February 15, 2019 / 5:57 AM / 7 months ago

コラム:欧州経済の「命綱」、ドイツに景気後退シグナル点灯=田中理氏

[東京 15日] - 欧州経済のけん引役であるドイツ景気に暗雲が垂れ込めている。14日発表された2018年10─12月期の実質国内総生産(GDP)は前期からゼロ成長。前期比0.2%減だった7─9月期からはやや戻し、辛うじてテクニカル・リセッション(2・四半期連続のマイナス成長)は免れたが、年明け後の企業景況感は一段と冷え込んでおり、景気後退のシグナルが点灯し始めたといえよう。

 2月15日、欧州経済のけん引役であるドイツは、辛うじてテクニカル・リセッション(2・四半期連続のマイナス成長)は免れたが、年明け後の企業景況感は一段と冷え込んでおり、景気後退のシグナルが点灯し始めたと、第一生命経済研究所の田中理氏は指摘。写真はドイツ国旗。ベルリンで2017年11月撮影(2019年 ロイター/Hannibal Hanschke)

中国向けの輸出依存度が高いドイツ経済は、中国経済との連動性が高いことで知られている。今回の景気冷え込みの底流にも、米中間の貿易摩擦の激化に伴う中国景気の減速が少なからず影響している。

さらにドイツ経済省は、7─9月期に自動車の新たな排ガス試験対応の遅れで自動車生産が大幅に落ち込んだこと、10─12月期にライン川の水位低下による物流遮断で流域にある化学関連企業が生産を抑制したこと、英国の欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」に備えた医薬品の在庫確保の動きが一服したことが、下押し要因として働いたと説明している。

確かに、こうした一過性の要因が影響した面もあるが、ドイツ経済が一時の自信と輝きを失ってきているのは紛れもない事実だ。

<不安なシグナル>

月次の生産統計で自動車生産の落ち込みに歯止めが掛かっており、干ばつによるライン川の水位低下も昨年12月中には解消に向かっている。失業率は歴史的な低水準にあり、当初回復の遅れていた賃金も上昇傾向が鮮明となっている。

緊縮一辺倒とみられがちのドイツの財政運営も、今年はわずかに拡張的な予算を組んだ。外需の冷え込みを好調な内需がカバーしており、一過性の下押し要因が剥落すれば、ドイツ景気は再び安定成長軌道に復帰するとの見方が、政策関係者も含めた当面のコンセンサスだろう。

ただ、不安なシグナルはそこかしこに広がっている。

一時的な下振れと説明される自動車生産は、新たな排ガス規制の影響が一巡したはずの昨年秋以降も、緩慢な回復にとどまっている。最新の政府統計である昨年12月は大きく反発したが、7月以降の落ち込みを取り戻せていない。さらに業界団体が発表した1月の数字は、前月比で再び落ち込んでいる。国外で発生した一部部品メーカーのストライキが影響したと説明されているが、排ガス不正問題の余波も続いており、構造不振の面もありそうだ。

また、2017年11月から約1年間で40%近くも増加した医薬品の生産は、昨年10月と11月の2カ月間だけでそこから30%近くも減少している。同様の動きはアイルランド向けの医薬品輸出でも確認され、英国の「合意なき離脱」に備えた在庫確保の動きであるとか、離脱後に備えて輸入元を英国企業からドイツ企業に変更した可能性などが指摘されてきた。だが、それでは昨年10月、11月の急激な落ち込みを説明できない。

さらに重要なのは、特殊要因が影響したとされる自動車、化学、医薬品を除いた生産活動の勢いもすう勢的に鈍ってきていることだ。

<労働市場にも異変>

良好な雇用・所得環境に支えられた内需が当面はドイツ景気の下支えとなりそうなのは確かだ。景気拡大が長期化する中、ドイツの失業率は東西ドイツ統一後の最低水準を更新し続けている。

ただ、ここにきて労働市場の改善基調にもやや陰りが出始めている点には注意が必要だ。

労働力人口に占める失業保険の申請者数の割合は、昨年11月に史上最低の5.0%に低下した後、過去3カ月は横ばいで推移している。今年に入って減少ペースが大きく縮小しているものの、失業保険の申請者数は前月比で19カ月連続減少している。同申請者数は昨年1年間、1カ月平均1万5000人減少していたが、今年の1月はたったの2000人の減少にとどまった。

このように労働需給が逼迫(ひっぱく)傾向にあるにもかかわらず、賃金は長年上昇が抑制されてきた。だが、景気回復の長期化とインフレ率の底入れもあり、昨年の賃金交渉では高めの賃上げ妥結が相次いだ。ドイツ全体の平均賃金もようやく上昇傾向が鮮明となってきた。こうした影響はしばらく残存し、インフレ率の上昇抑制と相まって、家計の購買力の押し上げに働くだろう。

しかし、雇用や賃金は一般に景気の遅行指標であることも忘れてはならない。代表的な企業景況感である購買担当者指数(PMI)の雇用判断は、製造業・サービス業ともにまだ雇用の拡大を示唆する状況にあるが、徐々に水準を切り下げている。今後は内需の下支えも少しずつ弱まってこよう。

<もはや一時的ではない景気下振れ要因>

世界的な景気拡大、欧州中央銀行(ECB)による大規模金融緩和とそれに伴うユーロ高抑制、欧州債務危機時に手控えられてきたユーロ域内の経済活動のキャッチアップなどに支えられたドイツ経済の好調は、既に一昨年の終わりごろには陰りが出始めていた。その後、上記に挙げた以外にも、天候不順による建設活動の停滞など、さまざまな一時的要因が入れ替わり立ち替わり景気の足を引っ張ってきた。

ただ、一時的な要因とされる景気の下押しが既に1年以上も続いており、もはや一時的とは呼べなくなりつつある。過去数カ月、企業の業況判断は急速に慎重な見方を強めており、いよいよ企業も生産計画や採用計画を見直し始めている。

現時点でドイツ景気の実勢は、どうにかプラス成長を維持している段階と判断されよう。ただ、ここから新たな外的ショックが加わったり、景気停滞が一段と長期化したりすれば、本格的な景気後退に陥る瀬戸際に差し掛かっている。

不安要素には事欠かない。3月1日を次の期限とする米中通商交渉の行方は引き続き予断を許さず、その余波はドイツの輸出企業へも飛び火しかねない。米商務省は2月17日までに通商拡大法232条に基づく自動車輸入の調査結果をトランプ大統領に報告する見通しで、その内容次第ではドイツの自動車メーカーが新たな標的となる恐れもある。3月29日の期限まで40日余りとなった英国のEU離脱が合意なきものとなれば、英国向けに多くの製品を輸出するドイツ企業にとっても対岸の火事ではなくなる。

筆者は長年、経済情勢を調査する業務に携わっているが、トレンドからかい離した経済データの上振れや下振れに直面したエコノミストは、特殊要因がないかあれこれ詮索するものだ。こうした職業特性もあり、エコノミストは一般に景気の転換点を事前に言い当てるのがあまり得意とは言えない。ドイツの景気下振れを特殊要因で説明してばかりでは、大きな変化を見落とす恐れがある。「木を見て森を見ず」となっていないか、筆者の頭の片隅でも警戒信号が点滅し始めている。

田中理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト(写真は筆者提供)
 2月15日、欧州経済のけん引役であるドイツは、辛うじてテクニカル・リセッション(2・四半期連続のマイナス成長)は免れたが、年明け後の企業景況感は一段と冷え込んでおり、景気後退のシグナルが点灯し始めたと、第一生命経済研究所の田中理氏は指摘。ラシュタットの自動車工場で4日撮影(2019年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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編集:伊藤典子

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