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コラム:「金利差なき世界」で光るユーロ買い構造を探る=唐鎌大輔氏

[東京 26日] - 外替市場では7月以降、ドル安の流れが勢いづいた。こうした動きの背景についていろいろな解説があり得るが、筆者は「米財政赤字の未曽有の大きさ」、言い換えれば「ドルの過剰感」ではないかと考えている。

8月26日、外替市場では7月以降、ドル安の流れが勢いづいた。写真はドルとユーロの紙幣。2015年3月撮影(2020年 ロイター/Stoyan Nenov)

本稿執筆時点で今会計年度における米財政赤字の規模は未確定だが、一部報道では目下議論されている追加経済対策の規模を約3兆ドルと見込んで、総額で国内総生産(GDP)比30%(金額にして約6兆ドル)に及ぶのではないかとの観測も出ている。また、新型コロナウイルスの感染拡大防止において、トランプ米政権の対応のまずさが指摘されていることもドル売りの一因という声もある。

こうして米国の政治・経済・社会への不安がドル売りとして現れていると考えるのが最もふに落ちるが、だからといって米国債が手放され、利回りが顕著に上昇しているわけではないため、金融市場が米国に対して心底不安を抱いているわけでもあるまい。

あくまで「米国不安を映じたドル安」は、もっともらしいマーケットトークに過ぎないと考えられる。そもそも2014年6月から始まったドル高局面は長過ぎた。変動為替相場制の下で想定されるべき揺り戻しが起き始めているという考え方もある。

<ユーロと円の違い>

とはいえ、ドル全面安の中、3月の安値から最大で12%以上も上昇したユーロの動きはひときわ目立つ(1.06ドル付近から1.19ドル付近へ上昇)。もちろん、7月以降、円も対ドルで騰勢を強めたが、104円台までは買われたものの、年初来高値(101.18円)までは至らなかった。こうした動きを踏まえ、「ユーロにあって円に無いもの」を検討する価値はある。

もちろん、それは1つや2つではないが、例えば、最もシンプルな理由として「主要国の中で欧州の立ち上がりに最も期待できそうだから」という考え方はあり得る。6月に改訂された国際通貨基金(IMF)世界経済見通しでは、2020年こそユーロ圏の成長率は日米欧で最低となりそうだが、21年にかけての戻りに着目した場合、日米よりも大きな伸び幅が予想されている。

ちなみに単一通貨ユーロが誕生した1999年から2019年までの21年間について、ユーロ圏の成長率が米国のそれを上回ったのは7回だけだ。その際、最も両者の成長率が乖離(かいり)したのが米同時多発テロ攻撃のあった2001年であり、1.2%ポイント、ユーロ圏(2.2%)が米国(1.0%)を上回っていた。

しかし、現在のIMF見通しに基づけば、21年はユーロ圏(6.0%)が米国(4.5%)を1.5%ポイント上回ることになり、過去最大の欧米逆転という構図になる。新型コロナウイルスの感染防止についても米国が大きく劣後している印象があり、「長い目で見て、ドルよりもユーロの方が安心して買える」という思いが、芽生えている可能性はある。

<圧倒的な貿易黒字>

ほかに「ユーロにあって円に無いもの」は、何が考えられるだろうか。筆者は経常黒字構造の違いは見逃せない論点だと考えている。単純に経常黒字額に着目した場合、ユーロ圏は世界最大、日本は世界第2位の規模を誇っている。

例えば2019年の場合、ユーロ圏は3200億ユーロ(季節調整前、以下同じ)の黒字で、GDP比ではプラス2.7%に相当した。これは3220億ユーロにおよぶ貿易黒字によって稼ぎ出されたものである。

周知の通り、このユーロ圏が誇る世界最大の経常黒字および貿易黒字はほぼドイツに由来する。2019年、ドイツの経常黒字は2455億ユーロであり、このうち貿易黒字は2213億ユーロだった。ユーロ圏の経常黒字は確かに世界最大だが、ドイツ単体でも世界最大であり、19年までに4年連続で世界最大の経常黒字国である。

これに対し、日本の経常収支は20兆円の黒字で、GDP比ではプラス1.7%だ。経常黒字の大きさは世界第2位だが、このうち貿易黒字は3812億円にとどまる。片や、第1次所得収支は21兆円の黒字であり、これが経常黒字のほぼ全てを支えている。

つまり、日欧ともに経常黒字大国であることは共通しているが、ユーロ圏は財を売ることで、日本は過去の投資からの収益を得ることで外貨を得ているという大きな違いがある。この違いは為替相場への影響を考える上で小さくない意味を持つ。

というのも、第1次所得収支を構成する証券投資収益や直接投資収益は、外貨のまま再投資される部分が相応に大きい項目として知られる。つまり、外貨売り・自国通貨買いに必ずしもリンクせず、黒字額がそのまま通貨高圧力に転化されるとは限らないのである。

他方、貿易黒字は外貨の売り切り(自国通貨の買い切り)となることが期待される。巨額の経常黒字を理由に上昇が期待されるとしたら、それは円よりもユーロの方である。これが「ユーロにあって円に無いもの」の象徴ではないか。

<「新しい安全資産」の誕生なのか>

こうした貿易黒字に裏打ちされた圧倒的な「実需のユーロ買い」のほか、復興基金を契機に「新たなユーロ建ての安全資産市場の誕生」という期待が芽生えた可能性に思いをはせるのも面白いと筆者は思っている。実際のところ、これは外貨準備運用を司るリザーブプレーヤーにとって重要な話である。

既報の通り、7500億ユーロの規模を有する復興基金の大部分は欧州委員会が欧州連合(EU)債として調達する。年限や金利、格付けなどは不明だが、過去に発行された欧州金融安定ファシリティ(EFSF)や欧州安定メカニズム(ESM)が発行した債券の例を見れば、最高格付けで発行されるはずだ。

この点、「ユーロ圏に大きな市場を持った安全資産が誕生する」という期待が生まれても不思議ではなく、それはリザーブマネーを引き付ける一因になった可能性はある。こうした動きは明らかに「ユーロにあって円に無いもの」であり、買い材料になり得る。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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編集:田巻一彦

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