August 30, 2018 / 6:50 AM / 24 days ago

コラム:正道を外れた迷子のブレグジット

[ロンドン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 英国の欧州連合(EU)離脱というのは危険極まる作業だ。先週、英政府が合意なしのブレグジット(EU離脱)に向けた準備書を公表したことは、そうした事実を思い知らせてくれる。

 8月29日、英国のEU離脱というのは危険極まる作業だ。先週、英政府が合意なしのブレグジット(EU離脱)に向けた準備書を公表したことは、そうした事実を思い知らせてくれる。写真は英国旗とEU旗。ブリュッセルで7月撮影(2018年 ロイター/Francois Lenoir)

英国の「独立」を唱える人々は、同国の対外貿易や人とモノの移動全てがEUへの加盟、あるいはEUとの包括的な合意に実質的に依存していることを認識できていなかったのだ。

EUとの関係を完全に断ち切る、いわゆる「クリーンブレイク」の推進派は、食品や医薬品の不足を心配する国民に対して有益なことを何も言えない。これは不思議に思える。何といっても、多くのブレグジット支持者は反EUキャンペーンに何十年も費やしてきた。だとすればもっときめ細かな思考をする十分な時間が確実にあったのではないか。

EU残留支持派は、真の問題は根本的な部分にあると主張する。

すなわち、世界最大の経済圏から去るのは愚かだというのだ。だが離脱の判断が正しいと仮定しても、よりダメージが少ない形で離脱する方法はあった。反EU論者は、軍人やディベートの世界で当たり前になっている「敵を知る」という方法論に従っていれば、そうしたやり方を発見できたはずだ。EU建設の歴史が、より実践的な離脱方式をひらめかせてくれただろう。

多くのブレグジット推進派のイメージでは、英国は加盟の事実によってEUに束縛されている。1972年の欧州共同体法やそれを受け継いだ法律が、1本の太いコードとなってドーバー海峡の両岸を結んでおり、新たな法律という鋭い刃物でコードを切断すれば、英国は世界に独自の居場所を見つけられるという理屈だ。

こうした単純な発想は、自由貿易と国家主権の関係をめぐる高尚な言い分と符号する。ただし現実を見ると、EU諸国を結び付ける絆は1つの基本法から始まったものだ。そして45年を経た今、英国と欧州大陸の間には多数の細い糸が絡み合っている。

医薬品を例に取ると、EUは新薬の承認や製造施設の立ち入り検査、治験などについて共通の基準を設定している。加盟国は個別に、または一体的にこれらの基準の整備や執行に従事する。膨大な関連書類が、蓄積された域内の知識や協力関係の骨格を成している。

英国がEUに加盟していなかったとすれば、カナダや日本のように独自の医薬品規制を策定していただろう。今からでも可能だが、出来上がるには何年もかかる。それまで英国には、医薬品の流通を止めないためにはEUと相互承認制度の導入に合意する必要が出てくる。

ブレグジットは、こうした規制体系の再構築を何度も繰り返す作業だ。どのセクターにも複雑な法的取り決めや、細かい特殊事情、深く浸透した慣行などが存在する。英国を合意なしでこれらの体系から引きはがしてしまったら、経済的に途方に暮れることになる。

規制や法律の策定は情熱的には見えないかもしれないが、延々と専門的な細則を仕上げていく取り組みは、背後にある力強い思想を表している。細かい取り決めの多くは論争を呼び、関係者は妥協するか、協調するか、それとも喧嘩別れするか態度を決めなければならなかった。平和で繁栄した欧州という理想に突き動かされ、関係者らは幾度も国益よりも欧州共同体の利益を優先する道を選んできた。

気高い理想と面倒な細かい手続きを並行的に推進していく考えは、1952年の欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立によって定まった。EUの前身だったECSCの最終目標は、当時のシューマン仏外相の言葉によれば「戦争を考えられなくするだけでなく、実行不能にすること」だった。そして欧州の平和の恒久化のための決意は、高尚な言い回しにとどまらず、石炭や銑鉄などで各国の年間生産割り当てを決めるという実に地道な措置を必要とした。

ブレグジット支持派が忘れていたのは、並行的な作業のうちの細かい手続きという面だった。

これをなおざりにしたばかりに、英政府は昨年3月にEU離脱を通知した後で、具体的な事項を検討しなければならなくなったのだ。来年3月というブレグジットの期限が迫った今、合意なしの離脱という自業自得の大混乱が現実的な可能性となってしまっている。

もちろん、どんなに周到に準備したブレグジットであっても、英経済への打撃は免れないだろう。EU離脱で非常に多くの関係が切れるのは避けがたく、英国の知的資本は大いに毀損されるだろう。

それでもECSCを立ち上げてきた過程を逆回しにして見習えば、痛手は最小限にとどまったのではないか。英国とEUは、加盟時の数多くの点をどう変更するかを詰めるための協議に入りことができたはずだ。緊迫したやり取りが何年も続いただろう。しかし共通の経済的利益と、ある程度は残っている共通の理想により、適切な着地点にたどりつけた可能性がある。

それももう手遅れだ。とはいえブレグジットで何が起きるにせよ、政治的または経済的な理想主義者にとっては1つの教訓が得られた。夢は感動を与えるかもしれないが、それが退屈で面倒な政策へと具体化されない限り意味はなく、場合によっては有害だということだ。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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