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コラム:堅調なユーロ相場に潜むリスク、鍵握るドイツの動向=唐鎌大輔氏

[東京 21日] - 11月に入り、ユーロ相場は対ドルでのパリティ割れから復帰するなど堅調さが目立ち始めているが、これは米欧金利差と整合的な動きではある。

 11月21日、 11月に入り、ユーロ相場は対ドルでのパリティ割れから復帰するなど堅調さが目立ち始めているが、これは米欧金利差と整合的な動きではある。写真はユーロ紙幣。7月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

例えば、米独2年金利差とユーロ/ドル相場を同じ図にプロットしてみれば、その関係性は非常に安定している。もとより米金利とユーロ相場の安定した関係は欧州中銀(ECB)政策理事会の議事要旨などでも言及されている事実ではある。

おりしも10月米消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)の失速を契機に米金利が押し下げられる一方、ユーロ圏にはこれといったインフレ抑制に関する情報が見出せない。当然、この格差は双方の金融政策格差、端的には金利差として表れる。

もっとも、ユーロ圏は払しょくできないインフレ懸念がそのままスタグフレーション懸念として居残っている状況でもあり、素直に金利高を通貨買い要因として処理すべきなのかどうかは疑問だ。

また、仮に金利水準の高低だけで議論をするにしても、ドルのユーロに対する優勢はどこまで続くのか。過去1年間を振り返っても、ECBの政策運営は米連邦準備理事会(FRB)のそれ以上に場当たり的であり、「朝令暮改」も珍しいものでない。

この先、FRBが利上げ幅を縮小させるタイミングでECBも同じ挙動に至っている可能性は否めず、果たしてユーロ圏における相対的な金利先高観がいつまで続くのか確証は持てない。「金利要因でユーロ買い」という姿勢を当然視することに危うさは伴う。

<盤石でない金利先高観によるユーロ高>

金利についてもう少し議論を進めると、2023年6月までの利上げ織り込みに関し、FRBは5%付近に到達、ECBは3%付近に到達というのが本稿執筆時点の市場織り込みである。

両者の金利先物市場を比較すると、わずかずつだが、ECBのFRBに対する劣後が小さくなっていくイメージがある。本当にこうした展開をたどるとすれば、期待を先取りする市中の金利では、より顕著に金利差の縮小が可視化されてくる可能性がある。

上で見たようにインフレ情勢を見る限り「FRBの利上げ停止後にECBが利上げ継続」という可能性はかなり残るため、この織り込み以上にユーロがドルに対して金利差を詰めてくる展開は確かに否めない。

もっとも、そうならないリスクも相応にある。今は米国のインフレピークアウトが「旬な材料」と見なされているため、ユーロ圏の高物価・高金利が評価されやすいが、実体経済の失速感は明らかにユーロ圏の方が大きい。

また、米国のインフレピークアウトに賭けて、来春ごろの利上げ停止を当て込む期待が本当に正しいかどうか。この点も定かではない。利上げ幅が25bpまで縮小した後、利上げ路線自体が粛々と継続される可能性はある。

「インフレは一時的」と評価して、失敗した経験を繰り返すわけにはいかない。パウエルFRB議長はそう考えているはずである。折に触れてボルカー前FRB議長時代のインフレ退治を例に挙げるようになっていることにも、その思いは透ける。仮に各種インフレ指標が2%に収束しても平均インフレ目標の考えを持ち出すことで、引き締め姿勢を続けようとする可能性もある。

リスクを考えればきりがないものの、金利先高観がユーロ相場の支えになるという地合いは、盤石とは言い難い印象もある。

<強みだった需給環境が足かせに>

足元では金利要因が追い風である一方、需給要因は逆風である。資源価格はピークアウトが見られるものの、依然高止まりしている。また、世界経済が減速局面にある中ではもともと外需依存度が高いユーロ圏経済は下押し圧力が強まりやすい。

市場では話題になりにくいが、ユーロ圏全体の経常収支は刻一刻と悪化しており、ユーロ相場軟化の主因となってきた感が強い。ユーロ圏の経常収支は2017─2021年の5年平均で金額としては年間で約3600億ドル(140円換算で約50兆円)、国内総生産(GDP)比率で見れば2.5─3.0%ほどの黒字を継続してきた。GDP比はともかく、金額としては他の追随を許さず世界最大であり、これがユーロ相場の大崩れしない理由として指摘されてきた。

なお、欧州債務危機が本格化する2009年以前、ユーロ圏の経常収支はほぼ均衡状態にあり、断続的な赤字も珍しくなかった。その中でもユーロ相場が急騰した時代はあったのだが、これは欧州債務危機が起きるまでのユーロは「第二の基軸通貨」という「ナラティブな期待」が先行し、世界の外貨準備に占める割合が30%弱(現在は20%強)もあるという特殊な状況にあった。需給環境の支えが無くても、市場期待で十分支えられる環境にあったと言える。

しかし、そうした期待が存在しない現状では、ユーロが買われるためには金利や需給といった確かな材料が必要なのだと考えられる。その意味で慢性化(かつ巨大化)した経常赤字している状況下、ユーロ相場には足かせがはめられていると言える。

<需給要因は追い風に転じるか>

だが、今後を見通すと需給要因は逆風から追い風に転じる可能性もある。今年、欧州は例年になく暖冬で燃料価格に関する混乱が抑制される可能性が指摘され始めている。もちろん、「今のところは」という条件付きだが、そのおかげで天然ガス価格は今夏の急騰以前の水準まで下落し、ロシアのウクライナ侵攻以前の水準も目前に迫っている。

このまま春を迎えることができれば、節電効果も相まって値崩れが始まっている天然ガス価格などもさらに低位安定が期待できる。結果としてドイツ貿易収支が改善し、ユーロ圏全体の経常収支も黒字も復元されてくるだろう。

日本と違い、ドイツは輸出拠点としてのパワーが失われているわけではなく、輸入金額さえ抑え込めれば黒字復元は早いと思われる。そうなれば金利要因に加え、需給要因でもユーロを再評価する流れに期待が持てないだろうか。現状のところ、筆者は金利よりも需給を見直す構図で、ユーロに買いが戻ってくる展開を2023年春以降に想定したいと考えている。

<独・ロ・中の思惑>

欧州、特にドイツに絡んでは政治的に気になる動きも目立つ。政治面ではショルツ独首相の突然の訪中やハンブルク港運営会社に関する中国への株式売却などが意味するところに注目している。果たしてショルツ政権の中国に対する一連の挙動は、ドイツ政府の一存で行われたことなのか。

新体制となった中国からすれば、このタイミングでの独中接近が西側陣営に対するけん制にもなり得るだろう。それは苦しい戦況が断続的に報じられる、中国と親しいロシアにとっても悪い話ではない。

例えば、ロシアの対ドイツや対欧州連合(EU)のエネルギー政策が軟化することと引き換えに(今は破損してしまっているがノルドストリーム2の稼働などと引き換えに)、ロシアがドイツの訪中を促したということはないのだろうか。

もちろん、これらは想像の域を出る話ではない。単純に中国に接近しなければならないほどドイツ経済が追い込まれているだけかもしれない。しかし、今後のロシアの対ドイツ・対EUのエネルギー政策が柔軟化してくるのだとすれば、金融市場にとっても無視できない話ではある。

欧州が直面するエネルギー危機に関し、独ロ関係が改善することを起点して薄日が差し込むような展開があり得るのか。そうした外交動向はエネルギー価格を通じて金融市場にも影響を持つだろう。経済・金融情勢のみならず、そうした外交情勢、それに加えて天候情勢(暖冬の持続可能性など)も踏まえ、ユーロ相場の今後を議論する必要がある。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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