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コラム:英「ブレグジット」総選挙、ポンド相場は安定より混迷か=植野大作氏

[東京 6日] - 欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を最大の争点とする英国の総選挙が12日、実施される。ジョンソン首相がまとめた離脱案が是認されるかどうか、日本時間では日付が変わる13日の金曜日に大勢が判明し、その結果はポンド相場にも大きな波乱要因となる。

 12月6日、 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジストの植野大作氏は、ポンド絡みの為替ポジションを持つのは当面手控えるのが無難だと指摘。写真は英ポンドとユーロ紙幣。2017年4月28日、ボスニア・ヘルツェコビナのサラエボで撮影(2019年 ロイター/Dado Ruvic)

以下、想定される選挙結果を3つに分けた上で、ポンド相場への影響を検証する。

<シナリオ1:予想通り保守党勝利>

まず、ジョンソン首相の保守党が解散前の298議席から上積みに成功した場合を考えてみよう。最新の世論調査では保守党の優勢が伝えられており、市場も保守党勝利を織り込みつつある。

英議会下院650議席のうち、正副議長などを除いた実質的な過半数は320程度だ。保守党が単独でこれを上回る議席を獲得して離脱協定の批准が確実になった場合、離脱の条件について何も決めずにEUと別れる「合意なきブレグジット」は回避することができ、来年1月末に「合意ある離脱」に向かうことになる。

この場合、市場には「合意なきブレグジット」のリスクから解放された安堵感が広がり、初期反応ではポンド高に振れそうだ。2016年6月の英国民投票後に起きたポンド安ショックからの戻り高値である1ポンド=1.4ドル台前半を試しに行く展開もあるだろう。

ただ、そのまま素直にポンド高が続くとは思えない。短期的に上昇したポンドは早晩反落、長期的にはポンド安に向かうだろう。今回の総選挙で保守党が勝って「合意あるブレグジット」が成就しても、EUと別れた後の付き合い方を決める「将来協定」を結ぶための「移行期間」は、現状では2020年末までしかない。

その間にEUとの自由貿易協定(FTA)を締結できなければ、2021年から市場が嫌う関税障壁が発生する。現在のルールでは20年7月までに1回だけ「移行期間」を延長できるが、仮に「移行期間」を延ばしてFTAを結んだとしても、非関税障壁の発生までは回避できない。自分の力で提供できる商品やサービスの競争力に自信のある優秀な人や企業ほど、活躍の場をなるべく広く保つべく、英国外への引っ越しを検討するだろう。

16年の英国民投票で「EU離脱」の方針が決まった後、3年以上に及ぶ協議の迷走を嫌気した外国籍企業や金融機関の英国離れは既に起きている。英国が正式にEUから離脱することが決まった場合、長期的には「英国企業の英国離れ」も起きかねない。

英国のEU離脱後に待ち受ける「将来協定」に関する話し合いが難航するにつれ、ポンド/ドル相場は再び下落基調に戻りそうだ。英国民投票後に記録した安値1.18ドル前後の水準を再び目指すのではなかろうか。

<シナリオ2:離脱交渉は振り出しに>

次に、野党第一党の労働党が躍進、保守党から政権交代が起きた場合はどうだろうか。労働党のコービン党首は、英国がEUから離脱する場合でも関税同盟には残留すべきだと主張、EU離脱協定を見直した上で「関税同盟を維持してEUから離脱する」のか、「EU離脱を撤回する」かの二択で国民投票を行うことを公約に掲げている。

よって、もし労働党への政権交代が起きてEUとの再交渉が始まった場合、離脱交渉が振り出しに戻って政治的な不透明感が強まる一方、その後の協議の展開次第で関税同盟を維持できたり、ブレグジットの話自体がなくなったりするかもしないとの期待も明滅する。

この場合、ポンド相場が労働党の勝利をどう評価するのか、様々な変数があり、正確な予測は難しい。労働党が単独で実質過半数を超える議席を獲得した場合は、英国の「関税同盟への残留」観測が強まり、これまでEU離脱交渉の桎梏になっていたアイルランド国境問題は解消されるとの期待が高まる。EU残留の可能性まで市場が意識した場合はポンド全面高の初期反応を呼ぶかもしれない。

ただ、一方で「左派色の強い労働党の政策は、マーケット・フレンドリーではないため、労働党勝利なら英国株安・ポンド安で反応する」との見方も根強い。労働党政権の下で国民投票をやり直し、「EU残留」を決めたとしても、結論を出すのが遅きに失した場合は人や企業の英国離れが十分に起きた後になる可能性もある。長期的な英国の国力低下は避けられず、「英国病」の再発によってポンド安が進む可能性は残るだろう。

<シナリオ3:過激な小政党が躍進>

最後に、筆者が一番恐れている「最悪のシナリオ」について触れておきたい。実現の確率は高くないかもしれないが、せっかく解散・総選挙を行ったにもかかわらず、やや極端な政治主張を展開する小規模な政党の議席が思いのほか伸びて保守党、労働党がともに議席数を減らすケースもゼロとは言えない。

二大政党のどちらかを中核にした政治基盤の不安定な内閣は誕生するだろうが、そのような政権に国論をまとめ上げるのに必要な強いリーダーシップは期待できそうにない。英国議会内での意見調整やEUとのブレグジット協議はこれまで以上に混迷の度合いを深め、結局「何も決められない」状態が選挙前よりひどくなるリスクが高まる。

英国と粘り強く交渉してきたEUの忍耐が限界に達し、いったん消えかかった「合意なきブレグジット」の懸念が再燃するかもしれない。「英総選挙で世論調査通り保守党が勝てば今後のEU離脱協議の方向性がやっと決まる」との観測が強まっていた分だけ、市場の失望は大きくなるだろう。外為市場で観測される初期反応はポンド全面安となり、自律反発による戻りも限られて長期的なポンド安トレンドが出現する可能性が高い。

その場合、市場の懸念に拍車をかけそうなのが、「スコットランド独立問題」の再燃だ。スコットランド民族党のスタージョン党首は、今回の総選挙後にEU離脱協議が迷走するような事態になれば、英国からの独立の是非を問う2回目の住民投票を目指す方針を示している。再度の住民投票の結果、スコットランドが英国との離別を選んだ場合、英国は国土面積の約35%、人口の約12%を失うことになる。

「スコットランドの独立による英国の分断」は、大方の市場関係者がまだ織り込んでいない潜在的な懸念材料だ。今後の政治情勢の変化を受けて「英国分裂」の可能性が明滅するような事態になった場合、ポンド/ドル相場は英国民投票後の安値である1.18ドル台を下に突破、変動相場制後の最安値である1.052ドルに至るまで、これといった下値目処が見当たらなくなるかもしれない。実際に底値を確認できるまで、誰もその水準を明言できない重苦しい雰囲気が市場を覆うようになるだろう。

以上、今回の英総選挙後の結果とポンドの反応について、筆者の考え方を整理した。国の将来を左右する重大な選択を英国民が迫られる日は、間もなくやってくる。どのような民意が示されるにしろ、当事国の政治家や国民にすら読めていない結末を、外部から観察している我々が正確に予測するのは難しい。

実需絡みのやむを得ない事情があってポンドの売買から逃れられない場合や、射幸を狙った「運任せ」のポジションを好んで持ちたいという場合を除き、当面はポンド絡みの為替ポジションを持つのは手控えるのが無難だ。「英国の民意」が示されるまでの間、ポンド絡みの通貨ペアは「見るも相場」に徹するのも一計だろう。

気息を整えてその瞬間を待ち、歴史が動く瞬間をライブで観察していきたい。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

(編集:北松克朗)

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