October 10, 2019 / 3:44 AM / a month ago

コラム:日銀緩和の終わらせ方、保有株は年金資産に=木野内栄治氏

[東京 10日] - 日本銀行による量的・質的金融緩和をいつ、どのように終わらせるか。その「出口」戦略にはインフレ期待に働きかけるという本来の政策効果を減殺しかねないリスクがある。日銀はとるべき方策を語らず、議論は封印されている印象すらある。

 10月10日、日本銀行による量的・質的金融緩和をいつ、どのように終わらせるか。その「出口」戦略にはインフレ期待に働きかけるという本来の政策効果を減殺しかねないリスクがある。木野内栄治氏の見解。写真は都内の日銀本店前(2019年 ロイター/Toru Hanai)

しかし、質的緩和の大きな柱であるETF(上場投資信託)購入策については、有効な選択肢があると筆者は考える。日銀保有のETFは9月末時点で取得額が27.6兆円の規模に達しており、緩和策の出口として市場売却されれば、株価への大きな影響が懸念される。だが、直接の市場売却ではなく、たとえば「信託型従業員持ち株制度」のような仕組みを構築し、年金資産としてプールすれば、長期にわたるなだらかな現金化が可能になる。懸念される市場の激変は避けられるだろう。

さらに、こうした保有ETFを有効活用する議論を始めること自体が、市場の関心を高め、リスク・プレミアム拡大への期待増進を働きかける効果につながる。つまり、適切な出口戦略の設計議論自体が現在の金融緩和策の強化になり得ることを指摘したい。

<ETF購入策の3つの問題>

日本銀行によるETF購入策は「筋が悪い」政策と言われる。第1の理由は、容易に売却できないため、この政策を大規模に、長期にわたって続けることは難しいとの議論だ。実際、日銀の購入により、一部の日経平均採用銘柄の浮動株が早々に枯渇するとの誤解が流布していた。

第2の理由は、そもそも株式市場に関心がある国民は少数派である、との見方に基づく。日銀の「異次元緩和」の質的な柱であるETF購入策は大胆な政策ではあっても、広く国民のマインドに働きかけているとは思えない、という指摘だ。

第3は、将来、日銀が大量保有するETFの売却を行えば市場価格を崩す、と考える投資家の不安だ。株価下落の不安は投資意欲を減衰させる。結局、現在の市場価格を押し上げるはずの政策効果は小さくなりかねない。実際、昭和40年不況における証券買い取りの後は、市場売却によって株式市場は大きく下落した。

こうした問題点があるために、株式バリュエ―ションをみると、ETF購入策がリスク・プレミアムに働きかける効果は一時期に比べて減少してしまった。しかしながら、その対応策については、前述のようにアンタッチャブルな状態だ。

<売却ショックは大きく緩和>

これら3つの問題を解消するため、まず頭の体操として、日銀保有のETFを年金資金のプールに売却する出口策を考えたい。年金の株式資産は短期に処理されることはなく、遠い将来に向け、時間をかけて現金化されるので、市場売却のショックは相当緩和できるように思われる。つまり第1の問題である市場への衝撃を緩和し、出口戦略を容易にできるので、当座のETF購入策の継続性が担保できる。

加えて、日銀ETFは9月末段階で約3.8兆円の含み益を有すると推計されるが、日銀が取得した価格で年金にETFを譲渡すれば、この含み益分によって年金財政が潤い、全国民に広くメリットが及ぶことになる。日銀のETF購入策を知らない国民にも広く働き掛ける効果が期待できるだろう。つまり第2の問題にも対処できる。

ただし、現在の年金資金には日銀保有のETFをすべて肩代わりできるほどの余資はない。また、年金資金に付け替えて売却に時間をかけたとしても、将来、市場に放出されることに変わりはない。第3の理由である市場価格に対する中立をどう維持するか、という疑問への回答にはならない懸念が残る。

<信託型従業員持ち株制度の仕組み>

では、日銀保有のETFを購入する年金資金をどのように誘導したらいいのか。ひとつの方策として考えられるのは、信託型従業員持ち株制度の応用だ。

この制度は、伝統的な従業員持ち株制度を有している企業(株式の発行会社)が信託を作り、従業員持ち株投資会が将来にわたって買うであろう当該会社の株を借入金で一括取得する仕組みだ。信託期間中は当該信託が持ち株会に市場時価で売却を行う。

信託期間終了時までに、自社株単価の上昇によって信託財産が残ったら、拠出割合に応じて配分される。つまり、株価が上昇していたとしても、従業員は信託が当初取得した安い価格で株を購入したことになる。一方、自社株単価の下落で借入金が残る場合は、発行会社が負担する。

これについては、会社が買収防衛対策に利用しかねないなどの問題点も指摘されるが、従業員にとってはインセンティブ・プランとなるので、自社株投資の増額を期待できる制度だ。

<肩代わり資金の誘導は可能>

この仕組みを積み立て型の個人型確定拠出年金(iDeCo)と日銀保有のETFに当てはめてみたらどうだろう。日銀保有のETFは、9月末時点で時価評価3.8兆円の含み益を有していると推計されるが、デフレから脱却するまでにはもっと大きな利益となっているだろう。

そこで、取得価格で、日銀が保有するETFを国民の積み立て型の確定拠出型年金に提供するという決定を現時点で行う。「日銀iDeCo」とでも名付けた制度を議論することになる。

各種の税制優遇だけでなく、割安な価格で取得できるインセンティブによって、既存の少額投資非課税制度(NISA)やiDeCoよりも多くの国民が参加するだろう。極端な仮定だが、全国民の4分の1にあたる3千万人が公務員等に適用されるiDeCo拠出限度額である年間14.4万円を投じると、6年半で現在の日銀取得のETF分の資金が集まる計算になる。10分の1の参加者であっても、64年程度で肩代わり資金を集めることができる。

売却時期の分散効果を考えると、長期にわたって募集する後者の方が望ましいかも知れない。

このように、適切な制度設計があれば、年金資金に日銀保有のETFを肩代わりする資金を誘導する策は実現できると思われる。

次に市場売却を抑制する策も考えたい。iDeCo方式ならば60歳まで引き出しができないので、まずは広く薄く、時期が分散されて売却される制度が可能だろう。

さらに、貯蓄から投資の流れを促進し、積み立て投資を日本国民に習慣付けるような制度設計が可能ならば、売却インパクトの相殺を期待できる。その制度とは、たとえば、日銀の取得価格で購入できるインセンティブを100年先の国民にも配分できるように小出しに行うべく、他の投資との抱き合わせた信託商品にすることなどだ。

<適切な出口設計議論が緩和効果を増進>

信託型従業員持ち株制度の場合、従業員にストック・オプションが提供されたのと同じ効果があるので、従業員は自社株が上昇するように努力することが期待できる。日銀iDeCoでは、広く国民の脱デフレを願う気持ちが強まろう。

こうした制度が整備されれば、日銀がETFをいくら買い進めても、出口での売却インパクトを心配する必要はなく、国民の支持もあるとなれば、たとえば、個人投資家は株式の売り惜しみをするだろう。つまり、足もとでのリスク・プレミアムに働きかける力は大きく増すことになる。

しかし、現実には出口戦略への言及は封印されている感が強い。期待に働きかける効果を減殺しかねないとの配慮からだろうが、すでにETF購入策に関してはリスク・プレミアムに働きかける効果が減退している。むしろ、日銀iDeCoのような前向きな出口計画を検討することで、現在の金融緩和策の強化になり得る。早々の議論開始が有効だろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

木野内栄治氏(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券 理事 チーフテクニカルアナリスト兼ストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2003年から16年連続で市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の常務理事も務める。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:北松克朗

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below