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コラム:豪ドル急騰3つの理由、最強通貨の座を維持できるか=植野大作氏

[16日 ロイター] - 豪ドル円の動きが活発だ。6月8日のオセアニア市場では一時76円79銭と昨年5月以来、約1年1カ月ぶりの高値を記録した。3月19日に刻んだ直近安値の59円91銭を大底に、わずか2カ月半で28.2%もの値上がりだ。

 6月16日、豪ドル円の動きが活発だ。6月8日のオセアニア市場では一時76円79銭と昨年5月以来、約1年1カ月ぶりの高値を記録した。写真は100豪ドル札とオーストラリア国旗。2017年6月撮影(2020年 ロイター/Thomas White/Illustration)

その後は自律反落に転じたが、70円台前半では下値が堅く、「コロナ前」の水準に戻って次の方向感を模索している。

この間、豪ドルは日本円に対してだけでなく、米ドル、ユーロ、英ポンド、加ドル、スイスフランなどの主要通貨に対して一斉に反発。4月と5月の月足は上昇エネルギーの強さを示す連続陽線を記録するなど、最近に限れば、「最強通貨」と呼べるパフォーマンスを示している。

以下、豪ドル急騰の背景と今後の展開を探ってみたい。

<財政規律の維持と利下げ打ち止め感>

3月下旬以降に観測された豪ドルV字回復の背景については諸説ある。まず経済の状況と政策対応をみると、豪州は欧米に比べて比較的早く感染の拡大を抑え込むのに成功した。新型コロナ禍で第2次世界大戦後最悪の不況に見舞われ、異例の財政出動を余儀なくされているのは世界各国みな同じだが、豪州政府の財政負担は当初心配されたほど重くならずに済みそうだ。

各国の財政赤字や債務残高を名目国内総生産(GDP)比で比較した場合、豪州の財政状況はもともと主要国の中では良好だった。日米欧の国々で思い切った財政の大判振る舞いが目立つ中、豪州政府がこれまで守ってきた財政規律が改めて見直されている。

金融政策に目を転じても、豪州準備銀行(RBA)は3月19日の臨時会合で短期政策金利を過去最低の0.25%まで下げると同時に3年国債の金利をほぼ同じ水準に誘導するイールドカーブ・コントロールを導入した。

ただ、ロウRBA総裁はユーロ圏、スイス、北欧諸国や日本が先行して採用したマイナス金利については導入の可能性を明確に否定している。RBAが前例のない超低金利政策を発表した当日は市場が驚いて豪ドル売りパニックが起きたが、振り返ってみると、その日の安値が今年の底値になって豪ドルは全面高に転じている。

RBAが導入した「3年国債の利回りを翌日物金利の水準に抑え込む」という政策は、先行き3年間の「利上げ放棄宣言」のようなメッセージ効果がある一方、ロウ総裁がマイナス金利を否定しているため、市場には「利下げ打ち止め宣言」に等しいとの解釈も広がっている。

<値ごろ感からの豪ドルV字回復>

豪ドルV字回復の背景としては、単純明快な「値ごろ感」説も有力だ。変動相場制導入後、豪ドル円が節目の60円を割り込んで50円台まで値下がりしたのは、ITバブル崩壊の後とリーマン危機の時だけだった。3月19日に豪ドルは一時59円91銭周辺へ差し込む場面があったが、60円割れの滞空時間は非常に短く、切り返しに転じた。

3月の豪ドル急落局面では、一体どこまで下がるのか、正確に予想するのは難しかった。しかし、過去2回経験したことのある史上最安値の55円台を歴史的な下値抵抗ラインに見立てるならば、「60円割れからの買い下がり戦略」は、時間を味方にして戻りを待つことができる投資家には魅力的に映ったのかもしれない。

豪ドルの対米ドル相場をみても、豪ドル安が加速した3月19日には一時1豪ドル=0.551米ドルと18年3カ月ぶりの安値圏まで差し込んだ。豪が変動相場制に移行した1983年12月を基準に試算される消費者物価ベースの購買力平価は今年1─3月期の時点で0.727米ドル台だった。55米セント台で買うことのできた当時の豪ドルは、アメリカ人の目からみても「値ごろ感」があったのではないか。

実際、豪州の貿易収支は近年急激に改善して過去最大級の黒字を計上するようになっている。かつての資源ブームで盛り上がった開発プロジェクトが稼働し始めた効果もあるが、基軸通貨米ドルに対する豪ドルの割高修正が進んだことが、対外収支の改善を促した可能性もある。

こうした様々な要因の複合効果が、豪ドル円のV字回復をサポートしたと考えられる。

ただ、問題になるのは今後の展開だ。「相対的に健全な豪州の財政」、「RBAの利下げ打ち止め観測」、「下げ過ぎた豪ドルの値ごろ感」は、いずれも豪ドルの自律反発を促すテーマとしては十分だが、一段の上値を追う材料としては迫力不足の感が否めない。これまで織り込まれていない新規の強気材料がないと、豪ドル上昇の勢いもそろそろ頭打ちになるのではないか。

<鍵握るポストコロナの世界経済>

今後注目すべきは「ポスト・コロナ」の世界経済だ。先進国であると同時に資源国の通貨でもある豪ドルは、豪州国内の経済や政策などのローカルな要因ではなく、地球的規模での景況感の伸縮に左右されて大まかな方向感が決まる。いわば、国際商品市況のような値動きをする傾向が強い。

外国為替市場の参加者は良くも悪くも先読み重視で動くので、最近の豪ドル円は世界同時コロナ不況の到来をいち早く織り込んで先に暴落したが、世界各国の経済活動再開による景気回復期待を追い風にして自律反発に転じるタイミングもかなり早かった。

今後の世界経済について、多くの市場関係者の間では「コロナ感染初期段階での各国経済の落ち込みが激し過ぎただけに、前期比や前年比ではV字回復になるが、経済活動の水準がコロナ前に戻るまでには相当な時間がかかる」という意見が専らだ。今後の世界経済がおおむねその通りの展開をたどるなら、これまでに観測された豪ドル円のV字反発の局面ですでに相当程度、織り込まれているとみられる。

<豪ドルの行方、コロナとの戦況次第>

そのような筆者の見立てに誤りがなければ、今後はこれまでのような豪ドル円の快進撃は続かないだろう。世界景気がコンセンサス通りの緩やかな回復に向かう中で豪ドル円の下値は堅くなりそうだが、さらなる上値を試す余地も狭まり、現在取引されている1豪ドル=70円台を中心とした横ばいレンジ取引に移っていく可能性が高い。

もちろん、今後の豪ドル円相場の方向感は、コロナとの戦況次第だ。この先、世界各国で感染第2波が想像以上に広がったり、ウイルスが突然変異でパワーアップしたりして世界景気が深い谷底に沈み込んでいく場合、これまで反発してきた世界の株価や国際商品市況は再び急降下。豪ドル円も60円割れの「二番底」に向かうリスクが高まるだろう。

一方、新型コロナに対する有効な治療薬やワクチンの開発が想像以上に早く進んで世界経済の回復が市場の予想を超える速さで進む場合、市場心理の更なる改善を追い風にした豪ドル円の上値試しが続くだろう。勢いに乗ると速い通貨だけに、80円台復帰もありそうだ。

この先、豪ドル円が「横ばい」、「反落」、「続伸」のどの道を進むのか、「コロナとの戦況次第」としか言えないのが悩ましい。ただ、良くも悪くも「世界景気に敏感」という特徴を備えている豪ドル円は、近年値動きの甘さが目立つ米ドル円よりも動きが派手で面白い。

今後、コロナ絡みのニュースが引き起こす為替変動に期待して「良ければ上、悪ければ下」という是々非々の短期トレードに臨むなら、米ドル円ではなく、豪ドル円や豪ドル米ドルを戦場に選ぶ方が効率的だ。

予想を当てるのは簡単ではないが、値動きの背景がシンプルで分かりやすい豪ドルは、高金利通貨で無くなった今も根強い売買ファンを引き付ける魅力を有している。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

(編集:北松克朗)

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