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コラム:不透明感増す金融市場 5つの懸念と強気になれる理由=青木大樹氏

[東京 5日] - 米国をはじめとするグローバルな金融市場に先行きの不安感が強まっている。これまでは景気のリバウンドと政策効果によって支えられてきた期待先行の市場であり、特に米国の実質金利の低下は、株式市場のバリュエーションの上昇と通貨ドルの下落をもたらした。しかし、これからは経済・企業収益の回復、米大統領選挙後の政治といったファンダメンタルズが重要な要素となってくる。

 米国をはじめとするグローバルな金融市場に先行きの不安感が強まっている。写真は都内の株価ボード。2013年10月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)

新たな転換期に入り、ボラティリティを高める金融市場はどう展開するのか。市場が抱える5つの懸念を検証するとともに、今後の投資戦略について考えてみたい。

<懸念1:グローバル景気は2番底となるのか?>

欧米で経済が再稼働するとともに、大規模な景気刺激策が効果を上げ、景気は8月にかけて予想以上に強いリバウンドを見せた。主要国のGDP(国内総生産)成長率は4-6月期に年率換算で30%程度押し下げられたが、7-9月期には顕著な回復が見られるだろう。

しかし、ここにきて回復ペースには明確な停滞が見られ始めている。米国での人々の移動を計るグーグル移動指数をみると、7月にかけてコロナ前の8割程度まで戻ったものの、その後は横ばいで推移している。

財政支出効果の剥落も意識され始めた。8月の個人所得は政府移転の減少により、前月比で大きく落ち込んでいる。

しかしながら、大きく悲観する必要はないだろう。金融・財政面での大規模な政策支援が続く中、経済の正常化は緩やかに進んでおり、再び景気が大きく悪化するリスクは低いと考えている。

<懸念2:米国コロナ対策第4弾の不成立はリスクか?>

米国のコロナ対策第4弾に関して、共和党と民主党との溝は深く、11月3日投票の大統領選挙前に成立する可能性は低いだろう。しかし、対立の焦点は規模と政策の内容であり、両党ともに経済を支えることを優先する姿勢に変わりはない。

航空業界への支援策延長については別枠として成立があるかもしれない。しかし、対策の本体は米国大統領選挙で勝利した政党が第4弾を策定するだろう。これは2021年前半の景気を押し上げることとなる。

米国の家計はこれまでの対策から十分な貯蓄を保有しており、経済の正常化による所得も回復が続いている。失業保険給付の期限が来ても、すぐに消費を冷やすということにはならないとみる。

<懸念3:欧米は経済封鎖を再実施するか>

スペイン、フランス、イギリスを中心に欧州がウイルス感染の第2波に見舞われている。米国でも新規感染者数は減少したとはいえ、1日当たり5万人程度の横ばいで推移しており、中部の州での拡大やニューヨークでも再感染がみられ始めた。

それでも、無症状者が多く致死率は4月時点と比べて非常に低い。医療崩壊に陥るリスクは低く、部分的な制限の再開はあっても大規模な経済封鎖が再開されることはないだろう。

もちろん感染状況が落ち着いてきた国や地域でも、冬場にかけて再拡大のリスクは十分にあろう。経済正常化への時間はよりかかるとみており、日本であれば経済がコロナショック前の水準に戻るのは2023年以降とみている。

<懸念4:米国でのワクチン承認は遅延か>

現在、世界保健機構(WHO)に登録されている新型コロナワクチンは、臨床試験前も含めて180プログラムを超える。このうち、8プログラムが臨床試験の最終段階であるフェーズ3入りしており、近い将来の承認が期待されている。

しかし、各社はここにきて安全性の確保に以前よりも慎重になり始めている。どこよりも先に開発するという姿勢を見直し、後発でもより安全性があり、効果の高いワクチンを開発することに注力しているのだ。

米国では保健当局による承認規制の厳格化もあり、10月中の承認の可能性は以前と比べると大幅に低下した。

ワクチン開発について、早期承認への期待ははげ落ちつつあるものの、年内か2021年の早いタイミングでの承認の可能性は十分に残る。経済・市場にとっては、開発各社が焦ることなく安全で効果の高いワクチンを実用化することが健全なシナリオだ。

<懸念5:米大統領選後の混乱はありうるか>

トランプ米大統領とバイデン前副大統領が雌雄を決する大統領選挙がほぼ1カ月後に迫り、その結果をめぐる不確実性が、市場の不安意識を高めている。両候補による1回目の討論会、そしてトランプ氏のコロナ感染により、バイデン氏の勝利が意識されはじめている。しかし、支持率からみれば決定的な差ではない。トランプ氏は打てる政策についてのアピールを10月にも出してくるとみられ、まだまだ接戦となることが予想される。

今回はコロナ感染の影響から、郵便投票が簡易に行えるようになった州は増えている。通常の大統領選挙では25%程度が郵便投票となるところ、今回は40─70%程度、したがって、5000万─1億人の投票が郵便で行われる可能性がある。

これにより、選挙結果の判明が場合によっては数週間遅れるリスクがあろう。また、トランプ氏は選挙結果について連邦最高裁判所で争う可能性も示唆している。

<どちらの候補が勝っても景気は加速>

選挙が近づくにつれ、こういった投票結果をめぐる混乱の可能性が市場の不透明感を高めるかもしれない。

しかし、重要なのは、両候補ともに、米国の景気回復を最優先に考えている点だ。トランプ氏が再選を果たせば、減税と支出拡大が予想され、米連邦準備理事会(FRB)による低金利の長期化がより意識されるだろう。

バイデン氏の掲げる財政支出計画は増税の規模を上回るほどであり、増税は景気回復後とみられることからも、同氏が当選しても、まずは景気回復が加速することが見込まれる。

<株式市場には強気を維持>

これらの懸念は短期的にすぐに払しょくされるわけではなく、市場のボラティリティは高まりやすい環境が続くだろう。それでも、UBSウェルスマネジメントはメインシナリオとして、グローバル株式市場に対して強気を維持している。グローバル規模での超低金利・緩和政策が続く中で株式のバリュエーションは高水準を維持し、利益水準の回復が株価を押し上げるだろう。2021年6月のS&P総合500種指数.SPXは3700を予想する。

トランプ氏が大統領選で勝利した場合、米国では金融やエネルギー関連、防衛関連の銘柄が恩恵を受けるだろう。また、米中対立の激化が予想される中で、中国からのサプライチェーンの変化や市場シェアを拡大できる企業にも注目している。

一方、バイデン氏の勝利の場合、アジア・欧州との貿易拡大が見込まれることから、米国では資本財や素材、日本の機械や自動車もポジティブである。また、米国市場に残ることができる中国株、グリーン・ニューディールによって恩恵を受けるインフラ関連や太陽光、電気自動車なども推奨している。

なお、上院と下院とでねじれ状況が続く場合、税制改革や財政支出など議会の承認にかかる政策の実施が難しくなるかもしれない。

<さらなるドル安余地は限定的>

そして、これまではグロース株、ハイテク株の上昇が株式市場の上昇を牽引していたが、景気回復の方向が確認されれば、バリュー株やシクリカル株の上昇が見込めそうだ。一方、コロナが加速させる分野として、グローバルのハイテク企業に分散投資を行う「デジタル・トランスフォーメーション」といったテーマも推奨している。

クレジットでは、マイナス金利導入を議論する国が増えている状況を踏まえ、引き続き利回り追求の動きが加速するものと想定している。ドル建ての新興国債券や、アジアハイイールド債などの利回りの高い債券を選好する。

為替は、実質金利の低下余地が限定的であることから、さらなるドル安余地は限定的だろう。一方、円はグローバルの景気回復が続く中で売られやすい通貨であり、円安余地が残る。したがって、ドルの上昇余地はないものの、ドル円の下値は堅く、104-108円のレンジで推移するものと考える。

選挙の結果や米中対立の展望、景気回復のペースといった不確実が続く中、市場のボラティリティは高いかもしれない。2021年は資産クラスの間や地理的なリスク分散がますます重要となってくるであろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルスマネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年より現職。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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編集:北松克朗

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