December 3, 2018 / 8:57 AM / 13 days ago

コラム:武田のシャイアー買収最終盤、成立なら円売り特需=木野内栄治氏

[東京 3日] - 武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの買収が最終盤を迎えている。12月5日にそれぞれ予定されている臨時株主総会を乗り切れば、6兆円以上の大型M&A(買収・合併)が成立する。ここではその後に起こる可能性が高い「円売り特需」について説明したい。

 12月3日、大和証券チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストの木野内栄治氏は、今後の裁定取引に伴う円売りの可能性が、為替市場の参加者に浸透していない感触があると指摘。写真は記者会見でシャイアー買収について説明する武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長。5月9日に東京で撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

今回適用される英国の「スキーム・オブ・アレンジメント」方式は、通常の株式公開買い付け(TOB)のように一部の株主が応募するのではなく、株主総会で承認が得られた場合、武田側が強制的に100%の株式を取得できる。

シャイアーの株主総会では、半数以上の賛成および議決権ベースで75%以上の賛成が必要だが、武田が提案した買収条件は当時のシャイアー株より6割程度高かったため、すでに株価は大幅に上昇している。反対すれば株価は当時の水準に下落すると見込まれるため、シャイアー株主の多くが賛同する可能性が高い。

より注目度が高いのは、午前10時から予定されている武田の株主総会の方だろう。武田は買収対価となる約4兆円分の新株発行を総会で諮る。有利発行となり得るため、出席株主の3分の2の賛成が必要だ。

今回の買収はリスクが大きいとして創業家出身の元経営トップが反対を表明しており、承認には若干の不透明感もある。一方、米議決権行使助言会社が賛成票を投じるよう推奨していることなどからか、日本経済新聞は11月13日付朝刊で、9割近くの株主の賛成が得られると報じた。

<シャイアー株買い、武田株売りの裁定取引>

買収条件は、シャイアー1株に対し、現金30.33ドルと武田株0.839株を割り当てるのが主な内容だ。シャイアー株式約9億3000万株に対し、総額6兆円以上のディールとなる。シャイアーの株価は11月30日時点で買収案に対して6%程度割安だが、買収提案が了承されると急速に価格差を縮めるだろう。

ただし、その後もシャイアー株を売却する動きは続くとみられる。英FT100種の構成銘柄である同社株は、指数から除外されるだろうから、FT100に連動して運用しているファンドはシャイアー株を売却せざるを得ない。他にも、欧州企業の株以外は約款上保有できず、手放すファンドが出てくるだろう。

また、現段階でシャイアー株が武田の提案より割安であっても、来年1月に武田株をいくらで売却できるのかは分からない。武田の株券が割り当てられるのを待てない投資家は多いだろう。

ここで裁定業者の出番となる。ロンドンで割安なシャイアー株を買い取り、東京で武田株の空売りとつなぐ。裁定業者は同時に為替をヘッジするので、シャイアーが割安なら、同社株の売買最終日である年明け1月4日(予定)まで為替市場で円売りが膨らみやすい。

つまり12月5日から約1カ月のかなり短い期間に、最大4兆円分の新株発行に絡んだ円売りが発生する可能性がある。買収対価の現金分である1株あたり約30ドルも、シャイアー株を買って武田株を売る裁定取引のたびにドル売り・ポンド買い、円売り・ポンド買いが出てくる。後者のほうが価格インパクトは大きく、結果として円安・ドル高が想定できる。

<実際には複雑な買収条件>

ただし、どの程度の値幅を想定すれば良いか分からない面もある。まず、どの程度の取引が裁定業者を通じて行われるのかは定かでない。シャイアー株主は武田の米預託証券(ADR)を選択することもできるし、現金部分はポンド払いも選択可能と、実際には複雑だ。

また、今年3月に買収交渉が表面化すると、ドル円は約5円上昇した。通常は3カ月程度で買収案件は完了するのだが、今回は年終盤に臨時株主総会を開くことが5月の大型連休明けに表明された。長期戦になるということで、円安の動きはいったん止まった。すでにある程度、相場には織り込まれている可能性もある。

一方、買収資金の調達に外債を発行すると武田が発表したことで、円安期待はしぼんでいた可能性もある。言い換えると、今後の裁定取引に伴う円売りの可能性が、為替市場の参加者に浸透していない感触が筆者にはある。

価格面での想定に不確定要素はあるものの、過去の大型買収案件と比べても規模が大きい。過去の大型M&Aは、ドル円を10円前後動かす大きな円売り材料となってきた。武田の株主総会で新株発行が承認されて以降は、短期的に大きな円安特需が発生する可能性に注目したい。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

木野内栄治氏(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

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