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コラム:今年の注目通貨は人民元、ドル安の受け皿に=植野大作氏

[東京 4日] - 年明けの外国為替市場で中国人民元(CNY)が堅調に推移している。1月3日の上海市場では一時1ドル=6.8762元と昨年8月31日以来、約4カ月ぶりの水準までドル安・元高が進む場面があった。昨年11月1日に記録した14年11カ月ぶり安値の7.3274元から、わずか約2カ月で6.2%ものドル安・元高が進んでいる。

 年明けの外国為替市場で中国人民元(CNY)が堅調に推移している。1月3日の上海市場では一時1ドル=6.8762元と昨年8月31日以来、約4カ月ぶりの水準までドル安・元高が進む場面があった。植野大作氏のコラム。2022年9月撮影(2023年 ロイター/Florence Lo)

ほぼ同じ時期に、オフショア市場で取引されている人民元(CNH)の上昇も目立っている。昨年10月25日高値の7.3749元から1月3日安値の6.8790元に至るまで、約10週間で6.7%とさらに激しくドル安・元高に振れる様子が目撃されている。

<元反転のきっかけ、ゼロコロナ政策の修正>

人民元反発のきっかけになったのは、コロナ政策の大転換だ。昨年秋まで中国当局は新型コロナ感染症の拡大を徹底的に封じ込める「ゼロ・コロナ政策」に固執、西側諸国でコロナ規制が軒並み緩和、撤廃される中でも非常に厳しい行動制限や人流制限を続けていた。

このため米国を含めた西側主要国が軒並みインフレ退治を目指して金融引き締めに動く中でも、中国人民銀行(PBOC)は景気の下振れを阻止するための金融緩和を強化せざるを得ない状況が続いていた。米国と中国の間で鮮明になる景況格差や金融政策の方向性の違いが、ドル高・人民元安進行の原動力になっていた。

ただ、昨年11月のサッカーワールドカップ開催期間中に、中国政府のコロナ規制に対する激しい抗議デモが国内各地で頻発。感染力の強い変異型ウイルスの市中感染を抑え切れなくなったとみられ、中国当局は厳しいコロナ規制を一気に緩和する方針に突然かじを切った。

この結果、これまで中国国内で抑圧されていた各種の経済活動が再開されることで、中国経済が復調に向かうとの期待が高まっている。

<ピーク近い米引き締め>

一方、米国では昨年の春から猛烈な勢いで進んでいた超速利上げが最終局面に差し掛かかり、間もなく政策金利が最高到着点(ターミナルレート)に達して打ち止めになるとみる向きが増えている。

そのような状況下、このところの外国為替市場関係者の間では、昨年秋まで進んでいた歴史的なドル高・元安の基本的な背景になっていた米中間の景況格差が今後は縮小し、政策金利差の拡大に歯止めが掛かるとの期待が台頭。人民元相場の失地回復が進んでいる。

昨年の秋から始まったドル安・元高の流れは、今年も緩やかに進むだろう。途中に多少の曲折はあっても、今年末には心理的節目の1ドル=6.5元よりもやや元高の水準で越年を迎えるのではないか。以下、そのように考えている理由を4つ挙げておく。

<ドル安進みやすい環境>

第1に、昨年秋まで進んでいたドル高・元安は、米国の金融引き締めの影響を強く受けていた。昨年2月のロシア・ウクライナ戦争勃発後に上振れしたインフレ退治を目的に米連邦準備理事会(FRB)が超速利上げを進めていた間、米ドルはほぼ全面高で「世界最強通貨」の様相を呈していた。

ただ、昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で更新された最新の見通しによれば、米国の利上げは今年中には5%を少し超えたあたりで打ち止めになり、来年からは利下げ局面に転じる可能性が示唆されていた。今後、通常の政策金利変更幅である0.25%刻みなら3回で到達する水準なので、早ければ今年の春には打ち止めになりそうだ。

もちろん、その場合でも今後数カ月間は米国の利上げが続きそうなので、このまま一本調子でドル安・元高は進まず、いったんはドル高・元安方向への揺り戻しがあるかもしれない。

ただ、外国為替市場は先読み好きな参加者の集まりだ。FRBの見立て通り、今年の春頃に利上げが停止されたなら、その後どこかで始まる米国の利下げによる米金利の先安観をテーマにしたドル安が進むことで、人民元高が進むだろう。

<コロナ規制緩和への期待感>

第2に、中国側の状況に目を転じると、今のところ、昨年秋までのゼロ・コロナ政策の後遺症が残っているので経済指標の結果はさえず、唐突なコロナ規制の緩和が感染者の急増を招いて短期的には景気下振れ懸念も出ている。

ただ、コロナ感染が峠を越えれば行動規制の緩和による景気浮揚効果が徐々に現れ、中国経済は緩やかな回復に向かう可能性が高い。

今後、既往の金融引き締めの影響によって米景気に減速の兆候が表れる中、ウィズ・コロナ政策にかじを切った中国当局は、今年1月下旬の春節や3月の全国人民代表大会後には、一段のコロナ規制の緩和を進めそうだ。中国景気のさらなる復調観測が、人民元の失地回復を促すだろう。

<膨張する中国の貿易黒字>

第3に、中国の貿易黒字が足元で過去最大を記録している。季節的な変動を除去した12カ月移動平均値でみると、昨年11月時点では4914億元と過去最大の黒字を記録していた。年率換算ではその12倍の約5.9兆元と、当該期間中の為替レートで円に換算すると約114兆円に相当する。日本の来年度の一般会計歳出総額に匹敵する金額なので、いかに大きいかが想像できるだろう。

ロシア・ウクライナ戦時下で引き起こされた資源高の逆風を受けても拡大し続ける中国の貿易黒字は、1ドル=7元前後の為替水準なら、中国企業が十分な国際競争力を発揮できる割安な水準で現在の人民元が取引されていることを示唆している。

為替需給の面からみても、中国の貿易黒字は実需決済に由来する為替フローが恒常的な元買い超過に傾いていることを示唆している。元安局面での下値を支えるクッションになる一方、元高局面での上振れ幅を広げるスパイスのような役割を果たすことになりそうだ。

<米中経済摩擦の行方>

第4に、米国側の貿易収支をみると、間もなく対中赤字が年間の最大記録を更新しそうだ。米国の商務省が発表している対中貿易赤字額をみると、昨年上期の実績が季節調整済みの年率換算で約4248億ドルとこれまで最大だった2018年の4173億ドルを凌駕する勢いで増えている。

現在、米国では与野党を問わず対中強硬論が強まっているが、対中貿易赤字が過去最大を更新すると通商摩擦が激化する可能性がある。来年の米大統領・議会選挙を見据えて米国内で元安是正要求が強まるリスクに要注意だ。

かつて昭和末期から平成初期にかけて激化した日米貿易摩擦が、米国による円安是正要求に飛び火したのと良く似た現象が起きるかもしれない。

もちろん、中国企業の輸出競争力を著しく阻害する人民元高の進行は、管理フロート制の実務を所管しているPBOCが阻止することになるだろう。ただ、中国政府としても対米摩擦の火種をこれ以上増やさないため、ある程度の元高は許容するのではないか。

実際、現在の管理フロート制の弾力運用を始めた2010年6月以降、PBOCが許容した元高の天井は1ドル=6.0元台だったので、まだ十分な余地がある。PBOCの許容範囲内で元高が進む分には、中国企業のドル建て債務の返済負担を軽くするというメリットもあるので受け入れやすいだろう。

以上の諸点を加味した上で、筆者は今年、緩やかな元高が進むと予想している。今年の春頃に米国の政策金利が頂点に達した後は、米景気の減速をテーマにしたドル安が進む可能性が高いが、ウィズコロナ政策にかじを切った中国人民元は、ドル安圧力の有力な受け皿の1つになりそうだ。今年注目すべき通貨ペアとして、「ドル人民元」を挙げておきたい。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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