June 18, 2019 / 4:53 AM / a month ago

コラム:豪ドル/円は「買い下がり」の好機か=植野大作氏

[東京 18日] - 豪ドル/円が下落している。6月18日には一時73円99銭と1月3日以来、約5カ月半ぶりの安値を記録した。4月17日に刻んだ年初来高値の80円72銭から、わずか約2カ月で8.3%もの値下がりだ。以下、今後の展開について筆者の見解を示しておく。

 6月18日には一時73円99銭と1月3日以来、約5カ月半ぶりの安値を記録した。今後の展開について植野大作氏の見解。(2019年 ロイター/Daniel Munoz)

当面の豪ドル/円には一段の下値不安がつきまとうだろう。現在、国内外の市場で最大の懸案になっている米中通商協議は難航しており、一体いつ決着するのか、視界不良の状態にある。米国と中国の摩擦激化は、豪州にとって2大貿易相手国である米中の景気下振れ懸念を想起させ、豪ドル/円の上値を圧迫する心理的な重しになっている。

金利情勢に目を転じても、オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は4日の理事会で政策金利を2年10カ月ぶりに引き下げ、過去最低の1.25%に誘導した。18日に公表されたRBA議事録で追加緩和の可能性が示唆されていたこともあり、金利先物市場では年内2回の追加利下げを6割近い確率で織り込んでいる。

日本人投資家の目からみて、金利の魅力で米ドルに負けている豪ドルを、あえていま買う理由が見つからない。利回り曲線の全域で豪ドルの金利が米ドルの後塵を拝しているうちは、豪ドル/円の上値が目立って軽くなるとは思いにくい。

テクニカル的にみると、2000年代以降の豪ドル/円は、高値107円台、安値55円台までの広いレンジで派手な上下を繰り返している。中心線は81円台に位置しており、当面はこの水準前後の価格帯が上値抵抗として意識され、豪ドルの80円台復帰を妨げそうだ。

ただ、だからと言って今後の豪ドル/円の下落に歯止めが掛らなくなり、値崩れし続けるとは思いにくい。あくまで私見だが、今年1月3日の早朝に起きたフラッシュクラッシュ(瞬間暴落)の際に記録した70円64銭が今年の大底だった可能性が高いと考えている。

<買い下がりすべきか>

5の倍数でキリのよい75円を割ってきたので、そろそろ買い下がりの是非を検討し始めても良いのではないか。以下、そのように考えている理由を2つ挙げておく。

第1に、最近の豪ドル安の原因になっている米中景気の悪化懸念はやや行き過ぎだ。まず米国では、短期金利が長期金利を上回る「逆イールド現象」が起きたことを「景気後退の予兆」として警戒する向きもあるが、筆者はそれほど心配していない。

1990年代以降、米国で3回起きた景気後退の前には長短金利が逆転しているが、いずれも米連邦準備理事会(FRB)の利上げによる短期金利の上昇が主因だった。今回の逆イールドは長期金利の低下で生じており、長短金利の平均水準はむしろ低下している。

最近の米長期金利の急速な低下は、世界有数の債権国である日本やドイツなどで長期化している超低金利の影響で、国内債への再投資では必要な利息を稼げなくなった投資資金の米国債市場への流入によって促された可能性もあり、むしろ米国景気を刺激する効果があるかもしれない。

一方、中国では実質経済成長率の低下が続いている。だが、中国の成長鈍化は今になって始まった現象ではない。具体的な数字でみると、2012年第4・四半期の前年比8.1%から19年第1・四半期の6.4%に至るまで、恒常的かつ緩やかに低下しているが、最近その勢いが増している印象はない。

あくまで私見だが、この程度の成長鈍化は中国経済の発展に伴って生じている自然な現象だと考えている。例えて言うなら、売上高1億円の会社を1億1000万円に伸ばすのは簡単かもしれないが、売上高が1兆円まで成長すると、それを1兆1000億円に伸ばすのは楽ではない。

かつて日本がそうであったように、国の経済規模が大きくなれば成長ペースが鈍化するのはごく自然なことだ。世界第2位の経済大国になった中国の成長率は今後も緩やかに低下し、いずれは先進国並みの水準に落ちていくだろう。中国経済の健康状態を診断するとき、「景気の悪化」と「自然成長率の低下」は区別して考える必要がある。

もちろん、米中間の通商摩擦が両国経済に与える悪影響には注意が必要だ。ただ、米国による対中関税攻撃の履歴を見ると、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税がかけられ、中国が128品目の米国製品に最大25%の関税で反撃したのは昨年の3月23日だった。

それからもう1年以上が経ったので、米国の鉄鋼・アルミ増税や中国の対抗関税による国内物価や企業収益の前年比に対する悪影響は既に消えている。日本で消費増税が実施されたとき、物価上昇率を押し上げる「前年比効果」が1年でなくなるのと同じ原理だ。

その後、米国が対中制裁第1弾として340億ドル(約3.7兆円)分の中国製品に対し25%の追加関税に踏み切り、中国が同額同率で反撃したのが昨年7月6日、160億ドル分の輸入増税で張り合った第2弾が同年8月23日だった。米国が2000億ドル分の中国製品に10%、中国が600億ドル分の米国製品に5─10%の関税をかけた第3弾は同年9月24日に実施されているので、今年10月にはこれらの輸入増税による「前年比効果」も剥落する。

あとに残るのは今年の5月10日に米国が第3弾の追加制裁として行った2000億ドル分の中国製品に対する関税率の10%から25%への引き上げと、それに対する反撃として中国が6月1日から実施した600億ドル分の米国製品に対する最大25%までの税率アップの影響だけだ。両国の経済規模で吸収できない金額ではないのではないか。

<オーストラリア「奇跡の長命景気」>

第2に、そのような筆者の推測が正しく、今後の米中両国の経済が拡大基調を維持するなら、豪州経済への悪影響も限られるだろう。

最近の豪州経済指標をみる限り、物価の伸びこそ政策目標に達していないが、実質経済成長率は1991年第2・四半期を最後に2四半期連続の前期比マイナス成長を回避、前年比では109四半期連続のプラス成長を記録している。「インフレなき経済成長の持続」は、中央銀行が目指す理想に近く、「奇跡の長命景気」を維持するため矢継ぎ早の追加利下げが必要になっているとは思えない。

今月RBAが実施した利下げは海外経済の悪化リスクに配慮し、景気拡大を長持ちさせるための保険的な意味合いが強い。現在米国の金融市場で発生している年内2─3回程度の利下げ観測は行き過ぎの可能性があり、米FRBのハト派傾斜を起点に始まった先進国中銀の「緩和ドミノ」が一巡すれば、RBAに対する追加利下げ観測も後退、豪ドル/円の失地回復を促すのではなかろうか。

ちなみに、2000年代以降に観測された豪ドルの下落局面において70円台で底入れせず50円台まで差し込み傷が入ったのは、米国のITバブル崩壊とリーマン・ショックの時だけだ。その後は、今世紀高値107円台から史上最安値55円台までの下げ幅の38.2%戻しに当たる75円台を割り込む水準での滞空時間は比較的短く切り返している。

今後米国が約3000億ドル分の中国製品に対する25%の対中制裁第4弾まで一気に実施したならば、さすがに米国経済も腰折れするかもしれない。だが、株高志向の強いトランプ大統領が、市場の警告を無視して大統領選挙前の景気失速リスクを冒すとは思えない。月末に開催される主要20カ国・地域(G20)大阪首脳会議(サミット)で米中首脳会談が開催され、米中停戦合意ができたなら、豪ドル/円の買いで臨みたいと考えている。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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編集:宗えりか

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