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コラム:商品価格上昇や金融正常化が追い風の加ドル、豪ドルと2強通貨に=植野大作氏

[東京 15日] - カナダドル/円が強い。6月1日の北米市場では一時91円19銭と2018年1月以来、約3年4カ月ぶりの高値圏まで買い進まれた。昨年3月のコロナパニック時に刻んだ9年5カ月ぶり安値の73円82銭から、約15カ月で2割を超える値上がりだ。

 カナダドル/円が強い。6月1日の北米市場では一時91円19銭と2018年1月以来、約3年4カ月ぶりの高値圏まで買い進まれた。植野大作氏のコラム。カナダ・トロントで2015年1月撮影(2021年 ロイター/Mark Blinch)

その後は、上昇の勢いにブレーキがかかったが、心理的節目の90円付近では底堅く推移。これまでの強気相場で稼いだ「カナダドル高の貯金」は、まだ潤沢に残っている。

このため、筆者がトレンド判定の際に重視している13週、26週、52週の移動平均線は依然として明確な右肩上がりの形状をキープしている。短・中・長期のトレンド線が三層構造のバックストップになって下値をサポートしており、すぐに値崩れしそうなチャートにはみえない。

<ポストコロナの商品高>

この間に観測されたカナダドル高の原動力になったのは、国際商品市況の高騰だ。現在、新型コロナのワクチン普及を追い風に世界経済は急速な回復局面を迎えており、代表的な国際商品19品目の総合指数であるリフィニティブ/コアコモディティCRB指数は6月11日には一時212.508と2015年7月以来、約5年11カ月ぶりの高値圏まで値上がりしている。

北米でシェールオイルの採掘に必要な技術開発が進み、カナダ西部の地下深くに眠っていた石油成分を含んだ有機物である瀝青(れきせい)の莫大な埋蔵量が注目され始めた頃から、カナダドルは産油国通貨としての存在感を高めてきた。ただ、北米でシェール開発ブームが起きる前からカナダはエネルギー資源、産業用金属、建築用木材、穀物、食肉など、広範な天然資源や農林畜産物の輸出大国だった。

このため、カナダドルの値動きは対米ドル、対円ともにCRB商品指数との連動性が非常に強い。改めて指摘するまでもないが、日本は天然資源や農林畜産物の輸入大国であり、国際商品市況が高騰する時期にカナダドルが買われて円が売られるのは極めて自然な市場反応だ。

また、資源価格の高騰は、カナダ経済の交易条件の改善効果を通じて、通貨の先高観を助長する働きもある。実際、カナダ政府が月次で公表している実質経済成長率は、CRB商品指数の前年同月比に数カ月程度遅れて概ね連動する傾向がある。最近の国際商品市況の高騰は、主要7カ国(G7)の中で最強の資源輸出大国であるカナダ経済にとって、強力な追い風になっている。

カナダ国内の経済状況に目を転じても、英オックスフォード大学が公表している新型コロナのワクチン接種割合が6月11日時点で既に総人口の64%台に達しており、G7諸国で先行していた英国や米国を抜き去って現在トップに躍り出ている。カナダ経済を取り巻く環境は、内外ともに急速に改善しているのが実情だ。

<金融正常化でも先頭走る>

このような状況下、カナダでは新型コロナの危機対応で導入された金融緩和の正常化プロセスが既に動き始めている。今年4月の定例会合でカナダ中銀(BOC)は、それまで毎週40億カナダドルの規模で行っていた国債の買い入れを30億カナダドルに減額することを決定、量的緩和の段階的縮小が4月26日からスタートしている。

BOCが「実効下限」と表現している現行0.25%の政策金利を維持する期間についても、4月に公表された経済見通しでは、「経済のたるみ」が解消される時期が1月時点の「2023年中」から「2022年後半」に修正されていた。このため、大方の市場関係者は利上げ想定時期の前倒しだと受け止めている。好転するカナダ経済見通しを背景に、BOCが主要国における金融政策の正常化レースの先頭を走っており、カナダドルの先高観を助長している。

以上の諸点を勘案すると、今後もしばらくの間、カナダドル/円は堅調に推移しそうだ。今年の早春から初夏にかけて観測された急激な値上がりは、やや一方的に進み過ぎたきらいもあるため、この先どこかでスピード調整を促す自律反落が起きるかもしれない。ただ、世界各国で新型コロナのワクチン接種が進んでグローバルな景気回復期待が強まる中、国際商品市況の急落に巻き込まれてカナダドル/円が下落基調に転じるリスクは小さい。

BOCのマックレム総裁は、金融政策の正常化に関する先行き指針について、あらかじめ想定すべき「特定の時期」を示すつもりはなく、あくまでも今後の経済状況に応じて柔軟に見直す姿勢で臨んでいる。主要国トップに躍り出ているカナダのワクチン接種割合は間もなく集団免疫獲得のめどと言われる全国民の7割を超えそうであり、カナダの経済見通しが一段と改善すれば、「経済のたるみ」が解消される時期が2022年の中頃や前半に前倒しされるかもしれない。

<豪ドルとのリスク分散>

テクニカル的にみると、現在カナダドル/円は2017年9月と18年1月に記録した91円60銭台のダブルトップ目前の水準まで浮上している。カナダドルとの連動性が強いCRB商品指数がこの先も一段と上昇、カナダ国内でのワクチン普及の追い風も受けてBOCの経済見通しがさらに改善した場合、上記の節目を突破して90円台の後半が視野に入る可能性もあるだろう。

もちろん、人類が直面している新型コロナとの戦いに予断を持つのは禁物だ。想像以上に厄介な相手でワクチンの効果を無力化するような変異を繰り返して世界経済が二番底への失速を余儀なくされる場合、思わぬカナダドル安ショックに見舞われるかもしれない。

ただ、より長期的な視点に立った場合、日本は先進国で食料自給率が最も低いと言われ、エネルギーや金属などの天然資源の多くを海外からの輸入に依存して経済活動を営んでいるのが実情だ。資源を持たざる国の住人が資源輸出国の通貨に投資するのは、国際的なリスク分散の観点で理にかなっている。

かつて先進国間で北半球と南半球の金利に大きな差があった頃は、カナダドルの長短金利の水準は豪ドルに比べて圧倒的に低かった。このため、我々日本人が外貨建ての金融商品を通じて資源国へのリスク分散投資に臨む場合、主な受け皿になるのは豪ドルという時代が長く続いた。

だが、現在は主要通貨圏における南北の金利格差がほぼ消滅し、短期政策金利の水準はカナダが0.25%、オーストラリアが0.1%とカナダの方がわずかに高い。満期10年近くの国債利回りでみた長期金利の水準を比べても、お互い1%台半ばでほとんど差が無くなっている。

両国の中央銀行が掲げる物価目標を比較すると、カナダは2%が中心だが、オーストラリアは2.0%─3.0%と高めに設定されている。このため、新型コロナ不況を克服するために導入した金融緩和の出口レースでは、既に資産買い入れの減額に動き始めているカナダが、オーストラリアとの差を一段と広げる可能性もある。

これまで豪ドル建ての金融商品に集中し過ぎていたきらいがある我々日本人の資源国通貨への分散投資の対象は、今後カナダドル建ての商品にも裾野が広がっていく可能性がある。短期的な値上がりの可能性だけに目を奪われるのではなく、長期的なリスク分散の観点から、カナダドルの価格特性に注目していく必要があるだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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