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コラム:バイデントレード、それだけでない人民元高の要因は何か=唐鎌大輔氏

[東京 23日] - いよいよ米大統領選が近づき、米国の政治情勢を巡るヘッドラインがひときわ騒がしくなっている。金融市場でもこれに右往左往する時間帯が目立つようになってきた印象だ。例えば、為替市場では、注目されやすいG3(ドル、円、ユーロ)通貨の値動きこそ乏しいが、中国の人民元を巡る動き、具体的にはその上昇の勢いが耳目を集めている。21日には、人民元は対ドルで2018年7月以来の高値を付け、今や中国人民銀行(PBOC)がどこまでこの動きを容認するかに関心が集まりつつある。

10月23日、いよいよ米大統領選が近づき、米国の政治情勢を巡るヘッドラインがひときわ騒がしくなっている。写真は中国旗と人民元のイメージ写真(2020年 ロイター/Florence Lo)

後述するように、こうした元高は対米関係の改善や中国経済への前向きな評価を反映した動きと考えられるが、許容範囲を超えつつあるという当局の思惑も実際に見え隠れし始めている。今月10日、PBOCは金融機関が為替フォワードを通じた顧客向けの外貨買い(元売り)を行う際に預け入れていた元本20%相当の外貨リスク準備金を12日から撤廃すると表明した。

この外貨リスク準備金とは要するに「元売りを行う金融機関への罰金」であり、2年前に、元安の動きが懸念される局面で導入された措置である。これが最近の元高に対抗すべく撤廃されたということは、その効果はさておき、元高を不快に思い始めている証左と見受けられる。

各種の世論調査で優勢が伝えられる米民主党のバイデン候補は、親中派と形容されることが多い。ゆえにバイデン候補が優勢になるほど米中関係の緊張緩和を期待した元買いが入りやすいと考えられてきた経緯があり、実際、その予想される勝利確率と元相場の動きは連動している。

バイデン候補の副大統領時代、訪中時に対米輸出規制緩和と引き換えに元高を容認したという過去も引き合いに出されるなど、「政治的に見れば元は買い」との判断が幅を利かせやすい環境がある。思い返せば、ちょうど1年前は米中貿易摩擦を巡る緊張が極まる中、ドル/人民元CNY=が大台となる7.0元に乗せ、定着していた。流れが変わった背景に「トランプからバイデンへ」という政治的な読みがあるのは、ある程度確かなのだろう。

<金利差に素直に反応した元買いも>

だが、そうした政治的材料によらなくても、元高の動きはファンダメンタルズから正当化できる部分がある。具体的には、金利および需給といった為替変動の基本要因に照らしても元高は正当化される。

例えば金利だ。周知の通り、コロナショックを経てG10通貨は、ほぼ全ての通貨がゼロ金利(以下)に集約されており「金利差なき世界」が定着している。

その結果、2国間の金利差から通貨ペアの動きを議論することの意味が乏しくなってしまったことは承知の通りである。しかし、コロナショックからの景気浮上に関しては、他国対比で優勢なポジションにある中国の金利は足元で、明確に上昇基調にある。米中10年金利差(中国─米国)とドル/人民元は安定した関係にあり、現在の人民元急騰の背景には、米中金利差の拡大が寄与していそうなことは想像に難くない。

言い換えれば、こうした状況は「景況感格差に応じた元買い・ドル売り」という理解にもなる。今後、米中経済の立ち位置が簡単には変わらないことを踏まえれば、当面、元高・ドル安の持続は期待されやすくなる。本当にバイデン大統領が誕生すれば、その動きはさらに加速するという可能性にも留意したいところだ。

<大幅な黒字復活>

そうした金利の視点に加え、需給の視点からも元買いは正当化できる。上述したように中国はコロナショックからの経済活動の正常化のテンポが、他国対比で迅速であることが評価されている。中国から海外への輸出増加、ひいては貿易黒字の増加はその象徴と言える。また、貿易収支に限らず、近年、断続的な赤字に転落していた経常収支も黒字幅が拡大しており、元高を考察する上で特筆すべき事実と考えられる。

経常黒字幅が拡大している理由は2つある。1つはサービス収支赤字の縮小、もう1つは輸出の拡大だ。まず前者に着目すると、近年、中国の経常黒字水準が切り下がり、断続的には赤字になることもあった背景には、中国から海外への旅行客が増加し、旅行収支の赤字によってサービス収支の赤字が拡大していたことがある。

だが、コロナ禍ではこれも難しくなり、サービス収支赤字は直近4─6月期では前年同期と比較して半減している。もちろん、サービス収支の受け取りと支払いに関し、後者が大幅に減少したことの結果だ。具体的には同時期のサービス収支の支払いは前年比で約30%減少している。

また、貿易黒字(4─6月期)は前年同期比で3.6倍に急増した。これは輸入が横ばいとなる一方で、輸出が急回復を果たしていることの結果である。世界に先駆けて生産活動を再開した中国の強みが、ここにはっきりと出ていると言える。

こうした貿易サービス収支の改善に起因して「実需の元買い」がにわかに強まっていることは明らかであり、これまで指摘してきた政治的要因や金利要因も相まって、買いが買いを誘うような地合いになっていると推測される。

今後はPBOCに代表される中国政府の動きに注目である。現在の金利水準にもはっきりと示されるように、中国経済の堅調さが世界でも頭1つ抜け出しているのは事実であり、この構図は当面変わらない公算が大きい。とすれば、中国は通貨高を通じて「不況を輸入する」という展開を警戒することになるだろうし、既にその兆候は出始めている。

先に触れた外貨リスク準備金撤廃などは、そうした政策当局の警戒の一端を示したと言えるだろう。為替市場全体にとっては、こうした元全面高がどこまでドル相場を押し下げ、他通貨ペアの動きに波及するかが注目である。

10月に入って対ドルでの人民元買い、そしてユーロ買いが強まることでドル相場が押し下げられ、結果的に円相場も上昇するという時間帯がいく分か見られている。米大統領選をまたいで、そのような地合いが強まる可能性もあるため、大いに注目したい。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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編集:田巻一彦

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