July 24, 2018 / 5:48 AM / 5 months ago

コラム:日銀がやってはいけないこと=木野内栄治氏

[東京 24日] - 日銀が7月30―31日の金融政策決定会合で、政策の微調整を行うとの観測報道が増えてきた。日銀は2019年度に物価目標が達成できると従前は展望していたが、足元では物価が伸び悩んでおり2019年度の物価目標達成は難しそうだ。

 7月24日、大和証券チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストの木野内栄治氏は、日銀が金融政策の微調整の検討に追い込まれる可能性が報じられているが、良い方向に調整が行われるかは疑わしいと指摘。写真は都内にある日銀本店前で2016年7月撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)

これまでも物価目標の達成時期はたびたび後ろ倒しになってきたが、今回は2年程度を念頭に置いた先送りは難しい。2年後の2020年度は消費増税の悪影響が強く、消費者物価は抑制されやすいからだ。実際、今月の内閣府による「中長期の経済財政に関する試算」でも、「物価上昇率が2%程度に達するのは2021年度」とされた。

今回、様子見を決め込むのも日銀としてはリスクがある。経済・物価情勢の展望(展望レポート)付きの10月30―31日の決定会合直前に日銀は金融システムレポートを公表しなければならず、客観的な評価を行うヒートマップ上で、金融機関の貸出態度判断に赤信号がともる可能性があるからだ。貸出態度が過度に緩くなりつつある中、折あしく銀行の不適切な融資が表面化している。過度な金融緩和によって、不適切な融資実行に民間銀行を誘導した可能性があると日銀が自ら認めるかたちになりかねない。

こうしたテクニカルな状況から、7月の決定会合では3年以上持続できる政策の検討に追い込まれるだろう。足元では円高や貿易戦争への不安もあり、今回は政策の微調整までは至らないかもしれないが、「持続性のある金融政策パッケージを検討し、次の決定会合までに報告するよう執行部に指示した」などの文言が飛び出てきてもおかしくないと、筆者はみている。

<緩和効果減じる金融版リカーディアン均衡>

物価の伸び悩みは「負のヒステリシス(履歴効果)」の影響が大きいと筆者は思う。雇用のスラック(需給の緩み)だけでなく、企業設備のビンテージ(平均年齢)が長期化したことから、設備投資余地があり、その投資は賃金を抑制する効果も大きいだろう。

こうした負の履歴効果は金融危機を経験すると発生しやすい。通常、メインバンクは借り手企業の業績や資金の出納をモニタリングしながら必要な資金を融通し続けるのが業務で、借り手は利息さえ返済していれば安心して借金を続けることができた。

しかし、金融危機を経験すると、貸す側も借りる側も資金の貸借は永遠ではないとの認識が強まる。いずれ返済を求められるとなると、借り手は怖くて借入金を設備や研究開発などの有形無形の固定資産に振り向けにくい。

読者が「借りた金はいずれ返済するのが当然だ」と感じたら、それこそが負の履歴効果だ。多くの企業は常に負債を抱えているのだから、借金の返済を事実上繰り延べしてきていることになる。マクロ的にも企業部門は恒常的な借り入れ主体だったし、その時代にはメインバンクが借り手企業をモニタリングしながらしっかり支えてきたものだ。

借り入れを継続できると思えば、返済するのは主に支払い利息なので、借り入れ金額の増減の決定要因は金利水準になる。しかし、いずれ全額返済に迫られると思うと、借り手は流動資産の範囲に借り入れを抑制する傾向が強まる。金融危機の際などには資金繰り倒産が懸念されるからだ。このようなかたちでの履歴効果が強いと、低金利による景気刺激効果は強まりにくい。

貸し手から見れば、厳密なモニタリングに必要なコストをかけても貸し続けるインセンティブは、それに見合う高い受け取り利息になる。金融緩和で高い収益が見込めないなら、モニタリングコストをかけずに、当該企業の流動性資産の範囲で貸したいと思うだろう。

これらは、リカード=バローの財政中立命題(リカーディアン均衡)と似ている。財政刺激策の効果は、いずれ増税につながると思うと限定的となりやすい。金融緩和策の効果も、いずれ借金を返済すると思うと限定的となろう。

<必要なのは長期金利目標柔軟化ではない>

こうした金融版リカーディアン均衡を避けるには、高圧経済政策のほかに貸借関係を永く続けられる仕組みが必要だ。金融庁は貸倒引当金の基準の柔軟化議論を今月から始めた。こうした金融規制の緩和は有効だろう。かつて米国で長期停滞論が指摘された1938年には金融規制の簡素化が行われ、貸し出し増加や不況脱出に寄与したとされる。

金融政策では時間軸効果を強調するのが有効かもしれない。借り手・貸し手双方が満足し得る均衡的な金利水準を、かなり長期間維持することにコミットする政策だ。質的・量的な面での異次元な緩和ではなく、期間的な面での異次元の緩和だと言える。

企業は安心して借り入れを起こせるならば、わずかな金利引き上げ幅は企業の期待収益率が改善した中で採算が見合うだろう。金融機関から見ても、引き続きモニタリングに大きなコストはかけられないが、持続性のある金融環境が約束されることはポジティブだろう。

こうして考えると、日銀はこの7月のタイミングで金融政策の微調整の検討に追い込まれる可能性が報じられているが、良い方向に調整が行われるかは疑わしい。マイナス金利はそのままに長期金利の目標方法が調整される可能性が報じられているからだ。

むしろ、10年債金利のペッグ感は維持しながら、貸し出しの多くが影響される短期金利をゼロに戻すのが良いのではないか。その分、イールドカーブは寝てしまうが、10年間ゼロ金利を維持するコミットメントになり得る。

実際、これまでに黒田日銀の政策と株式市場の反応を振り返ると、マイナス金利政策導入時には、銀行株を中心に株価は下落した。上場投資信託(ETF)購入倍増策や長短金利操作政策導入時に、株価は底入れ上昇で反応した。ネガティブな市場評価の政策を維持し、ポジティブな政策を修正すると、市場の好反応は期待しにくい。

今回、各種報道が一斉に流されたことで、筆者は市場の反応を見定める1週間が始まったと思うが、日銀が正しく政策を微調整してくれることを期待したい。

木野内栄治氏(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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