June 22, 2018 / 12:03 PM / 24 days ago

コラム:物価と賃金に共通する「上がりにくさ」、背後に選択的消費

[東京 22日 ロイター] - 国内物価の上昇率が鈍い。日銀は景気が堅調な下での鈍い物価上昇のメカニズムについて議論を深めるとみられているが、私は日本特有の大きな問題があると考える。それは企業経営者の「守り」の姿勢だ。期待された今年の春闘は、どうやら2015年の実績を下回った可能性があり、増えない所得の中で、消費者が選択的な消費に傾き、特定の商品・サービス以外の消費を抑え、それが物価に反映されている可能性がある。

 6月22日、国内物価の上昇率が鈍い。日銀は景気が堅調な下での鈍い物価上昇のメカニズムについて議論を深めるとみられているが、私は日本特有の大きな問題があると考える。それは企業経営者の「守り」の姿勢だ。写真は新宿の交差点。2017年5月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai/File Photo)

<今年の賃上げ率、15年を下回る公算> 

5月の全国消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は前年比プラス0.7%となり、伸び率は4月から横ばい。生鮮とエネルギーを除いたコアコアCPIは同プラス0.3%と2カ月連続で上昇幅が鈍化した。

こうした物価の鈍い動きは小売業の統計にも出ており、5月の全国スーパーの売上高は同マイナス2.3%と3カ月連続のマイナス。主要コンビニ7社の5月売上高も同マイナス1.2%と5カ月ぶりに前年水準を下回った。

金融情報会社ナウキャストによると、スーパーでは6割超の品目で1年前より販売価格が低下。中でも日用品の値下がり率が、ここ数カ月で大きくなっているという。

足元での弱い消費動向と鈍い物価上昇率の背景には、所得上昇に力強さがないという現実が大きく作用していると考える。

安倍晋三首相は、今年の春闘が始まる前に定期昇給やベースアップ、諸手当を含んで前年比3%の引き上げを希望していた。これに応えるかのように大企業の春闘における回答は好スタートを切ったかに見えた。

しかし、連合が集計している春闘の賃上げ率(定期昇給とベースアップ)は、6月11日までの集計で2.08%と2015年の2.20%を下回っている。最終的に回答がまとまる時点で、15年を上回ることは難しくなっている。

ロイターが21日に公表した6月ロイター企業調査(資本金10億円以上の539社を対象に調査。回答数は223社)によると、15年との比較で今年の賃上げ率が上回ったのは製造業が22%、非製造業が35%だった。

<積み上がり続ける利益剰余金>

過去最高益を出している企業が続出しているのに、賃上げに積極的でない企業が多いのはなぜか。「人手不足と結びつけて、短期的な賃上げを考えているわけではない」(化学)、「人手不足の問題は量より質の面が大きく、賃上げで解決できる範囲は知れている」(機械)という回答が、ロイター企業調査では見られた。

ただ、どのような「正当な理由」を挙げても、従業員への配分を抑制している正当な根拠にはならないのではないか。

法人企業統計で示される企業の利益剰余金の規模は、四半期ごとに増加。2017年1─3月期の390兆円から18年1─3月期は426兆円に膨張した。

リーマン・ショック後に企業の資金動向が急速に悪化し、それが「トラウマ」となって手元流動性を厚くしようとしているとの指摘もある。確かに当時の「危機感」が、経営者の脳裏から消えないことも理解できるが、ため込むだけで何もしないことを正当化する「理由」にはならないだろう。

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどを具体的にビジネスで活用する面で、日本企業は米系企業だけでなく、保守的と言われる欧州系企業にも後れを取っているとの指摘が、その分野を専門とするエンジニアや学者らから多く出ている。

新しい動きを果敢に自社のビジネスモデルに取り込む「意欲」に欠けているというのが、批判の中心のようだ。

<保守的な経営者心理、AIでも出遅れ>

結果として、来年の春闘までは伸びない雇用者報酬の下で、個人消費に力強さは戻ってこないだろう。とすれば、コアCPIの伸び率が、今年後半にかけて1%台前半に向けて上昇していくという姿を描くことは相当、困難になってきたのではないか。

トランプ大統領が仕掛ける「貿易戦争」の矛先が中国だけでなく、同盟国である欧州や日本にも向かってくるようなことが明らかになれば、消費者心理だけでなく、経営者の見通しにも悪影響を与え、それが個人消費の動向をさらに下押しするという悪循環に陥るリスクについても、予めその可能性を試算しておく必要があるだろう。

日用品を節約する消費者の懐事情の先行きを展望した場合、遠いようで近道になるのは、企業経営者のマインドを立て直すことだろう。AIを活用したシステムを取り入れた設備投資を大胆に行い、優秀な人材を確保するために賃金コストの上昇も容認する──。

新しいうねりが一部の企業群で出てくれば、本当の意味での前向きの循環がようやく動き出すことになると予想する。

最も避けるべきは、こうした見解を「空想」と批判し、「現実は甘くない」と切って捨てることだ。

上がらない物価の背後には、日本社会の抱える問題点がとぐろを巻いて存在している。

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