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コラム:資源高進行で買われやすい豪ドル/円、100円トライも=植野大作氏

[東京 18日] - ロシア・ウクライナ戦時下で豪ドル/円が堅調に推移している。3月下旬には一時、94円30銭台と2015年7月以来の高値を記録した。1月下旬に刻んだ年初来安値は80円30銭台だったので、わずか2カ月間で17%を超える値上がりだ。

 4月18日、 ロシア・ウクライナ戦時下で豪ドル/円が堅調に推移している。写真は豪ドル紙幣。2018年2月撮影(ロイター/Daniel Munoz)

その後はようやく頭打ちになり、日本の新会計年度前の利益確定や持ち高調整の売りが入ると下落に転じ、90円70銭台まで軟化する場面もあった。だが、新年度が明けるとすぐに反発し、断続的に94円前後まで買い戻される様子が観測されている。

<豪ドル支える3つの理由>

最近目撃された急騰劇はあまりに激しかったこともあり、心理的節目の95円の手前で伸び悩んでいるが、90円台をキープしながら下値は堅く、約6年8カ月ぶりの高値圏で次の方向を模索中だ。果たして今後、豪ドル/円は上下どちらに向かうのだろうか。

この先もしばらくの間、豪ドル/円は、堅調に推移するだろう。動くと早い通貨ペアなので、何かの拍子に勢いづいたら短期間で数円程度の上下動はありそうだが、基本的には「下値が堅く、上値が軽い」地合いが続きそうだ。そのように考えている理由は3つある。

<ウクライナ戦争が国際商品市況押し上げ>

第1に、ウクライナとロシアの戦争長期化による供給懸念を背景に、燃料、農林畜産物、金属材料などの市況が軒並み高騰し、資源輸出大国の通貨である豪ドルに強い追い風が吹いている。

豪州準備銀行(RBA)が公表している同国からの国際商品輸出価格の加重平均値である「RBA商品指数」は、3月に151.9と過去最高を更新した。歴史的な資源高の恩恵を受けて、豪州の貿易黒字は過去最大記録を更新中だ。かつては経常収支の万年赤字国だった豪州は、近年では安定的な黒字国に急変している。

日本側の貿易統計で確認すると、昨年の日本の貿易赤字相手国・地域のトップ5は、1位が豪州で約4.1兆円だった。以下、2位のサウジアラビアが2.5兆円、3位の中国が2.4兆円、4位のアラブ首長国連邦(UAE)が2.2兆円、5位の欧州連合(EU)が1.8兆円となっている。豪州が他を大きく引き離し目立っていたのが印象的だ。

輸出入の決済に伴って発生している実需の為替フローは、豪ドルの下落局面では下値を支える「縁の下の力持ち」になる一方、上昇局面では上値追いを助長するスパイスのような働きをしていると考えられる。

<RBAに利上げ期待>

第2に、資源高の追い風を受けて豪州景気の回復が続く中、RBAによる利上げ期待が強まっている。2020年初頭のコロナ・パニックの荒波に飲み込まれ、2019年末まで28年間も続いていた奇跡の景気拡大記録は途切れたが、その後、すぐに豪州経済はV字回復を果たし、約1年後には実質国内総生産(GDP)の水準もコロナ前の水準に復帰した。

そのような状況下、RBAが金融政策運営に際して重視している消費者物価の刈込み平均インフレ率は、昨年末に政策目標(2─3%)圏内の前年比2.6%まで上昇している。2021年秋からRBAは金融政策の正常化を加速させており、昨年11月の理事会で満期3年程度の国債金利を翌日物政策金利と同じ0.1%近傍に誘導する金利操作を廃止、今年2月には量的緩和も打ち切って、現在は適切な利上げ開始時期を模索中だ。

4月5日のRBA理事会後に公表した声明文でロウ総裁は、今後の利上げ開始時期に関して「忍耐強く」判断するとの文言を削除していた。豪州の政策金利先物市場では6月ごろからの利上げスタートが織り込まれつつあり、豪ドルの先高観を助長している。

<円に逆風>

第3に、資源輸出大国である豪州に追い風になっている国際商品市況の高騰は、輸入国である日本にとっては非常に厳しい逆風になっている。日本の輸入依存度が高い各種コモディティ価格の値上がりが痛手になり、昨年の夏ごろを境に日本の貿易収支は赤字に転じた。その後、ウクライナ戦時下で進むさらなる資源高により、最近の収支尻は季節調整後の年率換算で10兆円を超える規模まで膨らんでいる。

そのような状況下、日本の消費者物価にも上昇圧力がかかっており、携帯料金引き下げの影響がなくなる4月以降、日銀が政策目標に掲げるコア・インフレ率は2%近辺まで上昇してくるとみられる。

しかし、黒田東彦日銀総裁はコストプッシュ型の物価上昇は日本経済に打撃となり、政府と日銀が目指す安定的な賃金上昇を伴った物価目標の達成とは言えないことを理由に挙げて、現行の超低金利政策を維持する姿勢を崩していない。

現在、日本の円は主要通貨圏では金融緩和の出口までの距離が最も遠い貿易赤字国の通貨となっており「売られる理由」を探すのはとても簡単だが、「買われる理由」を見つけるのが非常に難しい状態にある。

以上の3つの理由から、この先も豪ドル/円は年初来高値圏をキープしながら堅調に推移しそうだ。心理的に重要な節目にある1豪ドル=95円付近のレジスタンスを突破して勢いがついたなら、2014年12月以来となる100円超えを試しに行く可能性もあるだろう。

<リスクはFRBの「オーバーキル」>

ただし、さすがにそのあたりまで買い進まれると一段の上値試しには慎重な雰囲気が漂いそうだ。かつて平成時代の豪ドルは、米ドルの何割増しにもなる高金利通貨だったので、国内金利の低さにウンザリしている日本人投資家の高値警戒感をまひさせるほどの強い魅力を備えていた。だが、近年の豪ドルの長期金利は、米ドルより小幅に高い水準まで低下している。

このため、ある程度のレベルまで豪ドル/円の巡航高度が上がってしまうと、上値を追いかけてまで買い続ける日本人投資家は少なくなり「高所恐怖症」になってしまう参加者も出始めるだろう。

今年中のどこかで心理的に重要な節目であることを誰もが認める1豪ドル=100円を8年ぶりに突破した場合、おそらく相当な達成感が広がりそうだ。そこから先の上値余地は限られるのではないか。

もっとも、最近一段と鮮明になっている日豪両国の貿易収支や政策金利の方向性の違いを見るにつけ、近い将来に豪ドル/円が激しく値崩れする姿は想像しにくい。心理的にみて1豪ドル=100円前後は重たい天井になりそうだが、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めのサジ加減を判断ミスして世界経済をけん引する米国景気が失速。その結果として世界同時株安の連鎖や国際商品市況の値崩れを招くような外部環境の激変が起きたりしない限り、豪ドル/円の下値は堅い状況が続くだろう。

今後、何かの拍子に1豪ドル=90円割れの水準に反落することがあったとしても、実需の買いや投資家の押し目待ちの買いなどにサポートされて底堅く推移しそうだ。新年度の豪ドル/円相場は、90円台の巡航高度をキープする可能性が高いとみられる。「高値安定」をメイン・シナリオに据えて売買戦略を構築したい。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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