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コラム:23年4月以降の日銀、想定される対応は何か=唐鎌大輔氏

[東京 19日] - 日銀は18日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定した。1月14日のロイター英語報道を受け、消費者物価指数(CPI)が前年比プラス2%に到達する前にマイナス金利の解除(すなわち利上げ)に踏み切る可能性が取りざたされていたが、とりあえずは一過性の騒ぎで終わりそうである。

 日銀の正常化を巡っては今後も観測が交錯するだろう。現行体制が2023年4月8日で終わり、新体制の人事はアベノミクス路線とは距離がありそうな岸田文雄政権が差配することを踏まえれば、徐々に、しかし確実に従前の路線は転換が志向される可能性もある。唐鎌大輔氏のコラム。写真は2016年9月、都内の日銀本店で撮影(2022年 ロイター/Toru Hanai)

<日銀、物価上昇は一時的と整理>

注目された展望リポートにおけるCPI見通し(コアベース)は、2022年度が同0.9%から同1.1%へと0.2%ポイント、2023年度が同1.0%から同1.1%へと0.1%ポイント引き上げられている。要するに「2022年度から2023年度へのインフレ加速は無い」という建付けであり、あくまで円安・資源高の流れをくんだ一時的な騰勢で収束するという整理だ。

物価見通しのリスク評価が2014年10月以来で初めて「おおむね上下にバランスしている」と中立に引き上げられてはいるものの、コアCPIの見通しが伸びない以上、金融緩和を手仕舞いする議論にまでは及びにくい。

<YCCにおける金利水準>

もっとも、ロイター報道に関してはいったん片が付いたとしても、日銀の正常化を巡っては今後も観測が交錯するだろう。現行体制が2023年4月8日で終わり、新体制の人事はアベノミクス路線とは距離がありそうな岸田文雄政権が差配することを踏まえれば、徐々に、しかし確実に従前の路線は転換が志向される可能性もある。

2023年4月に段差を伴った正常化プロセスを始めてしまうと市場に混乱をきたしかねないため、地ならし作業は2022年度中に少しずつ始まっても不思議ではない。ロイター報道を契機として改めて周知されたように、現行の枠組みでは緩和路線を主張したまま利上げを敢行することが可能である。「利上げだが、実質的には緩和だ」と主張する可能性もなくはない。

今回の声明文にも示されるように、あくまで日銀は「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する。マネタリーベースについては、CPI(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」としか述べていない。

マネタリーベースは拡大方針だが、政策金利の低位安定、ましてマイナス金利を約束しているわけではない。イールドカーブコントロール(YCC)は日銀の推計する均衡イールドカーブに対して現実のイールドカーブを低め誘導することで緩和効果を確保するという枠組みだ。

経済・金融情勢が変われば均衡イールドカーブも当然上下動する。ということは、従前と同じ緩和効果を確保するために現実のイールドカーブが上下動することも想定され、その結果がマイナス金利なのかプラス金利なのかは「2次的」な話でもある。

もちろん、声明文には『当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定』とあるので、利上げはあり得ないという考え方もある。

だが、そもそもオミクロン変異株への政府の対応が過剰だという批判が少なくない中、この文言だけで市場における利上げ観測を払拭するというのは、心もとないと言える。

<「悪い円安」論と正常化>

もちろん、過去のトラウマから円高を懸念する声が根強いのは理解できる。しかし、貿易黒字が消滅し、経済・金融情勢について内外格差が著しく拡大している今ならば、円高余地は限定される。そもそも資源高の最中で「悪い円安」が社会問題化しそうな雰囲気を思えば、多少の円高は日本経済にとって容認可能という考え方もある。逆に円安進行は容認できないのではないかという意見に合理性がある。

仮に円安是正を念頭に置いた場合、普通に考えれば金利を引き上げるのが常とう手段である。「マイナス金利を放置したまま通貨安を懸念する」というのは、余りにも矛盾をはらみ過ぎる姿勢である。

もちろん、日銀の一手だけで変動為替相場の潮流が変わることはないだろう。しかし、本当に通貨安を抑止したいと考えた場合、筋論として日銀がマイナス金利を解除するというステップは自然に入ってくるということは認識しておきたい。

なお、黒田総裁は「利上げとか、現在の緩和的な金融政策を変更することは全く考えていないし、議論もしていない」と一蹴している。ただ、マイナス金利に関して言えば、2016年1月に導入される直前までその可能性を国会答弁で否定していたのだから、額面通り受け止めるのは危い。

<「利上げは追加緩和」のロジック>

どこかの時点で日銀が何らかの正常化を検討するならば、米連邦準備理事会(FRB)が極端にタカ派に傾斜している現状は最適の環境と考えられるが、既にその姿勢にはオーバーキル懸念も漂い始めている。とすれば、年内を千載一遇の好機として正常化プロセスの議論を緩やかに探ることは合理的に思える。

具体的な手順を検討するのは気が早いが、初手はいきなり利上げではなく、常々うわさされては消えてきたYCCにおける操作対象年限の短期化(長期の目標を10年から5年に変更)を通じてイールドカーブを立たせる作業などが予想される。

どこの中銀でも総裁退任に合わせて花道利上げ論は出やすいが、日銀の場合、花道利上げ論よりもマイナス金利解除(利上げ)が新体制の旗印として使われる可能性もあるだろう。

上述したように、YCCの枠組みでは金利水準を修正すること自体は緩和姿勢の修正に該当しない。これまでマイナス金利政策について経済・金融情勢を毀損(きそん)する低過ぎる政策金利(リバーサルレート)だという批判があったことを踏まえれば、操作対象年限の短期化もマイナス金利解除も、「むしろ追加緩和だ」と強弁してくる可能性もある。

現に特別当座預金制度など、マイナス金利の弊害を緩和するための措置を打っているのだからマイナス金利が根本的に撤回されても不思議ではない。いずれにせよポスト黒田体制を見据えた正常化議論は拙速には進まないと思われるものの、頭の体操もかねて想像しておいた方が良さそうではある。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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