January 17, 2018 / 2:13 AM / 4 months ago

コラム:日銀はETF購入減額に動くか=河野龍太郎氏

[東京 17日] - 1月9日の日銀オペにおける超長期国債の買い入れ減額を受け、外国人投資家を中心に、年内の政策調整への思惑が広がり、円高傾向が見られる。昨年11月13日に黒田東彦日銀総裁が過度な金利低下には副作用があるという「リバーサルレート論」に言及した際も、同様の展開が見られた。

なぜ、ここにきて政策調整への思惑が広がりやすくなっているのか。理由は主に2つある。1つは、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)が11月に前年比0.9%まで上昇してきたことだ。実際、これを受け、12月末から市場の期待インフレ率も上昇している。仮に1%インフレが定着し、かつ上昇トレンドが続くと確信されるのなら、日銀は2%インフレの実現を待つことなく、10年金利の誘導目標引き上げを開始すると広く信じられている。

もう1つの理由は、黒田総裁が「リバーサルレート論」に言及しただけでなく、金融政策決定会合で、副作用に言及するボードメンバーが現れてきたことである。昨年10月30―31日の決定会合では、追加緩和のもたらす副作用について言及されていた。「金融政策決定会合における主な意見」によると、12月20―21日の決定会合では、一段と踏み込み、「金利水準の調整の要否を検討することが必要になる可能性」が語られている。

より気になったのは別の審議委員の発言で、上場投資信託(ETF)などのリスク資産の買い入れについて、「株価や企業収益などが大きく改善していることや、今後も堅調に推移すると見込まれることを踏まえると、政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から検討すべきである」というものだ。

換言すると、今後も株高や企業業績の改善が続く見通しだから、政策の効果と副作用を比較考量して、減額などの議論も排除せずに検討すべきというのである。これは、かなり突っ込んだ発言だが、「金融政策決定会合における主な意見」が12月28日に公表された際、あまり注目されなかった。

このように、インフレ率が1%に近づき、一方で、政策の副作用について言及する審議委員が複数現れてきたため、超長期国債の買い入れ減額をきっかけに、マーケットで政策調整への思惑が広がったのだ。

では、これらを踏まえ、2018年の金融政策について、どのように考えれば良いのか。結論を先に述べておくと、やはり1%インフレの定着は難しいため、2018年の長期金利の誘導目標引き上げは予想されない。年内の金利調整の可能性は20%程度だろう。より蓋然性(がいぜんせい)が高いのは、ETFなどリスク資産の減額で、年内の可能性は五分五分である。以下、詳しく述べる。

<年内に1%インフレの定着は難しい>

まず、10年金利の誘導目標については、インフレ率そのものが調整の要否の基準となる。前述した通り、コアCPIは昨年11月に前年比0.9%まで上昇しており、今後、1%を超える月も出てくる。と言っても、それは、原油高などの影響が大きく、コアCPIからエネルギーを除いた新型コアは11月も0.3%にとどまり、今年中に1%に到達する可能性が高いとは言えない。1%インフレの定着と言うには、CPIコアだけでなく、新型コアも少なくとも1%程度まで上昇する必要がある(円安を背景に新型コアの1%強への一時的な上昇が2015年に観測されたことを考えると、これも十分条件とは言えない)。

では、1%インフレの定着には、今後、どれほどの時間を要するのか。フィリップス・カーブを元に考えてみる。

5年前に黒田総裁はゼロ金利制約を打破すべく、アグレッシブな金融緩和によってインフレ期待をまず醸成し、期待実質金利を引き下げて、景気刺激を図るというアクロバティックな戦略に出た。物価上昇率の実績の影響を受けるバックワードルッキング(適合的)なインフレの期待形成が行われる日本では、需給ギャップが改善するからインフレ率が上がるというメカニズムが本来予想されるが、黒田総裁は、逆にインフレ期待を引き上げて、需給ギャップを改善させようとした。

残念ながらインフレ期待の醸成には失敗し、フィリップス・カーブは上方にシフトせず、元のままである。ただ、追加財政や海外経済の拡大というポジティブ・ショックが加わったこともあり、需給ギャップは着実に改善し、フィリップス・カーブ上で、インフレの基調は徐々に上昇している。

このまま需給ギャップの改善が続けば、どうなるか。フィリップス・カーブ上の需給ギャップに対応するのが基調的なインフレ率だとすると、2%インフレには、計算上、5.8%の需給ギャップを必要とする。1990年代初頭のバブル期ですら需給ギャップは4%に届かなかったのだから、実現可能性は極めて低い。もちろん、いったん景気が過熱し始めれば、インフレ率と需給ギャップの関係は非線形なものに転じるであろうから、最終的には試算ほど大きな需給ギャップは必要とはならない。それでも、2017年7―9月の需給ギャップは1.7%であり、2%インフレ達成にはまだ相当の距離がある。

むろん、1%インフレに必要な需給ギャップは計算上、2.3%であり、それほど遠いわけでもない。現在、潜在成長率は0.8%程度であり、1%強の成長が続けば、年内は難しいとしても、2019年中には達成可能と思われる。つまり、フィリップス・カーブから判断すると、年内の政策金利の調整の可能性は高いとは言えないが、今年後半には「2019年中の政策金利の調整の可能性が高い」という見通しがマーケットで一般的になる可能性がある。

ただ、筆者自身のメインシナリオは、今年中は景気拡大が続くものの、2019年には世界経済の減速が訪れるため、今回の景気拡大局面で、日銀は政策金利の変更には至らないという見立てだ。もちろん、世界経済の拡大が続くのなら、2019年に日銀が政策金利の変更に踏み切ることはあり得る。

その場合、出口戦略の手順としては、まず10年金利の誘導目標の10ベーシスポイント(bp)の引き上げが2―3度行われ、長短スプレッドを一定程度確保した後に、マイナス0.1%の超過準備預金金利がゼロ%まで引き上げられる。ただし、繰り返すが、メインシナリオでは、今回の景気拡大局面で、日銀が政策金利の引き上げを開始するとは予想していない。

<ETF購入継続の問題点>

蓋然性がより高いのは、ETFなどリスク資産の購入だと考えられる。2016年9月のイールドカーブ・コントロールの採用によって、国債購入については、極力、不要なバランスシート膨張を避ける仕組みが導入された。10年金利の誘導目標をゼロ%に維持したまま、今後も国債購入額は減額し得る。仮に今回の景気拡大局面で、政策金利の調整が行われない場合でも、そのことが金融政策の持続可能性に致命的な影響を及ぼすわけではない。しかし、ETFなどのリスク資産については、こうした手当てが全く行われていない。日銀の事務方が現在、喫緊の課題と捉えているのが、ETFの購入だろう。

2016年7月にETF購入が6兆円に倍増された際、日銀は「英国のEU(欧州連合)離脱問題や新興国経済の減速を背景に、海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場では不安定な動きが続いている」としていたが、そこで掲げられたリスクは全て解消されている。さらに、ここ数カ月は、日本の株価も大幅に上昇し、リスクプレミアムを低下させるという、そもそものリスク資産購入に課せられた目的は達成されている。一方、資産価格形成メカニズムへの弊害も徐々に大きくなっている。仮に後者の弊害がそれほど大きくはないとしても、現状の政策を続けるメリットが著しく低下しているため、相対的にデメリットは大きくなっていると言える。

2017年末段階で日銀のETF保有額は簿価で17兆円強まで拡大したが、このまま続けると、2018年末には23兆円、2019年末には29兆円、2020年末には35兆円まで膨らむ。国債と異なり、満期が訪れないため、バランスシートから外すには、能動的に売却しなければならないという点でも、政策のコストは相当に大きい。

遠い将来、日銀券の見合いの資産は、国債ではなく、ETFなどという状況になりかねない。前述した通り、12月28日の決定会合で、ETFの購入継続がもたらす副作用を主張する審議委員がついに現れたが、今後、考えを同じくする審議委員が増えてくると思われる。

実は、戦略的な観点からも現状のETF購入を続けることには、大きな問題がある。ETF購入は、将来の不況局面においても、有効な政策ツールとして利用される可能性が高い。リスク資産の購入には出来るだけ手を出すべきではないものの、今のところマイナス金利政策の深掘りを除くと、ETF購入しか有効な手立ては見当たらないと日銀の事務方は考えているはずである。完全雇用に達し、株高が続く中で、漫然と年6兆円ものETFを買い続けることは、貴重な将来の政策余地を狭めることにもなる。

これらの理由から、4月の新執行部のスタート後、ETFの購入が2016年7月以前の3兆円程度まで減額される可能性がある。タイミングは秋頃だろうか。もちろん、安倍政権がこだわるのは景気と株価であり、株価の足を引っ張るような政策の遂行は容易ではない。それゆえ、可能性は五分五分である。ただ、将来、不況になり株価が下落すれば、再び日銀がリスクプレミアムを低下させるべく、ETFの購入の再増額を図ることを条件に示せば、政治的にも理解を得られやすい。

例えば、6兆円の枠は維持したまま、実際の購入額は3兆円程度とし、残り3兆円程度は不況期にキャリーオーバーすることを示せば、強力な日銀プットとなり、株価下落は回避できる。問題含みの対応ではあるが、次善の策としてやむを得ないと判断されるだろう。

<ETF購入減額の2つのハードル>

政治的な要因以外で、ETFの購入減額が難しいとすれば、理由は2つ考えられる。持久戦を可能にするためのETFの購入減額が、出口戦略の開始と受け止められるリスクである。10年金利の誘導目標の引き上げのシグナルと受け止められれば、円高や株安を引き起こしかねない。これまで ETF購入も政策パッケージの1つと黒田総裁が説明してきたため、市場は当然そう受け止める。このため、実行される場合は、あくまで2016年7月のETF購入額の倍増の目的が達成されたことに伴う措置であり、出口戦略とは切り離されたものであることが強調されるだろう。

もう1つの問題は、すでに世界経済の拡大期間が8年を超え、今年7月には9年に達することである。1980年代以降の世界経済の拡大期間は平均で8年弱であり(正確には米国の景気拡大期間)、ここから何年も拡大が続くと考えるのは楽観が過ぎる。

2018年は日銀が政策調整に動く可能性が高いと考える外国人投資家が少なくないのは、いくら日銀がビハインド・ザ・カーブ(金融政策を物価上昇に対して後手に回す)政策を追求すると言っても、景気拡大が終わる前には一度くらいは利上げに動くと想定するからである。それは裏を返せば、世界経済の拡大局面もそろそろ終盤が近いということではないか。実際、2000年代以降、ビハインド・ザ・カーブ政策を追求してきたため、日銀が政策の変更を開始するのは、景気拡大の最終局面である。今回もそうなるのだろうか。

早過ぎる政策変更を批判され続けてきた日銀からすれば、政策変更後、1年も経たないうちに世界経済が変調を来すという事態は回避したいだろう。本来、政策変更後、半年以上経過していれば、経済環境の変化に伴う政策の方向性の再転換は問題にはならないはずだ。しかし、デフレの主犯と非難されてきた日銀がそうしたリスクを冒すのは政治が許さないだろうし、日銀もそのことは重々承知しているだろう。だとすると、ETFの購入減額も、蓋然性は五分五分と考える。

さて、今回は、あくまで黒田総裁の続投、ないし中曽宏副総裁の昇格を前提とした。本田悦朗日銀総裁となれば、当然にして、論点は追加緩和であって、政策金利の引き上げやETF購入の減額ではない。本田総裁の下での金融政策のシナリオについては改めて取り上げる。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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