム的な政治が勢いを増すにつれ、公務員に内在する葛藤は高まり続け、彼らの一部は沈黙を強めていくことになるだろう。新たに台頭する政治家のスローガンは意図的に雑なものになる。彼らは右派左派問わず、既存の政策や主流派の慣行に風穴を開け、自らが国民の意思だと解釈するものに置き換えようとするからだ。そして実際、それが国民の望むものになり得る。

だが、ポピュリストはトランプ氏のように振る舞いがちである。ポピュリストの指導者は、自身が国民の力を唯一体現する者であり、成熟した民主国家が長年かけて確立してきた抑制と均衡のシステムを踏みつける権利があるととらえる傾向がある。

これは、世界で2番目にポピュリズムが顕著なイタリアの例で明らかだ。政権を発足させるために不安定な連立を組んだ反体制派政党「五つ星運動」と反移民を掲げる右派政党「同盟」は、選挙後しばらく経験しなければならない困難で退屈な課題に直面している。公約を国家の現実に合わせるという難業だ。

イタリアの問題は、国内総生産(GDP)比132%弱にのぼる公的債務ときわめて低い成長率にある。サルビーニ副首相は9月に入り、経済官僚と相談の上、財政赤字のGDP比が欧州連合(EU)の定める上限3%を超えないようにすると表明した。同副首相は「われわれはこの国を成長させることができる。われわれを監視する者たちをいらだたせることなく、国民の気持ちを晴らすことが可能だ」と主張した。これは3月の選挙以降に政府が発信してきたメッセージに逆行する。

いずれ分かる。サルビーニ氏の発言は時間稼ぎだ。彼はEUよりも国民からの負託に答えると主張し、EUが定める債務上限を守らないかもしれない。今のところは経済官僚のほうが優勢のようである。学校ではこの夏、義務化されたワクチン接種に校長らが反対の声を上げた。

政治家が非市民的な指導者に反旗を翻すこともある。英国では野党・労働党のコービン党首が反ユダヤ的と取られる発言で批判を浴びる中、党執行委員会は国際ホロコースト追悼同盟の定義をようやく受け入れた。しかし、コービン氏が「イスラエルと同国の政策、国の成り立ちに関して人種差別主義者と表現するのは反ユダヤ主義とみなされる」べきではないとする確認文書への承認を求めると、議論は紛糾した。

コービン党首の政治は、自身をイスラム原理主義組織ハマスと同列に置くものだ。ハマスはその憲章で、イスラエルを「人種差別的で反人間的、植民地主義的」としている。コービン氏がそこまでして主張したのは、党員から一時的に距離を置いても構わないという覚悟があったからだろう。一方で党員が同氏を厳しく非難したのは、党首と同じ考えだと見られたくなかったからだ。(しかし最後に笑うのはコービン氏かもしれない。ロンドンのいくつかのバス停では6日、「イスラエルは人種差別国家」という看板が掲げられていた。)

試練が訪れたとき、民主国家や市民社会は今も健全な動きを見せる。ポピュリストは国民の不満を訴え、そうした不満には強力な基盤がある。不満を解決するために権力を追い求める姿勢は正しい。

だが、民主主義は責任を求める。政策の良い部分だけでなく、悪い部分も説明しなくてはならない。最高権力をチェックするのに必要な機関を通じて活動しなくてはならない。(たとえ国民から支持されたとしても)単なる偏見と、正当な政策を切り離さなくてはならない。

道徳観念、市民の公僕、そして勇敢な政府高官は、われわれが奈落の底に落ちることから救ってくれる。そしてわれわれに、暗い未来から後戻りができるという希望を与えてくれる。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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 9月7日、その良いニュースは、ドナルド・トランプ氏(写真)の「道徳観念の欠如」を批判した匿名の警鐘にうまく隠されていた。ワシントンで5日撮影(2018年 ロイター/Leah Millis)

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