July 15, 2020 / 5:54 AM / a month ago

コラム:コロナ禍で強さ増すユーロ、長期上昇へ地固めか=植野大作氏

[東京 15日] - ユーロドルが底堅い。「コロナ・パニック」の荒波に呑まれて乱高下した3月下旬、「有事のドル買い」が加速すると一時1.06ドル台まで急落する場面があったが、その後は断続的に買い戻され、現在は1.14ドル台で取引されている。

 7月15日、ユーロドルが底堅い。「コロナ・パニック」の荒波に呑まれて乱高下した3月下旬、「有事のドル買い」が加速すると一時1.06ドル台まで急落する場面があったが、その後は断続的に買い戻され、現在は1.14ドル台で取引されている。写真は欧州の地図をバックにしたユーロ硬貨。2015年5月、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのゼニツァで撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

ユーロ円もしっかりしている。5月初旬の大型連休中に日本人投資家の隙を狙った怪しげな円買い投機の噂が広がると一時114円台まで差し込む一幕もあったが、心理的節目の115円を割り込むゾーンでの滞空時間は累計約33時間で反発。その後は乱高下しながら下値を切り上げ、最近は122円台に復帰する場面も観測されている。

<アナリスト泣かせの先行き判断>

1999年1月に欧州11カ国が参加してスタートした単一通貨ユーロは、その後も南欧や東欧からの加盟国が増え、今は19カ国で構成されている。それぞれに異なる加盟各国から頻繁に飛び込んでくる朗報や悪報が相場を揺さぶるため、昔からユーロは予想が難しい「アナリスト泣かせ」の通貨として定評がある。

そうした事情もあってか、現在もユーロの先行きについては、「強気派」、「弱気派」、「中立派」の意見が入り乱れている。ただ、筆者は中長期の視点に立脚して、ユーロの将来については強気の見方を採用している。以下、理由を4つ示しておく。

<「追加利下げ」の余地は少ない>

第1に、新型コロナ対応の金融緩和で英語圏の主要国の政策金利が一気に下がった。現在、米国は0.0─0.25%、英国は0.1%、カナダとオーストラリアは0.25%と、いずれも過去最低の水準まで引き下げられている。

この結果、マイナス金利の導入と深掘りで先行していたユーロ圏とその他各国の金利差が急速に縮まり、ユーロの金利の低さが以前ほどは目立たなくなった。現在、ユーロの政策金利はマイナス0.5%と日本より低いので金利面の魅力は乏しいが、さすがに一段の利下げに動く余地はほぼなくなっている。

したがって、今後ユーロが「追加利下げ観測」をテーマに売られる可能性は低い。将来どこかで新型コロナウイルスの問題が収束し、各国の金融政策が正常化に向かう時期がくれば、ユーロ圏は現在の金利水準が低い分だけ、利上げ余地の大きさが意識されることになるだろう。

<「復興資金」は財政統合への布石に>

第2に、「戦後最悪」と称されるコロナ不況の克服を目指し、ユーロ圏はこれまで各国ばらばらだった財政の統合に向け歴史的な一歩を踏み出そうとしている。欧州委員会は5月27日、欧州連合(EU)加盟国への供与5000億ユーロ(約61兆2100億円)、融資2500億ユーロからなる「復興基金」の創設を提案した。イニシアチブをとったのは、ユーロ圏で経済規模が1位のドイツと2位のフランスだ。

「復興基金」の創設により、事実上の「EU共同債」の発行が実現すれば、加盟国による一時的な債務の共有や国境をまたぐ財政移転が起きる。これまでユーロ圏になかった財政面での連帯感が醸成されるだろう。

1999年のユーロ発足以来、「通貨と金融政策だけ一緒にしても、財政がバラバラのままでは経済危機のたびに南北格差が広がり、同一通貨圏としての一体感が保てなくなる」という構造的な問題が常に指摘されてきた。

欧州委員会による「復興基金」創設の提案は、そうしたユーロの構造的な弱点を補強する初の試みだ。提案の一部に対し、オーストリア、オランダ、スウェーデン、デンマークの4カ国が反対しているため、今週末に開催される欧州連合首脳会議(EUサミット)で早期の妥協が成立する可能性は低い。だが、域内の2大経済強国であるドイツとフランスの提案なので、完全否定はないだろう。

ちなみに、今月からドイツがEUの議長国を務めている。これまで周りの国からどれほど要請されても財政出動には極めて慎重だったドイツは、今月から付加価値税率の一時引き下げを含む1300億ユーロの大型景気対策に踏み切り、自国の財布のひもも緩める姿勢を示している。

欧州の国々を苦しめている戦後最悪のコロナ不況を放置しておくと、ユーロに加盟している経済的な弱小国においてゆがんだナショナリズムの台頭を招きかねない。未知の感染症との戦いが、ドイツの財政出動のみならず、EUの財政統合をも促す結果に結び付いたなら、まさに「雨降って地固まる」の格言通りの展開になる。メルケル独首相の引退の花道を飾る偉大な業績は、後世の史家からも高い評価を得ることになるだろう。

<国際収支、まるで「昭和の日本」>

ユーロの先行きに強気となる第3の理由は、ユーロ圏の国際収支の構造が近年目覚ましく改善している点だ。ユーロ圏全体の経常収支の動きをみると、1999年の通貨発足から10年以上は小規模な赤字と黒字が交互に現われ、どっちつかずの状態だったが、2012年頃を境に安定的な黒字基調に転換、近年では年4000億ユーロ前後と、通貨発足以来の水準に拡大しているのが印象的だ。

その内訳をみると、主力の貿易黒字が過去約8年間でどんどん膨らんで3000億ユーロ台に達しているほか、サービス収支も小幅ながらずっと黒字の状態をキープし、対外純資産残高の積み上りを背景に海外からの利息や配当の受け取り超過で稼ぐ黒字も地味に増え続けている。

現在、日本は1ドル=110円前後の為替でも貿易収支の黒字がほぼ消滅、海外からの利息や配当でしか安定的な黒字を稼げない体質の国になっているが、ユーロ圏は今の為替水準なら第二次所得収支以外の全ての項目で恒常的な黒字を稼げる力がある。ユーロ圏の国際収支の構造をみると、まるで「昭和の日本」をみているようだ。

ユーロ圏が稼ぐ巨額の貿易黒字を背景に広がっている「片道切符」の外貨売り・ユーロ買い需要は、通貨価値の下落局面で下値を支える「縁の下の力持ち」になる一方、通貨価値が上昇に転じる局面では、かつての日本がそうだったように、ユーロ高圧力を増幅するスパイスになるはずだ。

<ユーロ割安論が広がる可能性も>

第4に、ユーロ圏の貿易黒字の膨張は、今のユーロが割安であることを示唆している。実際、ユーロが発足した1999年1月を基準にした欧米間の消費者物価上昇率格差で試算されるユーロドルの購買力平価は、今年の5月時点で1ユーロ=1.27ドル前後だ。現在取引されている1ユーロ=1.14ドル台は、その水準からまだ1割程度も安い状態にある。

ちなみに、ユーロドルの購買力平価を域内最大級の貿易黒字を稼いでいるドイツの物価を基準に試算すると、1ユーロ=1.32ドルと19カ国の平均よりさらに高くなる。現在のユーロドルの水準は、ドイツにとっては相当有利な競争条件を提供しているとみられる。今後、ドイツを中心にユーロ圏の貿易黒字が一段と増えるなら、ユーロ割安論が市場に浸透していくだろう。

以上の点を加味すると、今後長い目で見てユーロの価値は上昇していく可能性を秘めている。5月中旬以降に加速したユーロドル、ユーロ円の上昇はかなり急だったため、短期的にはスピード調整もあり得るが、大勢としてはどちらも「右肩上がり」の傾向が続くのではなかろうか。

近年の為替市場ではドルと円の同調性が強まっている。このため、今後長い時間をかけてユーロドルの割安修正が進んで購買力平価が示す1.25─1.30ドル辺りの水準までユーロ高・ドル安が進む局面ではユーロ高・円安も同時に進みやすいだろう。

欧州における新型コロナの感染がいずれ収束に向かうことを前提に、今年の年末頃には1ユーロ=125円前後が視野に入ってくるだろう。一段の割安修正が進む2021年以降になると、心理的節目の1ユーロ=130円台を試す可能性もあると考えている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

植野大作氏

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

(編集:北松克朗)

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