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コラム:グローバル市場の「政治の秋」を読み解く=青木大樹氏

[東京 16日] - 新型コロナウイルスのデルタ株感染が続く中、新規の感染者や死者数にはピークアウトが見えつつある。ワクチンの普及も先進国では5-7割が完全接種済みとなり、大規模な都市封鎖の再開リスクは大きくない。

 新型コロナウイルスのデルタ株感染が続く中、新規の感染者や死者数にはピークアウトが見えつつある。青木大樹氏のコラム。写真はニューヨークのビル群。2020年4月撮影(2021年 ロイター/Eduardo Munoz)

目先、秋にかけての旅行需要が抑えられてしまったり、自動車部品や半導体などの生産調整は続くとみられているが、ウィズ・コロナでの波を伴ったグローバル景気回復は続くというシナリオは維持して良いだろう。

しかし、2021年の年末に向け、金融市場にとって各国・地域での政治リスクが意識されるかもしれない。米国での財政支出法案や債務上限問題を巡る駆け引き、米連邦準備理事会(FRB)による資産買い入れペースの縮小(テーパリング)、中国の規制強化、ドイツ総選挙や日本の政局など、欧米・アジアで政治のイベントが目白押しとなっている。

<米国の財政支出を巡る民主党・共和党間の駆け引き>

「政治の秋」として最も注目されるテーマが米国の財政支出を巡る動向だろう。

これまでバイデン大統領が公表していた財政支出は、新規支出5500億ドルのインフラ投資計画法案と社会保障支援を含んだ3.5兆ドル規模の包括支出法案の2つの法案にまとめられた。

インフラ投資計画法案は超党派で合意されているため成立の可能性は高いだろう。そして、3.5兆ドルの包括支出法案は民主党は上院で60議席の賛成を必要としない財政調整措置を使う見込みだ。

しかしながら、順調に議論が進むわけではない。増税や支出規模については民主党内でも異論がある。10年間の支出としてはインフラ投資と併せて当初の4兆ドル規模から大きく減額となるリスクがあろう。

財政支出を巡る共和党との駆け引きは、連邦債務残高の上限引き上げや22会計年度予算の成立にも影響してくる。2022年の中間選挙に向けて共和党としても成果が必要となろう。

債務上限の引き上げの期限は10-11月頃とみられ、22会計年度予算はつなぎ予算を編成したとしても年内の成立が必要とされる。これらについて共和党との合意がなければ、政府支出が止まる政府閉鎖につながるリスクが意識される。

最終的には共和党の案が一部反映されることで、債務残高上限の引き上げや22会計年度の予算の合意に至るとみるが、その過程には政治の混乱や市場の変動の高まりがあるかもしれない。

その他にも、バイデン大統領下での対中政策の動きも注目される。8月に駐日大使、駐中大使が指名され、上院の承認を経て対アジアの外交政策の陣容がそろう。

中国に対しては、貿易合意の進捗や台湾や香港、ウイグル問題などに対してバイデン大統領下での方向性が打ち出されるだろう。

米中対立の激化は、お互いの許容できないレッドラインを超える展開は短期的にはないと予想しているが、対立の深化や長期化を意識させる結果となると考えている。

<FRBのテーパリングの注目点>

米国の金融政策の行方も大きな焦点である。米国FRBは現在毎月1200億ドルの国債・住宅ローン証券を買い入れているが、経済正常化が進む中、年内にもテーパリングが決定されるとみられている。

テーパリングの年内決定は市場にも広く意識されているが、その影響で注目すべき点は、米国の金利、特にインフレ率の影響を除いた実質金利に影響を与えることである。

コロナショック以降、FRBは固定利付の国債と併せ、物価連動国債も積極的に買い入れており、その保有率は市場発行額の25%まで拡大している。

この物価連動債は、インフレのリスクをヘッジするため民間の需要も非常に高く、供給に対する過度の需要が実質金利を押し下げてしまっている。

米国のインフレ率は4-6月の急激な上昇をけん引してきた中古自動車価格はすでに落ち着き始めている。目先、サービス価格や賃料などにより全体の物価を押し上げていくとみているが、年末に向けてはインフレ率のピークアウトは明確となっていくだろう。

物価連動債に対する需要が鈍化していけば、FRBのテーパリングと併せ、需給バランスは大きく緩んでくることで、実質金利の上昇につながる。通貨ドルにとっては追い風となるが、株式市場にとっては変動を高める要因となりうる。

<中国の規制強化は継続する>

中国ではこれまでIT関連や不動産、教育といった分野で規制強化を進めており、金融市場では特にアジア市場のリスク材料として意識されている。

これまでの規制強化の目的は、IT関連では大企業の寡占化やビッグデータの過度な蓄積を防ぐこと、不動産では価格高騰による不平等の是正など、教育では子育てコストを抑えることによる少子化対策といった、中期的な経済成長、産業の育成という観点が強いだろう。

短期的には規制強化による混乱、不動産などの一部の企業では債務リスクの拡大が意識されるだろう。また規制超過により、消費マインドの低下や景気の減速にもつながっている。

しかし、IT、不動産、そしてヘルスケアといった分野での規制強化は続くとみる一方で、グリーン技術やエネルギーといった分野での規制強化のリスクは低く、新しい分野での需要が成長のけん引役となっていくだろう。

政権にとっても、22年秋には5年に一度の共産党大会が予定される中、来年後半に向けて景気を支えていくインセンティブはあるだろう。中小企業向けの貸し出し支援や補助金といった下支え策も発表されている。年末に向けては景気のボトムアウトが明確となろう。

<ドイツ総選挙後の政策の焦点>

欧州での焦点は、9月26日のドイツ総選挙後の政策の方向性だろう。支持率の推移をみると、与党であるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は伸び悩み、財政拡大路線とみられるドイツ社会民主党(SPD)が第一党となる可能性が意識されている。

選挙後の連立の枠組みについては様々な予想があるが、ドイツでは過去政権樹立までに何カ月も時間がかかっていたこともあり、今回も枠組みが決定するまでには時間が必要かもしれない。

しかし、有権者の関心はこれまでのコロナ対応から環境・エネルギー政策に移っており、11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を控える中、いずれの枠組みであってもグリーン対策、気候変動政策には大きな進展があるだろう。

新政権の下では、気候変動政策に加えて、財政支出の拡大、EUの統合深化、賃料上昇の歯止めなどの住宅政策、最低賃金引上げなどの労働政策、などが主要テーマと考えている。

05年以降の長期にわたり首相であったメルケル氏に代わり新たな首相が誕生する。気候変動に向けた支援に加え、EUの統合を深化させていくことが示されれば、ユーロは安心した投資対象として魅力を増すことにつながりうる。

<日本の政局の行方>

日本でも首相の交代が意識されたことで、金融市場では出遅れていた日経平均が大きくアウトパフォームしている。

目先、誰が次の首相となったとしても、緊急事態宣言下で影響を受けた経済や家計を支えるべく、大型の補正予算が編成される可能性が高いだろう。金融政策でも、黒田日銀総裁の任期が2023年4月と1年以上残す中、金融政策の方向性が変わることは想定しがたい。

衆議院選挙は11月と見込まれるが、選挙後もマクロ環境は悪くない。ワクチン接種率は11月には70%へ到達する見込みであり、直近でも欧米を大きく上回るペースが続いている。

半導体やアジアでの自動車部品の不足も、8-9月がピークとみており、緩やかなペースではあるものの、年末に向けては回復が見られるだろう。

為替についても、米国やグローバル市場での金融政策正常化期待が進むことにより、22年は116円といったドル高・円安を見ており、これも日本経済の支援材料となる。

もちろん、日本株式が息の長い上昇となるには、長期の成長に向けた新政権の政策が重要となろう。成長と分配の好循環を掲げる岸田氏、環境・エネルギーなどの規制改革による成長を目指す河野氏、ニュー・アベノミクスを唱える高市氏、と候補者の政策スタンスには違いがみられる。

デジタルやグリーン技術といった新分野、また経済安全保障関連の投資などで持続的な需要を創出することができるかどうか、新政権での政策実行力に注目したい。

年末に向けたこれらのグローバル政治イベントは、事前に動きを完全に織り込むことが難しく、市場の変動を促す要因となりうるだろう。

しかし、米国では財政の拡大は続き、金融も緩和的な環境が継続する。

そして先進国を中心としたこれまでの財政拡大、金融緩和により、家計や企業部門には膨大な貯蓄が蓄積しており、経済再稼働によるサービス消費や企業によるデジタルやグリーン化投資が22年以降の景気回復を支えていくとみている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*青木大樹氏は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年、UBS入社。2016年より現職。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(2年連続で外資系1位)に選ばれる。

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(編集 橋本浩)

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