March 27, 2020 / 7:43 AM / 5 months ago

コラム:「非常時のドル買い」で悲鳴を上げる新興国通貨=唐鎌大輔氏

[東京 27日] - コロナショックが緊張感をもたらす中、為替市場はドル全面高で振り切れた。各国中銀のドル資金供給措置がようやく浸透する中で落ち着きを取り戻しているが、まだ完全に平時とは言い難い状況である。一連の相場つきを「有事のドル買い」と表現するのはやや生ぬるい印象もあり、「非常時のドル買い」とでも言った方がしっくりくるかもしれない。

新型コロナウイルスという非常時にドル高が進んだことで、新興国からの資本流出が懸念される。写真は米ドルやブラジルレアル、トルコリラなどの各国紙幣。2017年5月、ドイツのフランクフルトで撮影(2020年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

危機ムードの進展に伴い市場から流動性が枯渇し(厳密には枯渇することを警戒し)、「とりあえずドル」という取引行動が支配的になった結果である。リーマン・ショック直後の最悪期に見られた現象である。

<08年型のドル高>

ドル相場は歴史的な高値にある。国際決済銀行(BIS)の公表する名目実効為替相場(NEER)で見ると、1994年1月以降で比較可能な60カ国ベースでは3月23日時点が132.56と史上最高だ。

こうしたタイプのドル高は初めてではない。08年4月から09年3月までの約1年間、すなわちリーマン・ショックの前後でも類似の現象が起きている。08年10月のドルのNEERは前月比プラス6.6%という急騰を経験しており、これが過去最大の伸びだった。

しかし、今回はプラス7.2%程度(2月末と3月23日時点を比較)とこれを更新している。現在の為替市場で見られている「ドル高の震度」はリーマン・ショック級といって差し支えない。

ちなみにドル/円相場に限って言えば、08年3月から8月の5カ月間で95円から110円まで押し上げられている。足元で見られている円安・ドル高を過去に例の無い動きであるかのように解説する向きもあるが、今起きている円安は「08年型のドル高」の裏返しと言って良い。当時を振り返れば、09年春以降は米連邦準備理事会(FRB)が怒涛の緩和策を打ち続けたことで激しいドル安に転じた。

もちろん、当時と異なり、今回はFRBの緩和余地がないため、同じことが起きる保証はない。だが、「非常時のドル買い」がいつまでも続くとすれば、それは国際金融情勢が現状のような極限の緊張状態に置かれ続けるということでもある。リーマン・ショック時ですらそのような相場つきは一過性の動きであったことを思えば、揺り戻しには身構えるべきだろう。現に、ドル調達コストの落ち着きと共にドル高もピークアウトし始めている。

<「ドル化する世界」の警鐘>

いずれにせよ、現状でドルはまだ高い。こうした局面では新興国からの資本流出を懸念することになる。例えば国際金融協会(IIF)が「新興国からの資金流出規模が08年のリーマン・ショック時の2倍に達している」と指摘したことは大きく報じられた。

リーマン・ショック後、世界はドル建て債務を膨らませてきた。これは未曾有の緩和局面において安くなったドルを調達しやすい環境があったためでもある。BISのデータを見れば明らかだが、世界の非銀行部門におけるドル建て債務はユーロや円のそれと比較して突出した伸びを示してきた。

より具体的には、先進国よりも新興国で、銀行貸出よりも債券発行という格好で、ドル調達が進んできたこともデータからは透けて見える。そしてこれらの債務積み上げは民間部門の中でも非銀行部門(要するに非金融法人)が中心に進めてきたものであり、対国内総生産(GDP)比で見てもはっきりと増えてきたことが分かっている。文字通り、「ドル化した世界」が新興国を中心として仕上がってきていたと言える。

これは「次の危機の芽」になり得る論点として、常々注目されてきた。FRBは18年に年4回利上げして、19年に3回利下げするという慌ただしい方向転換を行ったが、同時期に新興国中銀の政策運営の方向も同じ軌道を描いてきた。

これは必然である。経済規模対比で大きなドル建て債務を背負っている以上、米国が利下げしている時はドル安・自国通貨高を防ぐために利下げが必要になり、米国が利上げしている時はドル高・自国通貨安による「悪いインフレ」を防ぐために(=通貨防衛のために)利上げが必要になるという実情があった。

さながらFRBが世界の中央銀行のように立ち振る舞う状況である。現在はこうして出来上がった「ドル化する世界」において、「非常時のドル買い」が席巻しており、このあおりで新興国通貨が下落、債務負担の増大が懸念される状況にある。

<「相対的な勝ち組通貨」の条件>

かかる状況下、新興国通貨をどう選別するか。「ドル化する世界」を前提とすれば、対外債務が多そうな国、端的には経常赤字の国が売られやすいはずである。17―18年のドル高局面ではアルゼンチンやトルコが波乱の種となったが、結局のところ、これらの国は経常赤字が大きな国であった。よってまずは対外経済部門の頑健性、つまり経常収支を見るのがセオリーになるが、現状では原油価格の暴落も重なり、それだけでは選別が難しい状況になっている。

これは経常収支と各通貨の騰落率を1つの図表にプロットしてみるとよく分かる。通常はGDPに対する経常赤字が大きくなるほど下落率が大きくなるような関係性を見て取ることができるが、今回はそうとも言い切れない。例えば新興国の中でも経常黒字が大きい部類(プラス5.7%、19年、IMF予測)に入るロシアルーブルが20%以上下落しており、産油国通貨の苦境を象徴している。

産油国ゆえ「経常収支の頑健性」と「通貨の頑健性」がリンクしない例はほかにも散見される。経常赤字がGDP比マイナス1.0%―マイナス1.2%と比較的抑制されているメキシコペソやブラジルレアルも20%を超える暴落となっている。この2通貨は産油国であることに加え、元々政策金利水準が高く、限界的な金利低下余地が大きかったことも災いしていそうだ。もはやそのような通貨は世界的にも稀であり、それだけファンドの資金が流入している通貨でもあった。

一方、非産油国通貨である南アフリカのランドも20%の下落となっているので、やはり「経常収支の頑健性」も重要な要因であることは間違いない。南アフリカの経常赤字はGDP比マイナス3%以上と大きめである。対照的に台湾ドルは0.8%下落と対ドルでほぼ持ち堪えており、これはGDP比プラス11%以上という経常黒字の大きさが寄与した部分があろう。

とはいえ、東南アジアの経常黒字国(タイバーツ、韓国ウォン、マレーシアリンギット)でも軒並み5―10%安と平時であれば大幅と言える下落となっている。結局、「非常時のドル買い」が席巻している中で経常黒字もたいした「お守り」にならないという身も蓋もない現状である。当面は各国中銀によるドル資金供給の効果が浸透するのを待つしかあるまい。

気休め程度ではあるが「非産油国で経常黒字国通貨」の下落率が小さいのも事実であり、そうした条件を備えた上で外貨準備にも恵まれることの多い東南アジア通貨が新興国通貨の中では「相対的な勝ち組」なのは確かだろう。

結局はそうした基本に忠実な通貨選別が当面報われそうだという事実は、この未曾有のコロナショックの中でも大きくは変わらないと考えたい。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

唐鎌大輔氏

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

(編集:橋本浩)

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