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コラム:次の円高は1年以上先、3つの要素は円安示唆 140円台も=植野大作氏

[東京 29日] - ドル高・円安が勢いを増している。6月22日の東京市場では一時136円71銭と1998年10月以来、約23年8カ月ぶりの高値圏まで買い進まれた。

 ドル高・円安が勢いを増している。6月22日の東京市場では一時136円71銭と1998年10月以来、約23年8カ月ぶりの高値圏まで買い進まれた。16日撮影(2022年 ロイター/Florence Lo)

3月に記録した直近安値の114円65銭から、約3カ月で22円06銭もの高騰だ。この間、ドル/円の週足陽線の出現確率は、7割6分5厘にも達している。近年に類例をみない速度と値幅でドル高・円安が進んでいる。

この先もしばらくの間、ドル/円は歴史的な高値圏での上値試しを続けるだろう。為替予想の三大要素は「テクニカル」、「ファンダメンタルズ」、「需給」だが、現在はそのいずれもがドル高・円安局面継続を示唆しているからだ。

<強化された52週移動平均線の右肩上がり>

まず、テクニカル面では、3カ月間で22円06銭ものドル高・円安貯金を荒稼ぎしてしまったことで、筆者がドル/円相場の「骨太のトレンド」を判定する際に最も重視している52週移動平均線の右肩上がりの傾向が一段と強化された。

「過去1年間で稼いだドル高・円安貯金を全て吐き出すまで、右肩下がりに転じない」という52週線の性質を考慮すると、仮に今後何らかの「円高ショック」に見舞われて巡航高度が130円前後まで下がっても、来年の春過ぎまでは52週線の右肩上がりの傾斜はビクともしないで下値サポートの底上げが続く。

昨年1月安値の102円59銭を大底にして現在のドル高・円安トレンドが始まってから、まだ17カ月しか経っていない。過去5回のドル高・円安局面の平均寿命は31.2カ月であり、まだ、あと1年近くは右肩上がりの傾向を維持する可能性がありそうだ。

ファンダメンタルズ面からみても、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米国は通常の利上げ幅0.25%の「3倍速」に相当する0.75%刻みの利上げを断行した。同時に公表されたFOMC参加者による政策金利の未来予想図では、2023年末の中央値予想が3.75%まで大幅に上方修正されていた。

現在、米国の消費者物価(CPI)上昇率は、5月分の総合指数で前年比8.6%、エネルギーと食品を除いたコア指数でも同6.0%と今世紀最高レベルに跳ね上がっている。「高過ぎるインフレの抑え込み」に本腰を入れ始めた米連邦準備理事会(FRB)は、この夏以降も「2倍速」や「3倍速」で利上げしてきそうな気配が濃厚だ。

<利上げが難しい日銀>

一方、日銀の黒田東彦総裁は、現在日本で起きている2%超の物価上昇は、資源高によるコストプッシュ型のインフレであり、政府と日銀が目指している安定的な賃上げを伴う2%の目標達成ではないことを理由に挙げて、短期金利をマイナス0.1%に固定、長期金利を0.25%以下に抑える現在の低金利政策を続ける続ける姿勢を崩していない。

実際、日銀が円安阻止の利上げに動こうとしても、米国並みの超速利上げについていけるほどの基礎体力が現在の日本経済に備わっているとは思えない。日銀が長短金利の操作目標を上げると住宅ローンの金利が上がったり、中小企業の資金繰りが苦しくなったりして、コロナからの病み上がりの経済に悪影響が及ぶリスクがある。

政府・与党が選挙前になると経済対策をバンバン打てるのも、日銀が国債の金利を歴史的な低水準に抑えているからだ。先進国では異例の名目国内総生産(GDP)の2.5倍超にまで積み上がっている日本政府の借金の大きさを加味すると、日銀が米国並みの大幅利上げに踏み切ったら、財政の持続可能性に対する疑念が台頭する可能性もある。

そのような状況下で今後、FRBが本当に3%台後半まで利上げすると、米ドルは日本人からみて異次元の高金利通貨としての存在感を高めそうだ。現在、米国以外の主要国も軒並みインフレ抑止の利上げに動いており、特に欧州の国や地域ではユーロ圏、スイス、デンマークのマイナス金利3兄弟が今年の秋にはプラス金利の国に戻る可能性が高い。

その場合、世界でただ独り、マイナス金利政策を続ける日本の姿が為替市場で際立ちそうだ。これまで同様、ドル/円だけでなくクロス円も巻き込んだ円売りの相手探しの循環物色が、今後もグルグル回り続けるのではなかろうか。

<需給で見た円売りの強さ>

為替需給の面からみても、現在のように長期トレンドが明確な上向き傾向を維持している局面では、順張りの傾向が強い海外短期筋は、引き続きドル買い・円売りのポジションをキープしながら押し目を拾ってきそうだ。米国の利上げによって「ドル/円」通貨ペアの買いスワップの魅力が増して売りスワップの負担が上がると、日本のFXトレード愛好者のポジション比率も、昔のように安定的なドルロングの状態に戻る可能性がある。

また、FRBが自らの見通し通りに政策金利を3.75%前後まで引き上げたなら、ドル・キャッシュの短期ファンディング・コストも急騰、為替スワップ市場におけるドル/円の為替ヘッジコストは4%近くまで上がる可能性がある。 

円債投資の代替としてのヘッジ付き米国債投資は事実上、ワークしなくなるだろう。米国の長期金利が一段と上がって価格が下がれば、過剰ヘッジの解消に伴うドル買い圧力も高まりそうであり、ドル/円に押し目ができれば為替オープンの外債投資も検討されることになるのではないか。

加えて、最近はウクライナ戦時下で一段と進む資源価格高騰のあおりを受けて、日本の貿易収支の赤字が膨らんでいる。今月発表された5月の貿易統計では季節調整済みの赤字額が消費増税前の駆け込み輸入で2.1兆円に拡大した2014年3月に次ぐ1.9兆円を計上していたことが明らかになった。

日本が海外からの輸入に頼る食料、燃料、金属などの必需物資は世界の基軸通貨・ドルで取引される割合が高い。このため、どんなにドル高・円安が進んでも、国内の輸入企業は「マーケットの言い値」でドルを買い続ける以外の選択肢を持たない。過去最大規模に膨れ上がっている「実需のドル不足」がドル/円の下を固めて上値を軽くする働きを一段と強めている。

<135円は通過点か>

為替需給の三大要素を構成する「投機」、「投資」、「実需」の各分野では、いずれもまだしばらくの間はドル高・円安圧力優位の状況が続きそうだ。本稿で示した筆者の見立てが正鵠を射ていて、まだ、これから1年間くらいはドル高・円安局面の日柄が残っているとの判断が誤っていなければ、1ドル=135円は通過点になる可能性が高い。

「今後、米国経済が腰折れしてFRBの利上げ計画がキャンセルされる」、「悪い円安論に気圧された日銀が黒田総裁の任期満了を待たずに利上げ局面に移行する」などのリスク・シナリオがさく裂しない限り、今のドル高・円安局面におけるザラ場のトップ・レベルでは140円超の空中戦を見る可能性もあるだろう。

もちろん、過去のドル/円相場は循環を繰り返しているので、現在のドル高・円安局面も将来どこかで終わりを迎えるだろう。ただ、今のところ、「テクニカル」も「ファンダメ」も「需給」もドル高・円安推しの局面が続いている。

日銀が今の政策を続ける限り、米国で利上げのピークが見えてくる頃まで、ドル/円の上値試しは続きそうだ。次の円高サイクルが来るのは、1年以上先とみておきたい。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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