August 18, 2015 / 4:57 AM / 4 years ago

コラム:人民元切り下げ、「裏切られた信仰」の代償

[ロンドン 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 金融市場は宗教と同様、信頼に根差したネットワークである。市場を構成する資産と負債の複雑な構造は、信念という土台によって結び付いている。しかし宗教と異なり、金融市場の教義は時として間違いであったことが判明する。

 8月17日、金融市場は宗教と同様、信頼に根差したネットワークだが、その教義は時として間違いであったことが判明する。先週の人民元の切り下げが、その瞬間だ。写真は人民元を推進するポスター。香港で13日撮影(2015年 ロイター/Tyrone Siu)

われわれは先週、そうした瞬間を経験した。中国当局が人民元の切り下げに踏み切った瞬間だ。

中国経済は先進国を上回るペースで成長しているのだから人民元は上昇を続けるに決まっている、というのが長年にわたる市場の総意だった。中国当局は人民元をドルにペッグ(連動)させながらも、徐々に上昇するのを許してきた。このため中国人民銀行がペッグを緩め、人民元を下落させる決定を下したことは市場を驚かせた。

この措置の重要性は、通貨安競争を再燃させたり、世界的デフレに拍車を掛けるといった点にはない。いずれも起こり得ることではあるが。真の脅威は、予想外の切り下げが機能不全の中国金融システムに及ぼしかねない悪影響にある。

米ドルの超低金利時代は、世界的な人民元買いのキャリートレードを呼び起こした。理由は簡単だ。中国の銀行の方が米銀より高い預金金利を支払ってくれたし、中国のシャドーバンキング(影の銀行)システムならさらに高い利回りを提供してくれた。その上、人民元の上昇によって毎年数%ポイントの利益も期待できた。多くの外国人にとって、年10%前後のリターンが見込める中国向け貸し出しは、濡れ手で粟の取引に見えたに違いない。

中国の借り手が海外融資の利用に傾倒したのは、資金の必要性はもとより欲に駆られてのことだった。当然のことながら海外で資金を借りた方が金利は低い上、人民元の上昇により債務残高は圧縮される。こうした事情に加え、与信ブームが続いて中国の金融システムは貸し出し需要に追い付けなくなり、海外の貸し手がその穴を埋めることになった。

その上、中国の非金融債務は国内総生産(GDP)の250%超に膨らみ、返済の負担が極度に重くなった。フィッチ・レーティングスは2年前、中国企業の利払いがGDPの11%に相当し、急速に増加を続けていると推計した。海外からの融資がこの負担を軽減してくれた。

この結果として中国の海外借り入れは急増した。国際決済銀行(BIS)によると、世界の銀行の中国向けドル建て貸し出しは2012年終盤の約1000億ドルから13年半ばには6500億ドルに増えた。BISはまた、中国企業が海外子会社を通じて海外での借り入れを増やしていると指摘している。この種の借り入れは、国の統計では外国直接投資に区分され、誤解を招く。

貿易金融もまた、外貨借り入れの源泉となった。人民元の上昇継続を予想する中国企業は輸出インボイスを偽造することで資本統制を迂回し、中国本土にドルを持ち込むことに成功した。この慣行は主に香港の子会社を通じて実施された。ここ数年、中国政府の統計に記録される香港向け輸出額は、香港の統計に記録される本土からの輸入額を常に大幅に上回っている。1980年代末、日本企業も「財テク」と呼ばれる複雑な金融手続きによって利益を増やした。

その結果が、中国が現在抱える巨額の対外債務である。中国は依然として純債権国だが、モルガン・スタンレー・パートナーシップによるとグロスの対外債務は5兆ドル近くに膨らんでいる。これは3兆7000億ドルに積み上がった中国の外貨準備をも上回る規模だ。

中国はここ数カ月で多額の資本流出に見舞われており、ゴールドマン・サックスの推計では第2・四半期の流出額は2240億ドル程度に達した。世界的なキャリートレードが後退するにつれ、外銀の中国向け貸し出しは急減し、BISによると過去1年間で約2500億ドル減っている。中国当局が通貨ペッグを維持している限り、このような資本流出が起こると中国人民銀行は外貨準備を売って人民元を買い入れることを余儀なくされる。

問題は、人民銀行がそうした取引を行うと国内の流動性が引き締まることだ。これは資金繰りがひっ迫している中国企業にとって具合が悪い。人民銀行は預金準備率を18.5%に引き下げており、今後さらに引き下げる可能性がある。しかし流動性の引き締まりを相殺するのにそれで十分かどうかは定かでない。資本流入の伸びと中国の銀行預金の伸びには、伝統的に強い相関性がある。

もう一つの選択肢が通貨を切り下げ、人民元の上昇持続、あるいは少なくとも対ドル相場の安定を当てにしてきた人々の読みを覆してしまうことだった。海外で資金を借りている中国企業、特に不動産企業は今、資産と負債のミスマッチに直面している。タイの金融機関は1996年、これと似た苦境に陥った。

大規模な金融災害というものは、投資関連本の著者であるビタリー・カツェネルソンが言うところの「誤った公理」によってもたらされることが多い。例えば日本の1980年代のバブル経済は、地価は上がり続けるという信仰の上に築かれた。その信仰が間違っていたと分かった時、日本の金融システムは経済全体を道連れに崩壊した。同様に、バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長らの論者は、米国の住宅価格は決して下がらないと主張していた。この誤った公理がサブプライム・ローン危機を招いた。人民元は上昇し続けるという信念もまた、そうした間違った公理の一つだ。その結末を予想することはできない。しかし歴史に学ぶなら、市場の深い信仰が裏切られた時には悪い事態が起こる。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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