June 9, 2020 / 5:48 AM / 23 days ago

コラム:先々の業績を織り込む市場、株価回復のからくり=木野内栄治氏

[東京 9日] - 新型コロナウイルスの感染拡大と原油急落を受けて大きく落ち込んだ株価が、ほぼ元の水準に回復してきた。米ナスダック総合指数は高値を更新し、S&P500や日経500種平均は前年末比で上昇に転じている。

 6月9日、新型コロナウイルスの感染拡大と原油急落を受けて大きく落ち込んだ株価が、ほぼ元の水準に回復してきた。米ナスダック総合指数は高値を更新し、S&P500や日経500種平均は前年末比で上昇に転じている。写真は2019年1月、東京証券取引所で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

足元の世界経済や日常の生活が大きく抑圧され、この先もすぐには元には戻らないと言われる中で、なぜ株式相場は戻りつつあるのか。今回のコラムではこのからくりを考えたい。

<経済の下押しは一時的>

株式を考える前に、4月のWTI先物相場を振り返りたい。2020年5月限の清算価格は4月20日にマイナス37.63ドルと大きなマイナスとなった。たしかに、コロナ禍によって失われた原油需要は日量2000万─3000万バレルとも推計され、減産幅日量1000万バレル程度では焼け石に水だった。

しかし、同じ日の2021年5月限は34.68ドル/バレルと正常な価格であった。さらに10年後の2030年5月限は56.63ドル/バレルと、主要産油国が参加する「OPECプラス」で減産が決裂した前日の価格(3月5日、50.6ドル/バレル)を上回る水準で引けていた。

つまり、コロナによって原油需要が下押しされるのは一時的であって、1年後からそれ以降は大きな悪影響はないとの価格形成だったと言える。この市場の判断は今日においても変わらず、WTI先物価格はどの限月でもここまで上昇してきた。

こうした考えを国民生活や経済に広げてみたい。元には戻らないと言われるのは目先のことで、たとえば1年後からそれ以降は大きな悪影響はないと考えられる。だからこそ、例えば財政規律を重視するドイツ政府でさえルフトハンザ航空に1兆円規模の支援をするなど、既存産業を維持する方向でどの国の政府も努めている訳だ。

別の言い方をすると、経済回復パターンはL字ではなく、少なくともU字か上手くすればV字ということになる。

<今年だけの減益なら、日経平均の下押し幅は数百円>

次に、改めて理論株価の概念を思い出すと、将来の一株当たり純利益(EPS)を現在価値に割り引いた値の合計が現在の理論株価だ。少々単純化すると、1000円のEPSを20年分株価に織り込むと2万円の株価となる。

コロナ禍でこれらのEPSはどうなるだろう。前述した2030年5月限のWTI先物価格は、10年先のEPSもコロナ前の想定と変わらないことを示唆する。実際、10年後には有効なワクチンや薬品が開発されていると誰もが思うだろう。

将来のEPSがコロナの感染拡大で大きく下押しされるとは考えられないにもかかわらず、それでも株価が一時的に大きく下振れたのは、信用不安の台頭によって割引率が急騰し、20年分ものEPSを織り込めなかったからだ。この点は後ほど再考したい。

この様にコロナ禍はいずれ克服できると考えれば、それが3カ月なのか、2年かかるのかが不確実な部分だろう。そこで仮に1年だけの悪影響と仮定すると、今年だけのEPSが小さくなり、その後のEPSは以前想定していたものと変わらない。2年かかった場合でも3年目以降のEPSは変わらない。

例えば、今年4割減益だとしたら、今年棄損するEPSは今期分の400円だけ、2年続いたとしても800円だ。実は2万円の理論株価に対してそれほど大きな影響はない。

別の言い方をすると、経済回復パターンが、V字でもU字でも大きな差はないということになる。

<高い今期予想PERは金融政策がサポート>

遠い将来のEPSは確実な予想ができないので、目先の予想EPSが遠い将来まで続くと仮定するのが理論株価だ(正確に言えば、直近の予想PERが内包している足元の成長率を将来に延長していることになる)。今年だけ段差があるEPSを前提にPERを語るのは理論的に誤りだ。

逆に、足元の予想PERが異常に高いことは、予想EPSが今年だけの段差がある特殊なもので、かつ前節で触れた信用不安が払拭されたことを示唆している。

一方、信用不安の払拭策は米連邦準備理事会(FRB)が代表的で、実際、FRBの総資産規模は米国の予想PERと連動して見える。

これらの関係から見ると、現行の2.3兆ドルの買い入れ策が進めば、米株の予想PERは20倍台半ばが正当化される。株価は高値更新イメージだ。

こうした考えを読むとバブルと感じるかもしれないが、来期以降の業績から見ればバブルではないだろう。いずれ予想対象期間が2021年度などにシフトすることで予想EPSが回復し、その分PER低下が期待できるからだ。その時になって、FRBの総資産が圧縮されないと、必要以上の株価バリュエーション上昇となり得る。その段階が持続不可能なバブルと考えるべきで、そうした場面はまだまだ先だろう。

<踏み上げが出尽くすと戻り一巡か>

さて、米S&P500先物にある円換算4兆円超の投機筋の売りポジションが気になる。3月後半から積み上がっており、大きな損失となっているはずだ。2019年初めから春の状況に似ており、当時もパウエルFRB議長のハト派転換で株式はリスクオンとなり、ショートポジションは買い戻しを迫られた。

こうした需給構造を見て、株高の賞味期限はメジャーSQ(特別清算日)の算出日や、株式先物取引の満了日などが重なるウィッチングまでとの冷めた見方がある。しかし、そこには「元には戻らない」との思い込みがあるのではないか。

SQやウィッチングまでは買い戻しが進むと恐怖指数(VIX指数)などが低下するので、さらに今月末、来月初のアセットアロケーションの変更は、株買いと債券売りになる可能性が高まる。金利上昇の中ではバリュー株高に期待できる。上昇相場はSQやウィッチングまでと我慢した弱気派投資家も強気に転じるかも知れない。

ショートの買い戻しや踏み上げが出尽くせば、上昇相場はいったんの佳境となりやすい。株価理論からはほぼ元に戻ると言えるが、ほぼ元の水準までしか戻らないとも言える。踏み上げが出尽くした段階で、一時的に利食いスタンスに転じたい。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

木野内栄治氏

*木野内栄治氏は、大和証券 理事 チーフテクニカルアナリスト兼ストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2003年から16年連続で市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の常務理事も務める。

(編集:久保信博)

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