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コラム

コラム:中国の手による北朝鮮の「再生」可能か

[香港 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 北朝鮮を巡る「外交の罠」を抜け出す方法は中国を通してにほかならない。遠からず核保有国となることで、北朝鮮が失うものは米国よりも大きい。

 6月6日、北朝鮮を巡る「外交の罠」を抜け出す方法は中国を通してにほかならない。写真は、朝鮮人民軍創建85年の演習を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。KCNAが4月提供(2017年 ロイター)

米国ではなく中国主導による北朝鮮の体制変革は、魅力に欠ける選択肢しかないとしても、最善の策なのかもしれない。

北朝鮮を「再生」するための経験とリソースがある中国だが、同国政府は、エスカレートする隣国の状況によって麻痺しているようだ。中国は他国の内政に干渉しないという外交哲学に固執してきた。世界の大国を目指す国が頑として譲らない立場だ。

中国当局者も自国のプロパガンダに足を取られている。国民の大半は、朝鮮戦争で戦った大勢の中国人兵士が米国の侵略者から自国を守るために戦死したと教えられた。それ故、米国とのいかなるあからさまな協力も、国内の合意を得ることはそう簡単ではない。

もっともな経済的懸念もある。制裁強化は、北朝鮮経済を不安定化させ、同国からの難民が国境を越えて中国北東部の重工業地帯になだれ込むことになるだろう。同地域ではすでに、深刻なまでに経済的圧力が高まっている。

とはいえ、北朝鮮との関係にほころびも見え始めている。北朝鮮政府は中国の漁船を拉致したり、中国の重要な祝日にに水爆実験を実施したりしている。最近では、北京でシルクロード経済圏構想「一帯一路」の国際会議開催中に弾道ミサイル発射実験を行い、中国が国際的リーダーシップを示す狙いのあった同会議からメディアの注目をさらっていった。

北朝鮮の若き指導者、金正恩朝鮮労働党委員長は、粛清したおじの張成沢(チャン・ソンテク)氏を含む親中派とみられる政府高官に反発している。異母兄の金正男氏は、表向きは中国の保護下にあり、マカオで生活していたにもかかわらず、マレーシアで暗殺された。

「ならず者国家」への支援はまた、機会費用を生む。自国の明かりを灯すだけでも中国の石油提供に依存せざるを得ない金正恩政権への支援は、非武装地帯の韓国側に駐留し続ける米軍を正当化するばかりか、中国との関係強化を支持する韓国の政治家を弱体化させることになる。こうしたことは、中国の外交官のみならず、韓国のポップカルチャーやファッションを熱狂的に支持する中国の若者にも不満を抱かせることになる。

中国の関税データによると、韓国との2国間貿易は2017年1─4月、850億ドル(約9.3兆円)超に上り、韓国は中国にとって3番目に大きな貿易相手国で、最大の輸入相手国だ。一方、対北朝鮮貿易は同時期、わずか16億ドルにすぎない。

<「改革・開放」第2幕>

北朝鮮が反逆的な正恩氏を排除、あるいは失脚させたとしよう。そうなれば中国は、毛沢東国家主席が1976年に死去後、同国が発展させた改革モデルを用いて北朝鮮経済の再建を手助けすることが可能だろう。正恩氏のイメージは損なわず、同氏の経済政策を引きはがし、長期に及ぶ成長へと解き放すのだ。

韓国政府は表立っては抗議するだろうが、ひそかに安堵するかもしれない。米国も然りだ。北朝鮮がより柔軟な姿勢を示すようになれば、核開発を段階的に縮小し、朝鮮戦争を正式に終わらせ、南北統一に向けたロードマップさえ確立することが可能となるかもしれない。

もし中国が毛沢東後に達成した、平均10%程度という1978年以降の成長率を、北朝鮮でも再現できるのであれば、400億ドル規模の北朝鮮経済は40年間で1.5兆ドルに膨れ上がるだろう。私有の拡大を認めれば、不動産とインフラブームが到来する可能性もある。中国と韓国間の貿易から北朝鮮への波及効果も大きい。

実際に干渉することのリスクは高い。自国民を高射砲で処刑することで知られる指導者を退陣させることは困難だ。戦争は破滅的だ。だがそうする必要はない。より強硬な選択肢を検討していると示しさえすれば、中国は第2前線の扉を開くことができる。それは他の何よりも正恩氏を震え上がらせ、交渉の席に戻らせることになるかもしれない。

<万策尽きる前に>

中国にとっての代替案は、経済制裁強化のそぶりを見せて北朝鮮を脅しつつ、米国から譲歩を引き出そうとすることだ。中国は北朝鮮からの石炭輸入を禁止すると大口をたたいたが、今年前半における北朝鮮との純貿易額は増加しており、ほとんど効果のない禁輸措置であることを関税データは示している。

とはいえ、一段と厳しい制裁や軍事攻撃の脅威なくして、北朝鮮が核開発を放棄するもっともな理由はない。正恩氏の正統性は、現実の、あるいは想定された外国による脅威から自国民を守る能力にある。

核抑止力で武装してしまったら、北朝鮮はますます強硬な態度に出るようになるだろう。そうなった時点で、中国には不快な選択肢さえ選ぶ余地はなくなり、万策尽きることになる。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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