April 2, 2019 / 6:53 AM / 20 days ago

コラム:日銀緩和に限界はあるか、バーナンキ氏に学ぶ「次の一手」=木野内栄治氏

[東京 2日] - 必要なら躊躇(ちゅうちょ)しないという言葉と裏腹に、日銀は次の追加緩和時に既存の手法を組み合わせることに積極的ではないと筆者はみている。しかし、金融緩和を検討すべき状況に来ていることから、その手法を想像してみたい。

4月2日、大和証券の木野内栄治氏は、バーナンキ元FRB議長が提案した策をETF買いに援用すれば、少ない資金量で大きな緩和効果が見込めると指摘。写真はバーナンキ氏。2014年1月撮影(2019年 ロイター/Gary Cameron)

米連邦準備理事会(FRB)議長だったバーナンキ氏はかつて、国債の買い入れより資金量が小さく、しかし効果は絶大である画期的なアイデアを提案した。

本稿では、これをETF(上場投資信託)購入策と組み合わせれば、北海道拓殖銀行など金融機関の相次ぐ破綻を受けて政府が創設した「中小企業金融安定化特別保証制度」(特別信用保証制度)のように、市中銀行に積極的な貸し出しを促す大きな可能性があることを指摘する。そして無限の信用創造力を持つ中央銀行に、緩和の限界はないことを説明したい。

<ETF限界論の誤解>

日銀の黒田東彦総裁はかねてから、追加緩和が必要な際には長短金利目標の引き下げ、資産買い入れ策の拡大、マネタリーベースの拡大ペース加速など、「さまざまな対応が考えられる」と表明している。ここではまず、日銀がその言葉ほど追加緩和に既存の手法用いることに積極的でないと筆者がみている理由を挙げる。

日銀がETFを購入し続ける結果、ファーストリテイリング株が来年半ばにも市場から枯渇すると言われることがある。同社の10位までの大株主の持ち分に加え、日銀がETFを通じて買った分も浮動株ではないと扱われたためのようだ。

実際には、大株主10位以内に登場する信託銀行の保有分に、日銀の持ち分はほぼ含まれている。日銀のETF買いに限界があるとする議論は、信託銀行のその持ち分を二重カウントした誤解のためと筆者は考える。制度的にそうであるし、過去の信託銀行持ち分とETF残高の連動性からも整合的だ。

仮に信託銀行の持ち分がETF以外の株式だとしても、それはアクティブファンドなどによる運用資産が大半であり、異常な値動きをすれば売却されてETF組成に転じる浮動株と言える。

こうした限界論があること、誤解によってそれが生じていることを、黒田総裁はおそらく理解している。例えば2018年12月7日の衆院財務金融委員会で「具体的に個別銘柄に大きな影響を与えることにはなっていない」と明確に反論している。

しかし、3月の金融政策決定会合後の会見でETF購入限界論について聞かれた際は、一般論に終始したように見えた。限界論の誤解を解くせっかくの機会に、積極的な反論を試みなかったとすれば、今後ETFの買い入れを増額する可能性は小さいとみるべきだろう。

また、日銀は4月に発表する金融システムレポートで、銀行の不動産向け貸し出しを過熱と評価する可能性がある。日銀幹部もマイナス金利が銀行収益にもたらす副作用にたびたび言及していることから、長短金利の目標を引き下げるイールドカーブ・コントロールにも積極的ではないとみられる。

<新たな緩和策を検討する時期>

しかし、日銀は追加の金融緩和を模索すべきときを迎えた。1日の日銀短観では不透明な外部環境の悪影響が確認された。原油価格の安定や携帯電話の通信料金引き下げなどを受け、消費者物価は今後軟化が見込まれ、4月の経済・物価情勢の展望(展望レポート)に反映される可能性がある。

10月には消費増税も控えている。金融緩和の効果が遅れて効くことを考えると、やはり今春にも追加緩和のタイミングを探る可能性がある。実際、前回14年4月の増税時は、1年前に異次元緩和、半年後に追加緩和が行われた。

FRBが新たな金融政策の枠組みの議論を始めた影響も大きい。クラリダ副議長は日銀の政策を例に挙げ、長期金利に上限を設ける手法に言及。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、平均インフレや物価水準を目標とする政策を主張してきた。日銀のイールドカーブ・コントロールや、オーバーシュート型のコミットメントに追い付いてきたことで、次なる緩和競争に備える意味でも、日銀は新たな緩和手法を提示したい情勢だ。

そもそも世界情勢は、中国景気や英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)に対する不安など、16年の状況に類似している。本欄でも以前指摘したように、当時と同様、各国は今年4月の20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議で、政策の総動員を申し合わせる可能性が高いとみている。

<バーナンキ氏のアイデア>

G20での合意のもと、16年の日銀はマイナス金利政策、ETF購入額の倍増、イールドカーブ・コントロール付き量的・質的緩和の導入と、まさに政策総動員だった。

一方、米国ではバーナンキFRB元議長が「中央銀行にはどんな手法が残されているか(What tools does the Fed have left?)」と題したブログで盛んに新たな手法を提案した。

バーナンキ氏は、FRBにある財務省の「当座預金」に例えば1000億ドルのクレジットを与え、無期限にそれを維持し、マネーサプライの増加分を吸収しない「非不胎化」を約束することで、物価・経済に強い影響を与える可能性を指摘した。

日本なら、日銀が4兆円のクレジットを政府に付与し、政府はそれを財源に補正予算を組むイメージだろうか。たしかに、量的緩和に必要な10分の1程度の額で大きな経済効果が期待できそうだ。

財政ファイナンスとのそしりを受けかねないが、金融政策として中央銀行が主体的に実施するもので、バーナンキ氏は中央銀行の独立性などをさらに担保する法整備の必要性とともに、その案を提示した。

<ETF買いに援用>

バーナンキ氏の発想は、既存の国債買い入れ策の代替案の側面がある。このアイデアを、日銀のETF購入策に援用するとどうだろうか。

日銀が株式を市場から購入するのではなく、企業から直接引き受けてファイナンスする手法だ。ただし対象は事業会社ではなく、日銀がガバナンスをチェックでき、金融緩和に親和性がある市中銀行とする。例えば、新規融資の貸し倒れ引き当て分を日銀が資本性資金として市中銀行に注入するという手法が考えられる。

政府が銀行の貸し渋り対策として実施した特別信用保証制度は、貸し倒れが発生した際に市中銀行が負担する10%分も保証協会が肩代わりする制度で、借り手、貸し手ともに活発に利用した。これと同じように「銀行株ファイナンス」も貸し出しの増加に大きな効果があるだろう。低金利が及ぼす銀行収益に対する副作用も補い、地域経済の活性化にも資する。

現在、日銀は東証一部上場株の4%程度(3月26日時点で28兆7000億円)を間接保有している。市中銀行に対する資本注入であれば、そこまでの規模でなくても大きな貸し出し余力の発生が見込まれる。また、バーナンキ案の「財政ファイナンス」ほど「銀行株ファイナンス」は筋が悪くない。資本受け入れと引き換えならば、特別信用保証制度で見られた新規貸し付けで既存債権を回収する「旧債振替」など制度の悪用も限定的だろう。

もちろん、上記は一案にすぎない。日銀がそうした行動を取るに違いないと言いたいわけではない。無限の信用創造力を持つ中央銀行には、金融緩和の手法に限界がないということを、日銀は示すことができると指摘したい。

ETF購入限界論を明確に否定しない黒田総裁には、新しい緩和手法の提示を期待したい。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

木野内栄治氏(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券 理事 チーフテクニカルアナリスト兼ストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2003年から16年連続で市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の常務理事も務める。

(編集:久保信博)

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