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コラム:日銀化するECBの政策ロジック、目標達成は可能か=唐鎌大輔氏

[東京 25日] - 12月に入ろうというところで欧州中銀(ECB)政策理事会の「次の一手」に関する事前報道が増えている。これは12月の日米欧で開催される金融政策決定会合に関して追加緩和が見込まれるのがECBのみであり、中央銀行関係では年内最後の注目イベントだからだろうか。

 12月に入ろうというところでECB政策理事会の「次の一手」に関する事前報道が増えている。写真はECBのロゴ。フランクフルトで1月撮影(2020年 ロイター/Ralph Orlowski)

この点、11月22日にECBのチーフエコノミストであるレーン理事が仏紙レゼゴーと行ったインタビューの一問一答がECBサイトで公開されているので、12月政策理事会のプレビューもかねて取り上げてみたい。

現在、政策運営の理論的支柱でもあるレーン理事の考えは大いに参考になる。というのも、ラガルドECB総裁は金融政策に明るい人物ではなく、運営の核心はレーン理事が握っているとの声もあるからだ。インタビューの中で記者からの「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を止める基準をどう考えるのか」との質問され問いに対し、レーン理事は「一定の条件(certain condition)が満たされるまで、PEPPは停止しない」と回答している。

市場参加者としては、この「一定の条件」が知りたいわけだが、これに関しては「第1に、パンデミックが経済活動を妨げないこと」と述べ、その上で「景気回復とインフレ動向を判定する基準も設定しなければならない」としつつ、後者の論点は「まだ考えるのは早い」と整理している。

こうした2段論法はレーン理事がジャクソンホール経済シンポジウムで展開したロジックを踏襲している。次回会合のヒントになる部分としては「PEPPは2021年6月末まで続くように設計されているが、我々は常に危機局面が終わるまでは続けると述べてきた」と述べたことが見逃せない。

これは6月末の期限が最低でも12月末まで延期されることを示唆しているだろう(3カ月間の延長という小出しは考えにくい)。そうなれば6カ月分に対応してどの程度の「量」拡大が必要になるのかを考えれば良い。

筆者は、これまでの月間平均使用額から類推するに5000億ユーロが落としどころではないかと踏んでいる。PEPPは総枠1.35兆ユーロのうち、まだ半分近く余力を残しているのだから、それでも十分過ぎる延長・拡大と言えるだろう。 

<「普通の政策」になったPEPP>

上述のレーン理事による発言でも示唆され、また、最近の政策会合後の記者会見でもラガルド総裁が繰り返すように、PEPPには2つの役割(a dual role)があるとされている。

それは、1)市場を安定化させ政策波及経路を修復すること、2)景気刺激策として物価を引き上げること──の2つである。PEPPは普通の資産購入プログラムとは異なり、出資金比率(capital key)や購入対象資産の格付け、月間の購入額など、細かな仕様に配慮せずに購入できる柔軟性(flexibility)が強みだと、繰り返し言われてきた。これは1)の役割をこなすにあたっては、多くの制約が「大事の前の小事」だったからである。今年2─4月が確かにそういう局面だったことに異論はない。

しかし、イタリア10年国債利回りまでもが史上最低を更新する中、1)の役割は終えたと言って差し支えない。当初、緊急対応策として生まれたPEPPが今もメインツールとして残されているのは、ひとえに2)に論点を依拠しているからだ。

こうしたロジックは今年6月にPEPPが拡大された際、耳目を集めた。6月会合でラガルド総裁は記者から「PEPPは緊急策で一時的という位置づけではなかったのか」との問いに関し、PEPPには2つの目的(dual keys)があると述べ、上述のロジックを展開して見せた。こうして3月臨時会合で導入された3カ月後に、半ばなし崩し的に「普通の政策」として淡々と扱われるようになったのである。ドイツを筆頭とするタカ派勢力はこうした動きに納得していないだろうが、緊急事態の最中、目立った反論は避けられているのが現状である。今後、経済・金融情勢の落ち着きと共にECB内部に亀裂をもたらす種になる懸念はある。  

<運営全体を貫く「2段階アプローチ」のロジック>

PEPPの運営にまつわる2段論法は、現在のECB政策運営全体に貫かれているロジックでもある。レーン理事は今夏のジャクソンホール経済シンポジウムでのECB政策スタンスについて「2段階アプローチ(a two-stage approach)」だと称している。詳しくは講演を参照してほしいが、第1段階でパンデミック以前の物価軌道に復した後、第2段階では(第1段階とは異なった手段で)物価目標に到達させるというロジックである。講演でレーン理事は「第1段階の責務を完遂するための手段がPEPP」と述べている。PEPPの継続によってパンデミック以前の物価軌道に戻ったことが確認されて初めて停止が検討されるのであり、この点は上で紹介してきた一連の発言と平仄(ひょうそく)が合う。

PEPPを受けて正常な物価軌道に戻れば、第2段階ではパンデミック後の政策スタンスとして、新しい政策運営に切り替えていくという説明である。この第2段階における手段は現時点で不明だが、PEPPほど大がかりな政策ではないという意味で従来型の拡大資産購入プログラム(APP)やフォワードガイダンスなどに軸足が移されていくのだろう。

こうした政策運営のイメージは、図を用いて非常に分かりやすく解説されているので、関心のある読者は講演の資料(*)を見てみると良いだろう(*ECB “The pandemic emergency: the three challenges for the ECB” Speech by Philip R. Lane)

なお、「2段階アプローチ」は「市場との対話」においても今のところ違和感なく受け入れられているように見受けられる。しかし、このようなECBによる一連の情報発信は、黒田日銀が発足直後から展開されてきた「大胆な金融緩和で期待に働きかけ粘着性の強いデフレマインドを払拭し、インフレ期待を持ち上げる」という主張に酷似している。

量的・質的金融緩和という経験の無い緩和で一気呵成(かせい)に、政策を出し惜しみすることなく畳みかければ、物価情勢も変わってくるはずだ、という半ば精神論じみたアプローチは、導入当初、説得力を持って市場で持てはやされた。

だが、最終的に日本の経済・物価情勢が金融政策だけでは変えられないことが概ね実証されたことを思うと、ECBおよびユーロ圏の今後を待ち受ける展開については、やはり楽観視できないように思える。

元よりユーロ圏の日本化、ECBの日銀化が叫ばれて久しいが、ここにきて政策運営を貫くコンセプトまでも、ますます酷似してきたという印象が抱かれ、先行きに明るい展望を持つことができない。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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編集:田巻一彦

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