August 10, 2018 / 2:21 AM / 3 months ago

コラム:国債発行増を察知か、日銀政策修正の本音=木野内栄治氏

[東京 10日] - 日銀は金融政策の持続性の強化を目指した。確かに、上場投資信託(ETF)の買い入れ銘柄変更に関しては一定の目的が果たされたと思うが、わずかだ。さらに、その他の政策微調整に関しては、政策の持続性が十分強化されたとは思えない。

 8月10日、大和証券チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストの木野内栄治氏は、日銀が7月に決めた新たな措置について、資産購入の弾力化が本音で、財政ファイナンスの疑義を回避する準備だった可能性があると指摘。写真は都内の日銀本店前で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

むしろ、その後の国債買い入れオペの経緯をみると、資産購入の弾力化が本音で、財政ファイナンスの疑義を回避する準備だった可能性があると筆者は考える。

まずは財政刺激策の実施を日銀が嗅ぎ取っている可能性に備えたいし、その先にはフォワードガイダンスの修正に至るシナリオにも留意したい。以下、細かく説明しよう。

<ETF購入策の持続性も不十分>

すでに旧聞に属するが、日銀は7月31日、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と名付けた政策変更を発表した。タイトルにある「強力な」ものの「強化」とはリダンダント(冗長)な感じが否めないが、文章が下手なのではなく、文章を分かりにくくする意向が潜んでいるとみるべきだ。

実際、政策タイトルは「金融緩和の強化」ではなく「継続の強化」だし、フォワードガイダンスで長短金利の水準を維持する想定なのは「消費税率引き上げの影響」を確認するまでではなく「当分の間」だ。政策意図を分かりにくくする意向が強く、別の何らかの本音が潜んでいる可能性がある。

そして、「継続の強化」の中身も分かりにくい。確かにETF購入策の変更に関しては、継続性が強化された。発行株数の少ないファーストリテイリング株については、従来の買い入れ方針では来年6月には浮動株が枯渇することが懸念されていたが、今回の政策微調整では浮動株を買い尽くしてしまう期限を先延ばしできた。

しかし、それでも2020年2月ごろに延命された程度にすぎず、物価目標が達成できない見込みの時期にETF購入政策の持続性を失う可能性が高い。今回の持続性強化の準備は不十分で、本音が別にある可能性があろう。

<10月の金融システムレポートに要注意>

政策微調整にはETF購入額の柔軟化も盛り込まれた。黒田東彦日銀総裁会見のニュアンスからは、年末に帳尻合わせのように6兆円に積み上げるようなことはしないとの趣旨だろう。

ただ、買い入れ柔軟化の目的は、「資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う」ためとした。そこで証券分析におけるリスクプレミアム(=期待成長率+1/予想PER-リスクフリーレート)はETF購入開始時から改善していないと、総裁会見で記者が切り込んでいた。正しい指摘だと思う。ところが、総裁はETFの買い入れを倍増した時は、いろいろな指標でリスクプレミアムが高まっていたと答えた。

そこで日銀が公表している株価についての評価手法をみると、金融システムレポートに収録されるヒートマップがある。移動平均のようなトレンドを求め、そこからの一定の乖離の中に収まるのが、据わりが良いとの見方だ。なるほどこれなら総裁が言うように株式のプレミアムは改善している。そして、現在はレンジ上限が近いので、いずれETF購入額の抜本的な減額などがあり得る。これが潜んでいる本音の1つかもしれない。

当社の計算では、9月末で東証株価指数(TOPIX)が1952ポイント程度まで上昇しているとレンジ上限に達するので、10月の金融システムレポートには注意しなければならないだろう。

<その他の政策変更は持続性の強化にならず>

その他の政策微調整に関しては、持続性の強化とは程遠い。マイナス0.1%の金利が適用される政策金利残高を事前の10兆円から5兆円に半減したが、これで金融機関部門の負担は年間50億円減少したにすぎない。

また、長期金利の操作目標をプラスマイナス0.1%程度からプラスマイナス0.2%程度に拡大した。しかし、金融機関の運用コストはもっと高く、債券運用などの利ざやが0.1%改善したとしても受取利息の増加は数百億円レベルだろう。

しかも、日銀は8月2日の午後に、臨時異例の国債買い入れオペ(公開市場操作)を実施し、長期金利の上昇を抑え込んだ。金融機関の収益の向上はほとんど期待できないのが現状で、金融機関の体力を維持する効果はかなり小さい。

以上、金融仲介機能を持続する強化策としては不十分だと判断される。

むしろ「資産の弾力的な買い入れ」の方が本音だった可能性があると思う。上記のようにオペを予定日以外に実施するのは初めてだという。しかも、「原則オファーしない」とわざわざ公表文に注釈を入れていた新規国債の発行入札日当日のオファーだった。政府が国債発行をする当日に日銀が買いオペを実施すると、財政ファイナンスとの疑義が発生しかねない。

実際、今回買い入れ対象から当日の新発10年物国債351回債は含まれていなかったが、ぎりぎりまで弾力化を進めたオペだったと思う。

<リフレ派政策委員の今後を縛る合意か>

今回このように資産購入を弾力化した目的は何だろう。将来、政府が財政出動に踏み切り国債発行が増加する際にも、国債の日銀引き受けとの疑義を受けずに、かつ長期金利をある程度安定させる手法を模索している可能性があると筆者は感じる。

政府と日銀の間で密約があるわけではないだろうが、日銀は政府の財政政策の方向をより正確に把握することが可能な立場にもある。消費税増税の実施後には政府は景気対策を講じる公算で、今年8月の概算要求の締め切りに合わせて、補正予算の議論も出てくるなどと日銀は察知している可能性がある。

国債発行が増加した場合、長期金利の上昇を許容する幅を今回作った。発行増加額がそのまま日銀国債買い入れの増加額と等しくならないためのバッファーとみることができる。同時に国債入札日にオファーしない原則は、当該新発国債だけであると市場に認知させた。今後、国債入札の不調や市場金利を抑え込む効果があるだろう。

今回、財政ファイナンスとの疑義が生じないための政策調整だったなら、リフレ派の若田部昌澄副総裁が了承した理由も納得がいくし、実際、金融政策の持続性は意味のある強化がなされたことになる。行動は言葉よりも雄弁に語るという。日銀同様に投資家も財政刺激策の実施に備えたい。

その後は、金融システムレポート次第では、「資産価格のプレミアムへの働きかけを適切にする」とされたETF購入政策の抜本的な変更や、「消費税率の引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性」が財政出動で払拭(ふっしょく)される見込みとなればフォワードガイダンスの調整もあり得る。このように今回の本音は、リフレ派の政策委員の今後を縛る合意を得たことにあるのかもしれない。

木野内栄治氏(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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