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コラム:人民銀が元高容認に転換か、今年も元が最強通貨へ=植野大作氏

[東京 11日] - 2022年が始まって約1週間が過ぎた。2021年の外国為替市場を振り返ると、かなり意外な通貨が世界最強の座に君臨していたのが目につく。他でもない、中国人民元だ。

 1月11日、2022年が始まって約1週間が過ぎた。2021年の外国為替市場を振り返ると、かなり意外な通貨が世界最強の座に君臨していたのが目につく。他でもない、中国人民元だ。写真は人民元紙幣。2020年2月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

中国人民元は昨年、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、豪ドル、カナダドル、スイスフラン、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、ニュージーランドドルのG10(主要10カ国)通貨に対して全面高の快挙を成し遂げた。2021年の1年間に「人民元円」は14%近くも値上がりしており、日本人が買ったら一番もうかった通貨ペアだった。

<景気減速でも買われた元>

昨年、中国経済は大幅に減速し、1─3月期に前年比プラス18.3%だった実質国内総生産(GDP)成長率は7─9月期に同4.9%まで低下した。

そのような状況下、中国人民銀行(PBOC)は景気を支える目的で金融緩和を進めており、昨年は大手行に対する預金準備率を7月と12月に2回も引き下げたほか、年末には1年8カ月ぶりの利下げにも踏み切った。

通常、景気が悪くて金融緩和に動いている国の通貨は、安くなるのがセオリーだ。昨年、日本を除くほとんどのG10通貨圏では物価の上振れが顕著になったため、各中銀はインフレの抑制にかじを切って利上げを始めたり、量的緩和をやめたり、資産購入額の削減(テーパリング)を決めたりするなど、金融政策の正常化に動く様子が観測された。

金融緩和を進めた国の通貨である人民元が、金融緩和の巻き戻しを進めた国や地域の通貨を圧倒して全面的に値上がりしたのはいったいなぜか──。考えられる理由は2つある。

<元買い生む巨額な貿易黒字>

第1に、人民元を取り巻く為替需給環境が、元高優位に傾いている可能性が高い。現在、中国の貿易黒字は基調を示す原計数の12カ月移動平均値で月間500億ドルを突破し、過去最大記録を更新中だ。

輸出入決済の差額として発生する片道切符の外貨売り・元買い切りの為替フローが、歴史的な規模に膨張していると推測される。

加えて、歴史的な低金利の長期化に頭を悩ませている先進国の機関投資家の間では、金利の高い中国の国債を投資対象のメニューとして新たに加える動きもあると聞く。貿易実需と対中投資の両面で、人民元高圧力がかかりやすい環境になっているのではないか。

また、近年では、日本の店頭外国為替証拠金取引(FX)でも、人民元/円を取引可能な通貨ペアに加える動きが観測されており、最近はほぼ恒常的な元買い・円売り超過のポジションが定着している。

まだ、米ドル、ユーロ、豪ドル、ポンドほどの人気はないが、日本国内に居住す為替売買ファンの間でも、人民元は知る人ぞ知る隠れた人気を博している。2021年はドル/円以上に人民元/円が値上がりしたので、FXでもうけた人もいたはずだ。

<元高とドル債務返済問題の関係>

第2に、そのような為替需給環境の変化を反映して自然体で発生している元高圧力を、中国の為替政策を所管するPBOCがある程度容認している可能性が高い。

周知のように、中国政府は為替変動をまだ完全には自由化しておらず、複数の通貨バスケットの動きを参考にした管理フロート制でコントロールしている。当局が人民元高を是認しないと人民元の値上がりは起きない。

PBOCの為替政策に変化が感じられたのは2021年夏場からだ。それまでPBOCが最も重視して制御しているドル/人民元は、国際決済銀行(BIS)が公表している貿易額加重平均のドル実効為替指数と概ね同じ方向に動いていた。

だが、夏ごろを境に逆行し始め、他通貨市場でドルの全面高が進む中でもドル/人民元市場では、ドル安・元高が進む様子が観測された。

PBOCの為替政策の運用が、なぜ、そのように変化したのか。例によって当局の説明は一切無いので分からない。

ただ、昨年1月に発足した米国のバイデン政権は政治、経済、軍事、人権など、様々な分野で中国との対立色を強めており、夏ごろからはトランプ政権から引き継いだ第1段階の通商合意の検証も含めた対中協議再開の意向も示していた。

これまで中国政府は、国内統治のあり方や領土問題など「核心的利益」と位置付けた分野では諸外国の要求を拒絶、一切妥協しない態度を貫いている。

しかし、経済的な利益が絡む通商や為替などの分野では、利害得失を冷静に判断して柔軟かつプラグマティックな対応を示して来た。

2021年に入って米国の対中貿易赤字は再び膨張の兆しを見せ始めており、コロナ不況による輸入抑制の影響が薄れる今年は、再び過去最大記録を更新しそうな情勢だ。米国との摩擦の火種をこれ以上増やしたくないという政府の意向も考慮して、PBOCがある程度の元高を許容している可能性はあるだろう。

加えて、昨年夏には中国で不動産開発を手掛ける大手企業グループの債務問題が表面化した。複数の企業によるドル建て債務の利払いが滞っているようであり、欧米系の格付け会社が当該企業のドル建て債務に対して、部分的なデフォルトと認定するなどの騒ぎも起きている。

中国企業が抱えるドル建て債務の問題については、昨年表面化したもケース以外にも、まだ隠れた案件があるのではないかとの疑心暗鬼もくすぶっている。そのような市場の不安を抑えて問題の広がりを防ぐには、中国企業のドル建て債務の返済負担を軽くするドル安・元高は歓迎すべき面もある。

中国の貿易黒字が過去最大規模にまで膨張する様子が確認されている中、中国当局が輸出競争力の保全に役立つ人民元安のメリットよりも、国内企業のドル建て債務返済負担の軽減に役立つ元高のメリットの方を一時的に重視する方針に転じた可能性もあるだろう。

<1ドル=6.0元が注目点>

いずれにしろ、これまで続いていた米ドル実効為替指数とドル人民元の連動性が昨年夏を境に消滅し、その後はむしろ逆向きに動くようになったという事実は厳然としている。PBOCが「何らかの理由」で為替政策の運用方針を見直し、そのころから元高容認に傾いたという仮説は恐らく間違っていないだろう。

PBOCの為替政策の詳細な仕組みは不明であり、過去数十年の間に突然変更された経緯が数多くあるので、外側からの観察を余儀なくされている我々が、合理的に先行きを予想するのは困難だ。

PBOCは昨年6月と12月、金融機関の外貨預金準備率を引き上げて急激な元高の進行に対してけん制球を投げたりもしているが、あくまで元高のスピード調整だとみる向きが多い。

ただ、本稿で示した筆者の推論が大筋において的を射ていた場合、昨年に続いて今年も中国の貿易黒字が歴史的な膨張を続ける中で米国との通商協議が再開され、中国企業のドル建て債務の返済問題が注目され続けるならば、当局による元高容認がまだしばらく続く可能性がある。

その場合、PBOCが現行の管理フロート制の基礎となる仕組みを採用して弾力運用を始めた2010年6月以降に観測された「元高容認の天井」だった1ドル=6.0元の壁の取り扱いが変わるか否か、注目される局面が訪れるかもしれない。

昨年、意外な世界最強通貨の座に君臨した人民元の動きから、今年も目を離せない状況が続くだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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